第九十四話 それがシンキチの必殺技
「よく考えてみたら、今日出会ったばかりなのに、修行なんてしてるわけないじゃん! 大体何で走馬灯みたいにツッコんだ様子ばっかり映し出されるんだよ! おかしいだろ、俺の人生ツッコミばかりかよ! 違うよね! もっといい人生あったよね! 大体突然こんな場所に連れてこられて妙な連中のデスゲームに巻き込まれてるのがそもそもおかしいのにただの設定だった右手の封印が実現して炎が喋ってる時点でおかしいのに、そもそも」
『シンキチうるさい』
「誰のせいだよ誰の! いいかげんにしろ!」
開幕早々ツッコミで始まりしかも長いのでいい加減辟易しているダマルクなのである。それでもなおツッコミが続いたが。
「「「「「「「「「「いい加減にするのはお前だ」」」」」」」」」」
「へ?」
数多くの餓鬼から一斉に声が掛かり、間の抜けた反応を見せるシンキチ。改めて状況を確認し顔が引きつった。
周囲には餓鬼餓鬼餓鬼、すっかり餓鬼に囲まれていた。
「い、いつの間にこんなに!」
『わりとさっきから、シンキチのツッコミが終わるのを待っててくれていたんだよ』
「律儀すぎだろ! 何それいい人!?」
「カカッ、せめて最後にツッコミぐらい終わらせてやろうと思っただけよ」
「それにしても長過ぎたけど、とにかくこれで食えるわ」
「勿論ただでは食わんぞ。たっぷり甚振ってから食ってやる」
「残念そうな子だけど肉は美味しそうですものね」
「グラム50円ぐらいかしらね」
「食べる気満々だったーーーー! てか俺安すぎ!」
涎を垂らしながらシンキチを見てくる餓鬼たちにシンキチも大慌てだ。そして自分の肉の安さにがっかりだ。
「てか、俺ピンチじゃん!」
『落ち着けシンキチ。お前なら大丈夫だ内側に秘めた小宇厨二を爆発させて妄想を具現化すればいい!』
「よしわかったよダマルク、て何その小宇厨二って!?」
『いいから早く』
そうこうしているうちに餓鬼達が襲いかかってくる。確かにボケとかツッコミとかやってる場合ではない。
「「「「「「「「「「死ねぇええええい!」」」」」」」」」」
そして餓鬼がシンキチに攻撃するが――既にそこにシンキチはいなかった。
「なに馬鹿な!」
「一体どこに消えた!」
「お前たちの後ろだ」
「「「「「「「「「「――ッ!?」」」」」」」」」」
そうシンキチは既に餓鬼たちの背後をとっていた。厳密に言えば囲まれたところからの攻撃なので必ず正面になる奴らがいるのだが、細かいことは気にしないでいいだろう。
「いや、そこは気にするところだろう!」
『いよいよそっちにもツッコミだしたか』
いよいよ末期とも思えるシンキチだがとにかくこれは大チャンス。
「ば、馬鹿な俺達の攻撃をこうもあっさり――」
『ふっ、厨二病に一度見た技は通用しない。これもはや常識』
「なにそれ初めて聞いたよ! てか今ズバリと厨二病っていい切ったよね! 完全に病つきでいい切ったよね! そもそもからしてアイツラの技は今初めてみたんだけど!」
『いいから早くトドメ』
「くっ、鳳極天氷!」
「「「「「「「「「「ギャァアァアアァアアアア!」」」」」」」」」」
シンキチの必殺技で餓鬼達が氷漬けになって吹き飛んだ。そして地面に激突し粉々に砕け散った。
『やったなシンキチ』
「う、うん。でも……」
『どうしたシンキチ?』
青い炎を見ながらシンキチが見せた表情に微妙な感情が滲み出していた。
「いや、その、必殺技これだけなのかなって。ほらもっとこう、別な何かがさ!」
しかし悩みそのものは大したことなかった。
「いや大事なことだよ! 超大事だよ!」
シンキチにとってみれば譲れない何かがあるのだろう。
『シンキチ、お前の必殺技はそれだけだ』
「ええええええ……なんか1つってショボくない?」
