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ビッグセカンド先生の作品

 バカ三人が絡んできた。

 その三人の職業を見てみる。


【斧使いLv13】

【剣士Lv9】

【猫使いLv21】


 おい! 一人変な職業混じってるぞ!

 なんだよ、猫使いって!

 一番前にいるスキンヘッドのオッサン、一番いかつそうな顔をして猫使いってなんだよ。


 斧使いが斧を使って攻撃する職業だとしたら、猫使いは猫を使って攻撃するのか?

 必殺、猫アレルギーの人はたまらない猫の抜け毛(ストーム)! とか出すのか?


 この世界の職業、まだまだ深淵が見えてこないな。


「おい、てめぇ、何にやついてやがる」


 猫使いが俺を睨み付けてきた。


「なんでもないよ。悪いがこっちの二人は俺の大事な仲間でな。こっちの彼女も、大事な預かりものだからよ、悪いが他を当たってくれ」

「あぁ、てめぇみたいなひょろいガキが何言ってやがる。お前、こいつらの主人だろ。だったら、痛い目にあいたくなかったら、命令しな。ここにいる三人の人に御奉仕するようにってよ。そしたらてめぇだけは見逃してやるからよ」

「あのな、頼むから面倒ごとは他所でやってくれよ。あと、最後にこれだけ言っておくけど、これ以上俺達に絡むようなら容赦しないぞ」


 本当に俺は疲れていたんだろうな。

 自分の言葉を反芻して考えたら、自分達のほうが強いと勘違いしているこいつらは絶対、俺に殴り掛かってくるだろうな。


 そう思っていたら――本当に殴り掛かってきた。わかりやすすぎる。

 ということで、殴り掛かってきた拳に、俺も拳を当てにいった。


 俺は椅子に座っていて、男は立っている。

 体勢的にも体格的にも勝敗は火を見るよりも明らかだ。

 実際、勝負は一瞬で終わった。

 ただし、周囲が想像していた結果とは当然正反対の形で。


「うぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」


 猫使いの男は手首を押さえて背中から倒れ込み、のたうち回っていた。

 どこかの指の骨が砕けたのだろう。鈍い感触があった。

 男の懐から一冊の薄い本が落ちた。


「煩い、治療してやるから黙ってろ」


 俺は男の手首を取り、「プチヒール」と唱えた。

 淡い光が男の拳を包み込み、


「……痛くない……助かった?」


 俺の回復魔法に周囲から驚きと「あの若さであれだけの体術を使いながら回復魔法まで使えるとは」などと称賛の声が上がる。

 全く。目立ちたくない目立ちたくないって言っていながらどこにいっても目立っちまう主人公みたいな行動をしてしまった。


 そして、俺は落ちていた本を拾ってやり……絶句した。


「なんだよ、これ……なんでこんなもんがあるんだよ」


 俺は震える手でその本を手に取った。


「ご主人様、それは教会御禁制の品です。持っているだけで罪になる本なんですよ」

「闇ルートでは銀貨10枚相当になるそうですが……教会に届けたほうがよさそうですね」

「はわわわわ」


 俺が拾った本を女性三人が見つめていう。

 え? これが教会御禁制の品?

 闇ルートで銀貨10枚相当?


 ウソだろ。


 男達はその本が見つかってヤバイと思ったのか、一目散に逃げだした。

 確かにこの本を持っていることが知られたら女性からの視線は痛いものになるだろうが。


 でも、これって……あれだよな?


 同人誌だよな? しかも18歳未満の人は読んではいけないタイプの。

 ペラペラと捲ってみると、二次元の漫画調のキャラ達の絡みが見えた。

 その中で、男が「俺様のマグナムは絶好調だからよ」というセリフがあり、女の子が歓喜しているというシーンがあった。


 ……マグナムって言葉、誰が広めたんだよ……とか思っていたが、ここが元ネタか。


「誰が描いたんだよっ!」


 一気に最後のページまで行く。


 発行元:コミックステップ

 著者:ビッグセカンド


 うん、あきらかにペンネームっぽい。それでも名前は覚えたからな。


「とりあえず、このような怪しからん本は俺が処分しておくとして――」


 アイテムバッグの中に同人誌をしまい込み、


「なぜかエロ同人誌が教会御禁制の品か。結構この世界の法律って厳しいんだな」


 児童ポルノ禁止法とかも存在するのだろうか?

