第七十六話 ゴールデンモブ
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海渡の目の前で田中がボコボコにされていた。ふむ、と腕を組みじっくり眺めた後、海渡が聞いてみる。
「助けいる?」
「いるよ! てか見てないで助けてぇ死ぬ!」
「それは大丈夫」
「え~と、ナイフとかで刺されてる気がするんだけど、寧ろどうして大丈夫?」
頬をヒクヒクとさせて妹の菜乃華が言った。確かにどこぞの世紀末からやってきたようなモヒカンに武器で攻撃されまくってる。
だが思いの外田中は元気そうだ。海渡も心配していない。なぜなら確かに田中は運が最悪であり様々な不幸を一身に背負う運命であり、だからこそ娘の真弓には全く危害が及んでいないのだが、同時に生命運だけは高いため、幾ら武器で攻撃されても死ぬことはないのである。
「ほい」
「「「「「「「グベラァアアァアアァアアア!」」」」」」」
仕方ないので海渡が近づき殴りつけるとモヒカン共がふっ飛ばされ消えていった。ただこれまでとはどことなく消え方が違う。何より生きている感覚がなかった。
「ヌハハハハ! これは驚いた。スキル世紀末の覇王を手に入れた我が生み出したモヒカン共を倒すような猛者がいるとはな!」
声のするほうをみると黒っぽいロバに乗り赤っぽいマントを羽織り、角っぽいものがついた兜を被った褐色っぽい肌の男がいた。
スキル世紀末の覇王、これはなんとなく世紀末の覇王っぽいことが出来るスキルである。モヒカンを生み出したのもそのおかげだろう。
「ぬはは、だが見える! 我には見えるぞ! 貴様らの頭上に死兆星っぽいものが!」
どうやらそんな感じの星っぽいものが見えるらしい。
「それで、何で田中と娘さんを襲っていたの?」
「ヌハハハハ! 決まっておる殺すためよ!」
海渡が問うと世紀末の覇王っぽい姿の男が答えた。
「な、何でよ! 田中はともかく真弓ちゃんは関係ないでしょ!」
「私も関係ないよ! 何でともかくなの!」
菜乃華が抗議の声を上げると、田中が凄く驚いていた。
「ふっ、神は我に力を与えた! この世に覇王は一人で良い! そのために我にはもっと力が必要なのだ!」
「そ、そんなことの為に私と娘を殺そうとしたというのか、く、狂ってる!」
「うん、あんたも似たようなことしようとしたけどね」
田中がプルプルと震えながらそんなことを言うが、デスホテルのことを忘れてはいけないのだ。
「何を言われようと構わんわ! 我には貴様らの命と経験値が必要なのだからな! 死ねィ! 木刀強情波!」
ロバに乗った世紀末の覇王っぽい男が取り出した木刀を振った。衝撃波が発生し海渡達に襲いかかるが。
「ふぁあぁああ」
――パンッ!
海渡があくびするとその衝撃波がかき消えた。
「ファアアァアアァアアァアアア!?」
その様子に目玉が飛び出さんばかりに驚く世紀末の覇王っぽい男である。
「な、なんだこいつは! ば、馬鹿な、この我が震えて――」
「ホイッ」
「グボォオオォオオ!」
海渡が軽く手をふると派手に男は吹っ飛んでいきスマフォが壊れて消えた。ロバは逃げていった。
「い、一体何だったのかな?」
「さぁ?」
世紀末の覇王っぽいのを倒した後、海渡が誰にともなく問いかけるが答えられるものはいなかった。
「あ、あの海渡様ありがとうございました!」
助けてもらったことで真弓がペコペコと海渡にお礼を言ってくる。
「気にしなくていいよ。たまたま通りがかっただけだし」
「海渡くん、娘を助けてくれてありがとう。でも、私ももっと早く助けてくれたらもっと良かったのだけど」
「ところで田中と真弓ちゃんはどうしてここに?」
「私は無視! そして呼び捨て! 一応学校の関係者なのに!」
そう言えばそうだなと思いつつも、まぁ田中は死なないしなぁ、と呑気なことを思う海渡であった。
「パパがママと会いたい会いたい煩くて、このままじゃまたやってきそうだから私が少しだけ会って諦めてもらおうと思ったんだ」
「ふふ、照れちゃって本当は私にあいたかったくせに~」
そういいながら指でつっつこうとするが、真弓はサッと躱し本気で嫌そうに顔を顰めた。
「マジでやめて」
「今までみたこともないような嫌悪感を示したよ!」
この二人は平常通りだなと海渡が眺めていると街全体に誰かのアナウンスが響き渡る。
――は~い皆さん、ここで一つ皆さんにお知らせだよー! ここでボーナスゲーム! エリア内にゴールデンモブを設定したよ! このゴールデンモブはなんと経験値が三倍だ! プレイヤーの皆さんは一気にレベルアップするチャンス到来! さてその子はプレイヤーの皆の端末に位置情報を送ったからね。そんな幸運なゴールデンモブの名前は――佐藤委員長だーーーー!
