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開拓日記その一

 毎朝おなじみのことを言うとすれば、遊び人のレベルが1上がった。

 昨日はMPを消費し過ぎて疲れていたのが原因だ。


 そして、今朝、俺は店で大量の小麦の種籾を購入。

 あと、石屋に行き、石材もあるだけ購入してそれらをすべてアイテムバッグに入れた。


「……本当は一番欲しいのは人材なんだがなぁ」


 ぼやくように呟く。

 流石に人材は雑貨屋には売っていないし、これ以上奴隷の仲間を増やすつもりもない。

 マリナは同じ日本人として放置できないという事情もあり彼女の仮の主となったが、そもそも奴隷はハルとキャロの二人で十分だ。

 二人が同じくらい俺を大事に思ってくれている事実がある以上、二人を平等に扱わないといけないという意識がかなり強く、正直言葉ひとつ選ぶのにも苦労することがある。なんでハーレム漫画の主人公は何人もの女性を相手にできるのか。

 かといって、よく知らない、何の制約もない人材をあそこに連れていくわけにはいかない。そうすれば女神様に怒られてしまうからな。


 買い物を終えた俺は宿に戻った。


 宿に戻ると、マリナ以外が揃っていた。

 ハルとキャロはそれぞれ両手に荷物を持っている。


 予定時間より少し遅れて、マリナが戻ってきた。


「マリナ、遅かったな」

「……すみ……ません。店員さんになかなか話しかけられなくて」

「あぁ、まぁ、今日は仮面を渡さなかったからな」


 マリーナの意向により、こうして人見知り治療のため、仮面をつけない日を設定している。

 酒を飲まない休肝日のようなものだとマリーナは言っていた。


 でも、休肝日って、ある意味、お酒と長く付き合うために設定する日であり、マリナに仮面を手放してほしいと願っているマリーナが使う表現としてはおかしい気もするのだが、まぁ、彼女なりに前に進もうとしているのを揶揄するのもあれだし、黙っておくことにした。


「最初は誰が待機するんだ?」

「さ……最初は私です」

「そうか、じゃあしっかり留守番を頼むな」


 俺はそう言うと、部屋のベッドの上に手を伸ばし、 


「マイワールド」


 と叫ぶ。すると空間の裂け目が現れた。

 こんな妙なもの、他の人に見られたら怖いからな。

 かといって、中に入っている状態で、閉じていいのかどうか? そもそも閉じることができるのかどうかも確かめていない。


 そのため、ひとりが交代で見張りとして宿の一室に残ることにした。

 退屈を紛らわせるための本なども買ってあるが、それでも一時間で交代するように決めてある。


「じゃあ、行くか」


 俺はそう言って、空間の裂け目の中に入った。


 相変わらずの赤土の大地が俺を出迎えたが、離れた場所に泉が見える。

 どうも湧き水は泉として落ち着いたようだ。


「ご主人様、はじめましょうか」

「あぁ、そうだな」


 俺はそう言うと、アイテムバッグから石材を全て取り出した。

 今後はここに家を作る予定だからな。

 木造住宅も考えたが、とりあえずは石造りの家を作ることにした。


 そして、次に準備したのは、

 大地の栄養剤を天地創造の書によって作り出す。

 出てきたのは、注射器のような薬だ。

 これ一本で一平方キロメートルの範囲の土壌の栄養を豊かにする力があるそうだ。


 俺達は泉付近に行く。

 乾燥していたはずの土は適度に湿っていた。

 泉が近くにあるおかげだろう。


 ひとまずはそこに大地の栄養剤を注入した。

 そして、俺達は持ってきた種を撒くことにした。


「二人は何の種を持ってきたんだ?」

「私はトマトの種を持ってきました」

「私は茶の種です」


 ハルとキャロがそれぞれ種を取り出した。


「茶の種?」

「はい、南方から取り寄せてなんとか育てられないかと試みていたみたいです」

「へぇ、お茶かぁ。俺も飲みたいなぁ、ナイスだ、キャロ」

「ありがとうございます」


 キャロは嬉しそうにはにかんだ笑みを浮かべた。

 とりあえず、今回は最初の試みということで、適当に各々好きな種を持ってくることにした。

 でも、茶の木の種かぁ。

 初摘みまで時間がかかりそうだな。


 一番早いのはトマトか。


「じゃあ、種を撒くか」


 今回は本当に適当。

 土を耕すこともしないし、これ以上肥料を撒くこともしない。

 とりあえずは適当に区分けして、適当に種を撒いた。


 季節もここが何月かわからないし、まともに植物が発芽できる環境かどうかも怪しいからな。

 期待しているハルとキャロには悪いが、最悪すべての種が発芽しない可能性もある。

 種を撒き終えると、俺は天地創造の書から【植物時間経過:消費MP1/日】を選択した。


 MPが徐々に消費されていく感覚が伝わってくる。

 と同時に、目の前に変化があった。

 俺の撒いた麦の種だけでなく、ハルやキャロが撒いた種も発芽を開始したのだ。


 トマトは支柱もないのに真っ直ぐ伸びていき、茶の木もゆっくりと成長している。

 そして、小麦もまた大きく伸びていった。


 まるでビデオの早送りを見ているようだ。


 MPを90ほど消費したところで、トマトの実がなった。

 90日って早すぎる気がするんだが。


 さっそく、収穫――の前に、職業を農家に変更。

 農家の特殊経験値取得条件は作物の収穫だからな。


 真っ赤なトマトで、大きさはLLサイズといったところか。

 とてもおいしそうで、トマトを見て生唾が出てきたのははじめてだ。

 俺はトマトをひとつもいだ。


【イチノジョウのレベルが上がった】

【農家スキル:鎌装備を取得した】


 うん、トマトを1個もいだだけで農家レベルが2になるとは、相変わらず成長率がチートすぎるわ。

 そう思いながら、俺はトマトを袖でこすって、パクリとかぶりついた。


「うめぇぇぇっ! うまいぞ、これ! ハル、キャロ、食べてみろ」


 なんだ、このみずみずしさと野菜の持つ本来の甘みというものが口の中に一気に広がるだけでなく、血液がさらさらになっていくのが感じられる。

 俺に促されて、キャロとハルはそれぞれトマトを取り、口に運んだ。

 その味を知った二人は目を見開き、一気に一個のトマトを完食した。


 トマトはうまいけど、この事態はまずいな――こんなに簡単に食料を生産できるようになってしまうのなら、本格的に引きこもってしまう。

 そんなことを思いながら、トマトへと手を伸ばした。

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