 そう思ったら、


「えっと、その著者の方は最初は多くの方が楽しめる娯楽絵物語を描いていらっしゃったんですが……いつの間にか大人向けの本を多く描くようになられ、最後には女神様同士の……を描いてしまって教会が全ての本を回収、御禁制の品となったそうです」

「そりゃ禁制の品になるわ。一体、誰だよ、そんなバカなことをしたの……ってビッグセカンドか」


 印刷所もないだろうし、コピー機もないだろう。スクリーントーンもないだろうし、そもそも白い紙だって貴重な世界のはずだ。

 一体、何を考えてこんな同人誌を書いたんだよ。


「……あの……ご主人様。ビッグセカンドってその本を書いた人の名前なんですか?」


 ハルが少し驚いたような、そして何かがっかりしたような表情で尋ねた。 


「あぁ、そう書いてあるが」

「そのお方……多分、私は心当たりあります」

「え?」

「恐らく……ダイジロウ様です」

「えぇぇっ!? ダイジロウさんが? 嘘だろ!?」


 あの人って、俺にとっては大恩人だぞ!?

 その人がこんなバカみたいな本を書いているなんて信じられないんだが。


「えっと、魔王様が封印された後、私は一時期勇者様達と一緒に行動することになったのですが、その時ダイジロウさんが描きかけていた漫画? というのでしょうか、それを見せてくださって、確かその本の著者の名前がビッグセカンド……ダイジロウ様が本を描くときの名前だと」


 ……ダイジロウ……大きい次郎、ビッグセカンドか。なんてわかりやすいんだ。

 てか、本当にあの人、何者なんだ?


