第二十話 最後のゲーム
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『ブザーとかマジかよw』
『配信者わかってる? これデッドチャンネルよ? 愉快なバラエティ動画を流したいなら他行きなよ』
『てかこの感じだと最初の鉄球も怪しいな。パンか何かで出来てたんじゃないの?』
『ありえる~w』
次々と浮かび上がるコメントに死配人であるDeathは頭を抱えた。折角始めたデスゲーム、この日のために脳を振り絞り考えに考えたアイディアを詰め込んだことでこのデスホテルは最強で最狂なゲームに仕上がっていたはずだった。
だが蓋を開けてみれば最初のゲームから失敗続き。ゲーム参加者も序盤で半分以上がホテルから脱出してしまい、何とか言いくるめて残った連中も全く死ぬ気配がない。
今まで連中に与えたことと言えば、死の苦痛どころかせいぜい料理の材料になるピラニア(本来の目的は全く違うのだが)にディナー(何故か味に駄目だしされた)、そしてちょっとした食後の運動(何故かブザーがなるだけに)ぐらいなものである。
Deathは叫び身悶え、そこらの機材に当たり散らした。モニターの何台かも床に叩きつけられ配線がショートしてしまっている。
「くそが! くそが! くそが! 舐めやがって! しかも、こ、この私が、恐怖しただと! あんな、あんな高校生のガキに!」
目を見開き頭をかきむしる。ゲームが軽々と突破されたことは勿論だが、海渡の殺気に情けない悲鳴を上げ、完全に萎縮してしまっていた自分にも腹を立てているようだった。
「だが、次だ! 次が最後のゲーム! 故にあれは誰にも絶対に突破できない!」
死配人は最後のゲームには絶対の自信があった。これまでのゲームなど、それに比べたらただの小手調べである。
『視聴者の皆さんチャンネルはそのまま! これまでのはただのお遊び! 最後のゲームをより楽しんでもらうための前座みたいなものなのです!』
Deathは現在配信中の動画にも自らメッセージを残し、視聴者の好奇心を煽った。
『本当か?』
『期待していいんだろうな?』
『もしそれが嘘だったら……配信者のあんたが罰を受けることになるぜ?』
動画のコメントにはそのようなメッセージも含まれていた。デッドチャンネルは裏の動画配信サービスだ。当然、あまりに不甲斐ない結果を残した者にもそれ相応のペナルティーが待っている。
Deathはゴクリと生唾を飲み込んだ。デスホテルを建設するのも当然タダではない。ただでさえ非合法な仕掛けが豊富な建物だ。表の建築業者に頼めるわけもなくその筋から紹介してもらった業者を使っている。
当たり前だがその分費用は相当なものだった。Deathの貯金も完全に底をついている。これに失敗したら後がないのである。
「絶対に次で決める、絶対、絶対にだ!」
そしてDeathは再び海渡たちの動向に目を向けるのだった。
◇◆◇
『さぁここまで果たして何人の挑戦者が生き残っているかなぁ?』
「いや、全員だろう」
「言っていて虚しくないのか?」
「誰一人欠けることなくここまでこれたね委員長」
「うん、怪我もしてないもんね」
「何かちょっぴり楽しかったかも……」
死配人の言葉にそれぞれが感想を述べた。全員何ならちょっと楽しんでそうなぐらいである。
「ホテルにテーマパークがあるなんて豪勢だよね」
海渡もなんてことないようにそんなことを言う。それが余計にDeathの感情を逆撫でた。
『くっ! その減らず口もどこまで叩けるかな。さて、ここで皆さんに残念なお知らせです。既にお伝えしたとおり、なんと君たちが向かった先にある部屋、そこが当デスホテルの最後のゲーム部屋となります!』
テンション高めにDeathが叫んだ。そう、このゲームもいよいよ最後となるのである。
「そうか、もう終わりか」
「意外と楽勝だったな」
杉崎と虎島が拍子抜けといった様子で語った。ここまでのゲームも特に命が危うくなるようなものはなかった。もっともそれも大体海渡のおかげなのだが。
『調子に乗っていられるのも今のうちだ。当然だが最後はデスホテル内で最も命がけなデスゲームが待っているのだからな!』
「さっきのゲームでも一番過酷って言ってなかった?」
Deathの発言に海渡が疑問をこぼした。確かに先程もDeathはそんなようなことを言っていた。
『ふん、あれはあくまで過酷というだけだ。ま、入ってみればわかるさ』
妙な自信を匂わせ語るDeath。そうこうしている間に最後の部屋に繋がる扉の前まできたので開いてぞろぞろと中に入った。例によって全員が入った直後にドアは施錠される。
