第五十三話 死坊の料理
料理大会が進み、餅を喉につまらせ田中が死に、激辛料理を食べて田中が死に、デスカレーを食べて田中が死んだ。
そしていよいよ最後の料理が披露される時となった。死坊が寸胴を持って現れる。
「一つ確認だけど、審査員は私の料理をしっかり食べて審査してくれるのよね? ほら、最近はヤラセとか色々あるじゃない? 食べもしないで審査されてはたまったものじゃないもの」
「あの料理の後なら大体食べられるね」
「確かにあれは衝撃的だったからな……それ以外ならたいてい食べられるだろう」
「もう何が来ても大丈夫だと思います」
「私の魔法が効かないなんてそうないですからね」
「も、もう流石に死ぬことはないだろう。真弓ーーーーそして愛する」
「何でさっきの料理前提なのよ! そもそもあんたら最後の田中以外さっきの食べてないわよね!」
死坊が激しくツッコんだ。佐藤は?顔だが。
「とにかく、私はしっかり見てるからね。今食べると言ったんだから約束は守ってもらうわよ」
そう念を押した後、死坊は寸胴の中身を皿に取りわけ、全員のテーブルに置いていった。
「さ、これが死坊お得意の十八番、仙人ふぐの青酸スープダイオキシン仕立てヒ素風味よ。さぁたっぷり召死上がれ」
そう言ってニヤリと口角を吊り上げた。色が紫、匂いもかなりキツく、あぶくも立っている。
「な、なんだこれ!」
「ふふふ、さぁ召死上がれ。最強の毒料理を――」
「うん、癖はあるけど中々いける。色や匂いもデスカレーよりマイルドだし」
「て、はぁああぁああぁああぁああぁあ!?」
目の前で海渡が普通に死坊の料理を食べていた。仙人フグの肝も、刺激があって旨いとパクパク食べていった。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよあんた! 何普通に食べてるのよ!」
「え? これ料理だよね?」
「いや、いやいや、確かに料理だけど、は? は? は? はぁああぁああぁああ!?」
死坊はわけがわからないといった顔をしていた。何か配合にミスがあったのかと料理を確認した程だが、ミスはない。
「な、なに、ちょ、こいつ何なのよ! えい! だったら貴方!」
そして死坊は虎島達にも目を向けるが。
「ほう、これは中々。なるほど、普通は青酸カリと言えば毒を恐れてついつい手を加えて毒を抑えてしまうものだが、これは天然の青酸カリをそっくりそのまま取り入れ結果的に素材の良さを損なわずいい感じのアクセントになっている」
「キュッキュキュッ~♪」
「貴方何言ってるの! その変なスライムもしっかり食べてるし! しかもなんとも無い! だ、だったらあんたよ! 流石に女じゃ私の料理は」
「虎ちゃん、また貴方は一つミスを犯したわ」
だが死坊がいい切る前にしっかり食べていた景が虎島に指摘する。
「な、何だと! 俺がいったい何を!」
「この料理には隠し味として王水が入ってるわ。それに貴方は気づかなかった」
「な、なんとそうだったのか。いやぁ流石に気が付かなかったな」
「うふふ、虎ちゃんってばぁ」
「だからそれで何で平気なのよ!」
死坊が頭を抱える。隠し味に王水が入ってるのは事実だが、それも人体には猛毒だ。しかし虎島も景も平気そうだ。
「あ、あなたは、貴方はどうなの!」
「美味しいですよ~お代わりが欲しくなるぐらいです」
「何でよ! てか色が変わってるし! それもう普通のスープよね!」
キャロットが美味しそうにスープを口にしていた。そして毒々しい色のスープが純白の穢れ一つ感じられない料理に変わっていた。
「くっ、だったらあと一人の田中は!」
――ピクッピクッ!
田中は死んでた。
「死んだわーー! そうよ、普通はそうよ死ぬのよ!」
「リザレクション」
「は! あ、危なかった……天国の爺さんや婆さんや曾祖父さんや曾祖母さん達に爺散婆動砲を撃たれてなかったらやばかった――」
「だから天国は無理なんだってば」
「もういいわよそのやり取り! てかあんたまで何で結局生きてるのよ!」
叫ぶ死坊だが、キャロットの蘇生魔法ならわりと生き返る。
「さぁ、これで全ての料理が出揃いました! それではこれより料理の審査を」
「あんたも何普通に話進めようとしているのよ! 冗談じゃない! あんたらは私の料理を食べて死ぬの! 食べなかったら私に殺されるの! そうでなきゃおかしいのよ!」
死坊が怒鳴る。剃り上げた頭に血管が浮かび上がりピクピクと波打っていた。顔も真っ赤であり怒りを顕にしている。
「おいおいそりゃ穏やかじゃねぇな」
「そうだね。まぁ毒料理なんてちょっとおかしいかなと思ったけど」
虎島と海渡が眉をひそめる。毒料理であることは確かに妙だった。だが佐藤の料理のインパクトによってあまり気にならなかったのだ。
「だからそれがわけわかんないのよ! 何で毒を食べて平気なのよ」
「悪いけど俺、毒は効かないんだ」
「いや、でもお前は委員長の料理」
「いや、だって俺、毒は平気でも味覚は普通だから」
「え? それどういう――」
「お~っとこれは驚きだ! 何と死坊は料理で審査員を殺す気だったようだーーーー!」
「ふん、審査員だけじゃないわ。寧ろそこの委員長みたいな柔らかそうな肉を料理するのが本当の目的よ」