『大丈夫だシンキチ。所詮必殺技なんてものは大体吹っ飛んで終わりなんだからいくらあっても変わらないし』
「おぃいぃいい! なんてこと言うんだよ! それ駄目なやつだよ! 触れちゃあかん奴だよ!」
『というかシンキチの真の必殺技はツッコミだよね?』
「違うよ! ツッコミが必殺技とかそんなヒーローいやだよ!」
『ツッコミをすればするほど強くなるチート~お笑いこそが世界最強だった!~とかどう?』
「何がどうなんだよ! 嫌だよ俺そんなチート!」
『贅沢だな~』
そしてシンキチがゼェゼェと肩で息をした。ツッコミは体力消費が激しい。一話で3回以上ツッコむと死ぬ可能性だってあるのだ。
「それもう死んでるだろ!」
『まぁ○○以上使うと死ぬとか押すなよみたいなもんだし』
「くっ、とにかく、他の皆が心配だ! 何せこの数だしきっと皆苦戦しているに決まって――」
そう口にしつつ皆を振り返るシンキチだったが。
「何だやっと終わったのか」
「もうこっちはとっくに終わったんだが」
「料理していただけなのに何故か皆倒れちゃって……」
「オニイサマヨは最強だよ! ありがとうねオニイサマヨ」
『おやすい御用さ。いも、いや、主を危険に晒すわけにはいかないし』
「何かこの弓も凄かった! チョー気持ちいい!」
シンキチの顔が能面のようになった。シンキチが倒した餓鬼も10体ぐらいいたが、目の前に倒れている餓鬼は軽くその数万倍はいた。
その差はあまりに圧倒的だった。
「ま、皆に比べたら俺なんて大したことなかったけどな。倒した数も数千ってところだ。しかし危なく弾丸が切れるところだったぜ」
「いやいやおかしいだろう! それリボルバーじゃん! 切れるところと言うか切れないほうがおかしいよね! 弾の数と敵の数が全くあってないよね!」
「シンキチくん、そんなツッコミばかりしているから後れをとったんじゃない?」
「正論すぎて辛い! てか先生までいつのまにかシンキチ呼びに!」
「シンキチくんはよく頑張ったと思うよ」
「う、うん。そうだね。シンキチくんなりに頑張ったよ」
「青い炎が出せるなんてシンキチくんは凄いと思うよ!」
「女性陣の気遣いがかえって辛い!」
そして既に誰一人として彼をあの名前で呼ぶものはいなかった。
「いやいやあの名前じゃなくて僕にはほうお」
「そう言えばあの子あそこで何してるんだ?」
シンキチが改めてあの名前を口にしようとしたが、その前に竜藏が離れたところで何かを見下ろしている美狩に注目した。
「そうだ彼女ならきっと僕の名をしっかり言ってくれる筈! お~い美狩~」
そして彼女に近づくシンキチだったが。
「……フッまさかお前にやられるとはな。やはりあのときしっかり殺しておくべきだった」
「黙れ、これで終わりだ。私の、家族の仇!」
「えぇえええええぇええええええ!?」
しかし首だけになった餓鬼と美狩の会話にシンキチは驚愕した色んな意味で。
「美狩ちゃんの仇、それって前に聞いた餓鬼?」
「そうだ。私はこいつを殺すためだけに今まで生きてきた。だがそれも今日で終わる」
「……美狩ちゃん――そうだったんだね」
「美狩ちゃんにそんな過去があったなんて」
「辛かっただろうね苦しかっただろうね」
「チッ、今日はやけに風が目に染みやがるぜ」
「俺にもその気持ちはよくわかる。実は俺ももし餓鬼に家族を奪われたらという妄想を良くしていたからな」
「ちょっと待て待て待て待って! おかしい、やっぱり絶対おかしい! なにそんな大事なイベントをどさくさに紛れた感じで終わらせようとしてるの! こんな大量に襲ってきた餓鬼の一体が親の仇でしたって全く盛り上がらないよ! あと赤井はそもそもただの妄想だし!」
「仕方ないだろ。俺はまだ独身なんだから」
「知らないよ! そんな個人的事情!」
『ツッコむな~』