『イッツショーターイム! さぁ最後のゲームの始まりだ! ここは当ホテル自慢の愛らしい動物とのふれあいの場だ!』
「愛らしい動物?」
「そういえば檻が見えるな」
「でも、中には何もいないぞ?」
『ふふふ、まぁ見ていることだ』
Deathが不敵に笑いながらそう語ると、檻の内部の床が開き、かと思えば下から何かがせり上がってきた。
「随分と面倒な仕掛けだな」
「こんな仕掛け本当にあるんだね」
「やってることがいちいち昭和だよな」
『だ、黙れ!』
海渡たちにダメ出しされる死配人である。そしてDeathの言葉からは気恥ずかしさも感じられた。
そうこうしているうちに床からせり上がってきたそれが檻の中に収まるわけだが。
「え? ライオン?」
最初に鈴木が声を上げた。すると杉崎と虎島が眉を顰め。
「ただのライオンじゃねーな……」
「あぁ、肌が赤いライオンなんて初めて見たぜ」
「それに、何か凄く大きい、です……」
「杉ちゃん、私ちょっと怖い……」
花咲が杉崎にそっと寄り添う。佐藤と鈴木も不安にしていた。
虎島と杉崎も警戒心を強めている。
『はっはっは! 見てわかると思うがそれはタダのライオンじゃない。その名もキングレッド! 品種改良された最強最悪なライオンさ。大きさも君たちの知るライオンより3倍は大きく、見た目だけじゃなくて戦闘力も獰猛さも食欲だって3倍だ!』
「維持費が大変そうだね」
『呑気か!』
海渡が思ったままを口にするとDeathが叫んだ。だが間違いではない。事実食費も含めて飼うだけで大変な費用がかかるのだ。
『とにかく、そいつは凄まじく凶暴で見るものは全て餌とみて襲いかかる。常に腹だって減らせている。この檻から放った瞬間、お前ら全員に問答無用で襲いかかる。慈悲はない! 目につくもの全てが餌! それが最強にして最悪な獅子の帝王キングレッドだ!』
「グルルルルゥ!」
Deathの言葉に被せるようにキングレッドが唸り声を上げた。その目はジッと海渡を見つめ目を離さない。
「ふ~ん、つまりこいつを倒せば勝ちってこと?」
『はっはっは、安心したまえ。いくら私でもそこまで無慈悲ではない。しっかり救済処置は用意してある。檻の向こう側に扉が見えるだろ? 君たちはそこを抜ければ勝利だ。しかし、当然鍵は掛かっている。そしてその鍵はキングレッドの舌の裏に隠されている! つまり生き延びたければ何とかしてキングレッドの口を開け舌の裏側から鍵を奪って脱出したまえ!』
そこまで言って死配人がほくそ笑む。我ながら意地の悪い話だと悦に入った。倒さなくてもいいとは言ったが、史上最強とも言える猛獣であるキングレッドの口をこじ開けるなど自殺行為に等しいことだ。何なら近づいた瞬間にその鋭利な爪と牙にやられあっさりと食い殺されることだろう。
そして連中は絶望するはずだ。自分たちの運命に。そしてそんな中でも何とか生き延びようと策を練ることだろう。だがやれることなどたかが知れている。最初に思いつくのは誰かを囮にして鍵を奪う方法だろう。勿論そんなことをしたところで無駄だが、そうやって仲間を囮にすることで連中の友情にも亀裂が入り互いに互いを罵りながら無慈悲にあの獣に食い殺されていく。それを見た視聴者はこう思うはずだ。そうだ、こういうのが見たかった。そうか、この最高のショーの為に、これまでの前座があったのかと。
そう思うと、Deathは嬉しくてたまらなかった。
「おいおい、あれは本気でヤバくないか?」
「こっちをジッと見ていやがる。俺らを餌と思っているのか?」
「う~ん」
キングレッドの視線を受けながら海渡が軽く唸る。すると、愉快そうにDeathがゲームの開始を宣言した。
『イッツショーターイム! さぁ今まさに檻からキングレッドが放たれる! はっはーさぁ必死に逃げてみろ! そして頭を振り絞って考えるんだな! その最強の猛獣からどう逃れどう鍵を奪うかを!』
そして今、檻が開き赤き肌を有した巨大な獅子が飛び出した!
「ガオオオォオオオオオ――ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロニャ~ン」
「何だお前、意外と可愛いやつだな」
『て、めっちゃ懐いてるぅうううぅううううううううう!』
視界に収まるあらゆる物を餌と認識し食い尽くす最強の猛獣――だがしかし、蓋を開いてみれば飛びかかってくるなり仰向けになり、お腹を晒して海渡にモフられて喜ぶ、最強とは程遠い愛らしい獅子の姿がそこにあった――
キングレッド「退く!媚びる!省みる!」
Death「おま、ふざけんなよ!」
虎島「たまげたなぁ」