「えぇええええぇえええぇえええええ!」
佐藤が仰天した。ただでさえ海渡の言っている意味が気になっているというのに、密かに狙われていたというのだからそれは驚きだろう。
「とにかく、あんたらが死なないと視聴者も納得しないのよ! こうなったら強引でもいかせてもらうわ。貴方達出てきなさい!」
すると会場に黒いコックコートを来た集団がなだれ込んできた。全員包丁やら巨大な肉たたきやらと物騒な物を手にしていた。
「アッハッハ! ここからが見ものよ! さぁ貴方達、逃げようとした客も容赦なく皆殺しに」
「グフェ!」
「ゲホッ!」
「ゴブァアアァアア!」
「……は?」
しかし、死坊の考えとは裏腹に、黒いシェフ達が次々と会場側に吹っ飛んできた。戸惑いの目を客席に向けるが。
「騎士として! 市民を守ることは当然!」
「あんた達いい度胸してるわね! 消し炭になりなさい!」
「お嬢様に手を出すなんていい度胸だな、オラッ! オラオラオラオラオラオラオラッ!」
「ふふふ、久しぶりにこのワルサー的なピーを抜く時が来ましたね」
客席では異世界からやってきた女騎士のマックスや魔法剣士のフォワードが暴れていた。メイドも口調が変わり殴る蹴ると素手で武器を持った集団をぶっ飛ばし執事はあくまで正当防衛としてワルサー的な得物を抜いていた。
「主人に手を出すのは許さん! ウオオォォオオオオ!」
そしてアカオもまた人化して黒いシェフ達を倒していた。それに驚いたのは金剛寺であり。
「あ、貴方はいったい誰なのですわ!」
「え?」
そう、金剛寺は当然アカオが人化できることをしらない。どう答えるか迷ったアカオだったが。
「お、俺は赤王だ!」
「あ、赤王――」
「ふむ、どうやらあらかた片付いたようだな。ではさらばだ!」
そしてアカオこと赤王はどこぞへと去ってしまう。金剛寺が引き留めようとしたが無駄であった。
「赤王様――」
名残惜しそうにする金剛寺だが、ふと周囲にアカオがいないことに気がつく。
「そんな! アカオがいませんわ!」
「そういえばさっきまでそこにいたのに?」
「むむむ、こんなときにどこに!」
「ガウガウガウガウガウ!」
「あ、アカオですわ! 良かった無事ですわ!」
赤王が去った後、小さなアカオが戻ってきた。胸に飛び込んできたアカオをしっかり金剛寺が抱きしめる。そして遠い目であの方はどちらに、と赤王が気になってしまう金剛寺であった。
「う~む、赤王、いったい何者なんだ!」
「強かったよねぇ」
杉崎と花咲も赤王の正体が気になるようだ。いったい何者なのか赤王!
「何か凄い茶番臭がしたわ! それにしても、まさか私自慢のデスシェフ部隊がやられるなんてね」
黒いシェフが全滅し死坊が歯ぎしりしながら悔しそうに言った。残ったのは彼一人である。
「もう諦めて観念したらどうだ?」
「ふん、馬鹿にしないことね。あいつらは所詮私の駒に過ぎない。私はあんなやつらは目じゃないほどに強いわ! 私の目はあらゆる生物の解体ポイントを見極める! どこをどう包丁を通せばスムーズに切れるかわかる! お前たちも見てあげるわ!」
そして死坊が審査員の解体ポイントを見極めようとするが。
「な、嘘でしょ! 全く、全く見えないわ! あなた方の解体ポイントが! いや、田中だけ見えるけどどう解体してもまずい肉にしかならないし!」
「なにげに酷いな!」
田中が文句を言った。別に解体してほしくもないだろうが、まずいと言われるのは心外に思ったのだろう。実際不味そうだが。
「ありえない、私は最高のデスクッキングマスターよ! 視聴者に最恐の料理ショーを届けるのが役目! お前たちは私に料理されるべきなのよぉおぉお!」
「フンッ!」
「グボラァアアァアア!」
死坊が包丁を振り上げ襲いかかってくるが、虎島が割り込み拳で黙らせた。軽々と吹っ飛ぶ姿に目を丸くさせ。
「な、なんだ? 弱すぎだろ」
「虎ちゃんが強くなったんだと思うよ」
虎島は驚いているが彼とて神のもとで修行した身だ。ちょっと解体ポイントが見える程度の相手に後れを取るわけがない。
だが、彼はミスを犯した。死坊が吹っ飛んだ先には佐藤がいたのである。
「あ、はは、こうなったらせめて貴方を解体してあげるわ! あはは、とっても美味しそうよぉおおぉお!」
「キャァアアアァアアア!」
頭を抱え屈みこむようにし悲鳴を上げる委員長。だが、その包丁は届かなかった。海渡が割って入り人差し指と中指で包丁を受け止めたからだ。
「そ、そんな、馬鹿な――」
「よっしやったれ海渡!」
「ヒッ!」
虎島が声を上げ、海渡が拳を握る。思わず死坊も悲鳴を上げるが。
「……いや、お前も料理人の端くれなら料理で決着をつけよう」
「は?」
「これから俺も料理をつくる。ルールは簡単だ。俺も毒をつかった料理を作る。それを食べられたらお前の勝ち。それでどうだ?」
「……は、はは。面白いじゃない。それで私が勝ったらどうするのよ!」
「俺の体を好きにするといい。そしてお前が負けたら、まぁ負けてみればわかる」
「乗ったわ! 貴方の料理を食べてあげるわよ!」
海渡「田中が死ぬまで後100話」
田中「何で私が!ホワイ!?」
海渡「いや、なんとなく」
なんとなく言ってみたかっただけだったのだ。