◇◆◇
佐藤はミニアカオを連れた金剛寺や鈴木とカフェに向かっていたはずだった。だけど妙な騒ぎが起きたかと思えば突如全く別などこかに飛ばされていた。
当然金剛寺と鈴木の姿もない。
「ど、どうしよう……皆どこに行ったのかな?」
不安になりながらも喧騒が激しくなってきた街を彷徨い歩く。その時だった、妙なアナウンスが街中に流れてきたのは。
しかも、ボーナスゲームと称され、どういうわけか自分がゴールデンモブとやらに設定されてしまっている。
「私がゴールデンモブって何? い、意味がわからないよぉ」
泣きそうになる佐藤だが、気がついたら目を血走らせた集団がやってきて佐藤を狙ってきた。
「へへ、メガネっ娘じゃねぇか」
「しかもおっぱいデケェ!」
「これは殺す前に?」
「当然だろう?」
げへへやらぐへへやらいかにもといった笑みを見せるロクでもない連中に囲まれる佐藤。だがその時だった――
「ヒョォオオオオオオォオオ!」
「え? 体が切れ、ギヒイイイイイイ!」
「アビィイイィイイイイイ!」
「キャシャイッ!」
何と奇声が聞こえたかと思えば、佐藤を囲っていた集団が瞬時にバラバラにされ粒子となって消えていった。
なになに? と戸惑う佐藤の目の前に一人の少年が降り立つ。灰色の髪をしていて中性的な顔をした少年だった。
「あ、あの、ありがとうございます!」
佐藤は助けてもらったと判断したのかペコペコと頭を下げてお礼を述べた。だが、少年は髪をバサリと掻き上げ。
「何を勘違いしているのかな? 僕は君を殺しに来ただけさ。他の連中は邪魔だから消した。ただそれだけだ」
「え?」
少年はそういいながらも自分のスマフォを見る。
佐藤は戸惑っているが気にもとめていない。
「ハハッやった! ほらほらまたレベルが上がったよ!」
「れ、レベル?」
「そうさ! このスキルホルダーで僕は断罪者のスキルを手に入れた! 切る過程をすっ飛ばして狙った相手を幾らでも断罪出来るスキルさ! このスキルで僕はもっとレベルを上げてスギッチと戦うんだ! そのためにプレイヤーもモブも一杯殺して殺して、そして――お前も殺す!」
「そ、そんなことのために、貴方は人を殺すというのですか!」
佐藤が相手を非難した。臆病だがこういう時は正義感が前に出てしまう。
「そんなこと? 大事なことさ。それにしてもお前、下品なおっぱいだな! これだから女は――見ているだけでムカムカしてくる!」
「そ、そんな、私だって別に大きくなりたくてなったんじゃないもん!」
「ふん! 知ったことかーーーー! 僕が目障りだといえば目障りなんだよ! さぁその無駄な贅肉だらけなおっぱいも両手両足もそしておっぱいも! 無駄なものは全部この僕が切り飛ばしてやる! ヒョ」
「おっぱいに罪はないだろーーーーーーー!」
「ギピョォオオオオォオオオオオオ!?」
今まさに、スキルを発動させ佐藤を断罪しようとした少年だったが、駆けつけた海渡のアッパーを喰らい空高くふっ飛ばされ、お星様となり消え去ったのだった――
杉崎「チートのプレイヤー圧が、消えた……」