 俺の恩人でありながら、勇者とともに魔王を封印した一人であり、同人誌を描いているのかよ。


 俺の中での彼のキャラがぶれ過ぎだ。


「そんな……あの人がこんな本を描くなんて」


 マリナが絶望したようにつぶやいた。

 聞くと、マリナもダイジロウの本に助けられたらしい。

 ちなみに、アイテムバッグは1個も残っていなかったようだ。あると書いてあったランプもなかったらしい。

 先に来た日本人か、それとも偶然隠し部屋を発見したこの世界の住人が全部持って行ったんだろう。

 心底憐れだな。


「ダイジロウさんは捕まってないんだよな?」

「著者が捕まったという話はキャロは聞いていませんね。流石に勇者とともに魔王を討伐した人を拘束したら教会の信用にかかわりますから、内々に済ませたんでしょうね」

「そうか……それはよかった」


 運ばれてきたお茶を飲み、話を聞いた。

 ちなみに、彼の本は半分以上が御禁制の品でありながら、隠れファンはかなり多いらしい。その隠れファンのことをセカリアンと呼ぶそうだ。

 内容は単純なエロだけではなく、百合展開の本、さらにはBL本まであるらしく、ますます彼のキャラがわからなくなった。

 流石に女の子相手に同人誌の話題を続けるのもどうかと思ったので、


「そうそう、一つ忘れてた。猫使いって職業知ってるか?」


 俺は思い出したように三人に訊ねた。

 だが、三人とも猫使いという職業は知らないそうだ。

 猫使い……一体、どんなスキルを使う職業なのか。

 本当に気になるな。

 草原を西に歩く人影があった。

 フリオとスッチーノ、そしてもう一人。


「ふふふふふふふ」


 二人を見つめる、幾枚もの紙を持つショートヘアの少女。年齢はフリオやスッチーノと同じくらいの髪の短い女の子だ。

 その少女は前を歩く二人を見て、ずっと微笑んでいた。


「スチ×フリは良いわ。フリ×スチよりもやっぱりスチ×フリよね」


 少女のつぶやきに前を歩く二人は背筋を震わせた。もちろん、二人にはその言葉の意味は全くわかっていない。

 だが、本能的にそれが自分達にとって最悪なものだと悟ったのだ。

 彼女の名前はミルキー。

 ダイジロウことビッグセカンドが書いた同人誌の影響を受けに受けたセカリアンの一人である。

 ダイジロウの書いた同人誌は半分以上が御禁制の品である。

 だが、御禁制の品ではない本もある。それが、いわゆるBL本だ。

 女神様が登場する余地がない、しかも貴族の御婦人方にかなり需要の高いのが理由である。


 そして、ミルキーは読者でありながら、BL本を作る側でもあった。

 通常なら大量生産できないはずのBL本を、版画技術で大量に作り、それを販売。

 ダイジロウが作った本に比べたら劣る本でも、町の奥様方に大人気となり、実はフェルイトの隠れ特産品としても有名である。

 そのため、ミルキーには金がある


「なぁ、なんでミルキーを連れていくんだよ」


 フリオはスッチーノに文句を言った。


「言っただろ。ダンジョンには何があるかわからないからって。あいつは金には興味がないし、一番戦力になる」

「それはそうだけどよ、でもあいつの前を歩くと背筋が……ぶるっちまうんだよ」

「それくらい我慢しろ」


 ミルキーは平民でありながら大金を稼いだことで大量の税金を納め、平民のレベルが上がった。

 そして、彼女が就いた職業は魔記者であった。


 魔記者、紙にペンを走らせて魔法陣を描き、特別な札を作ったり契約書を作ったり、レベルが上がれば魔道書を作ることができるスキルだ。

 もっとも、魔記者が使うインクというのは高レベルの薬師しか作ることができず、非常に貴重な品。

 そのため、お金がないと中々成長できない職業でもある。


「ふふふふふ」

「「…………っ!」」


 ミルキーの妄想が感極まって、二人が同時に背筋を震わせた。

 その時だ。


「嘘だろ、囲まれただってっ!」

「囲まれたって……嘘だろ、なんでこんなところにホブゴブリンがいるんだよ」


 ゴブリン、醜悪な顔を持つ亜人と呼ばれる妖魔。

 そのゴブリンよりもわずかに体の大きいホブゴブリン20体が突如として現れた。

 数体相手ならフリオとスッチーノの二人がかりならなんとか倒せるが、一度に20体となったらかなり危険だ。


 ホブゴブリン20体は少しずつ囲む輪を縮めていき、一気に攻めてきた。

 思わず恐怖のあまり抱き合ってしまうフリオとスッチーノは、同時に、


「「ミルキー! 助けてくれ」」


 そう叫んだのだが、


「かんっ げきっ! はう」


 抱き合った少年二人の光景を目に、恍惚な表情で鼻血を出して倒れた。


「「これだから変態はっ!」」


 またも声をはもらせる。

 このままではヤバイ! そう思った二人だったが、


「止まれぇぇぇっ!」

「止まってぇぇぇぇっ!」


 男女の声が聞こえてきた。

 そして、彼の前に現れたのは、金色の鎧と剣を持つ剣士風の男、そして金属製の鞭を持ち、銀色のローブを纏った女の二人組だった。

 その二人がスロウドンキーに跨り、こちらに向かって突進してきた。


 スロウドンキーは一瞬でホブゴブリン3体を跳ね飛ばし、その光景を見て残りのホブゴブリンは一目散に逃げ出した。

 その時、フリオは思った。


(……カッコいい……勇者だ! 勇者がやってきた!)


 やったことは乗っているスロウドンキーの制御ができずにホブゴブリンを跳ね飛ばしただけなのだが、フリオから見た二人はまさに彼の持つ勇者像そのものだった。


 ちなみに、本来の立役者であるはずのスロウドンキーは、鼻血を出して倒れたミルキーが持っていた紙をとても美味しそうに食べていた。

 この世界において、高級な紙は薬師が作るものであり、そしてその味はスロウドンキーにとって美味らしい。


「大丈夫か? 少年、僕の名前はジョフレ! 勇者だ!」

「私の名前はエリーズ! モンスターマスターよ! この子はケンタウロスね」


 町のチンピラ少年二人。

 バカな二人。

 そしてロバと変態。


 出会うべきではない五人と一頭が出会ってしまった瞬間であった。

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