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屋根裏部屋の公爵夫人  作者: もり
タイセイ王国編
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56.謀反人

 

 侍従の先導で大広間に入ると、すでに多くの人が集まっていた。

 皆は相変わらず噂話に忙しいようだったが、オパールたちの姿を認めてはっと口を噤む。

 しかしすぐにひそひそと話し始めたので、会場全体がざわついていた。

 漏れ聞こえてくる内容から人々はオパールの駆け落ちの噂ではなく、後に続いて入ってきたエリクに――正確にはエリクの家族について話しているらしい。

 どこからかバポット家の朝の騒動を聞きつけ、あっという間に広めた者がいるのだろう。


「相変わらず他人の醜聞が大好きよね」

「自分のほうが上位にいられる気になれるからな」

「ナージャは残念がっていたけれど、こんな場所に来なくて正解だわ。毒気に中てられてしまうもの」

「オパールは本当に大丈夫なのか?」

「それがぴんぴんしているの」


 オパールは案内された椅子――国王が座る椅子が据えられた壇上側にある椅子に座って、両手を軽く広げてみせた。

 その大げさな仕草は人目を引いたが、クロードは気にせず小さく笑う。

 それでもすぐにオパールもクロードも真顔に戻ったのは、ナージャを心配してのことだった。

 今回のことはナージャも巻き込んでしまったのだから、本人が望むのなら最後まで見届けさせてあげたかった。

 だが無理はさせられず、ナージャには後できっちり伝えることを約束して屋敷を出てきたのだ。


 オパールは集まった人々をさっと見回した。

 傍聴人は身分に関係なく椅子は用意されていないので立ち見となる。

 壇上を中心として半楕円形に広がって守りを固める近衛騎士のすぐそばに陣取っているのはやはり貴族ばかりだった。

 そしてエリクは遅れて入ったにもかかわらず、一番内側に立っていた。

 しかしあれだけ人気者だったエリクに誰も話しかけようとはしない。


(あっという間に手のひら返しね……)


 つい昨日までちやほやとして機嫌を取ってきていた人たちが、簡単に背を向け侮蔑の言葉や視線を投げつけてくる。

 オパール自身も経験し、何度も目にしてきたことだ。

 エリクは兄のテューリと並んで最高の花婿候補とされていた。

 それが今は犯罪者と――エリク自身は今のところは無関係とされているにもかかわらず、犯罪者であるかのように皆が嫌悪の表情を浮かべて距離を取っているのだ。


「退出させようか?」

「いいえ。これが現実だともうすぐ彼も気付くでしょう。……きっとね」


 エリクは遠巻きにしながらもひそひそと噂する人たちを睨みつけては、オパールのせいだと言わんばかりに何度も睨みつけてくる。

 世間がこれほどに残酷なことを、エリクはまだ認めたくないのだろう。

 オパールがエリクから視線を外したとき、広間に大きなざわめきが広がった。


 そして現れたのは今回の騒動の首謀者とされるバポット侯爵とアマディ子爵であるテューリ、その後ろに数人の貴族が続いた。

 さらにコナリーやコールの姿も見える。

 彼らは体の前で両手を縛られており、屈辱の表情を浮かべていた。

 その中でバポット侯爵とテューリだけが堂々と前を向いていた。

 しかし、テューリはクロードを目にすると、はっと息を呑んで急ぎ顔を逸らす。


(噂でクロードが戻ってきたことは知っていたでしょうに……)


 二人の友情は偽りだったとわかっていても、オパールは悲しかった。

 きっとはじめはクロードもテューリを信じていたはずなのだ。

 クロードの性格からして葛藤がなかったはずがない。

 そのことを考えて落ち込みそうになるオパールの手にクロードは手を重ねた。


「俺は大丈夫だよ。俺は俺の信念に基づいて動いた。彼らは彼らの何かがあったんだろう」

 

 クロードの囁きに小さく頷き、オパールは改めて反逆者である貴族たちに目を向けた。

 先の内乱ではアレッサンドロ派として動いたテューリ以外は、バポット侯爵も他の貴族たちも中立派の者たちだった。

 そんな彼らを――反国王派をあぶり出すために、今回の騒動はアレッサンドロたちが仕掛けたものだったのだ。


(四年前のマンテスト開発に協力してくれたのも、陛下としてはソシーユ王国のセイムズ侯爵と反国王派の繋がりに気付いていたからなんだわ)


 アレッサンドロがオマーのことまで知っていたことを考えると、オパールが離縁していなくても今回のことに協力させるつもりだったのだろう。

 もちろんクロードがそれだけのために援助してくれたとは思っていない。

 どちらかというと、かなり私情が入っていたと思いたい。


(要するに、反アレッサンドロ派は四年以上前からじわじわと追い詰められていたのね)


 やはり皆がアレッサンドロの盤上で踊らされていた。

 それも反乱軍だけではない。

 オパールもクロードもヒューバートさえも、アレッサンドロの思い描く通りにくるくる踊っていたのだ。

 そう考えると腹も立つが、頼もしくもある。

 自分たちの王として、これほどに心強いことはない。

 だからこそ、クロードも長年の間アレッサンドロを支えてきたのだろう。


(いいように使われたのは腹も立つけど、それでみんなが少しでも幸せになれるなら何てこともないものね。それに陛下の想定以上の証拠を摑むことができたのは、誇っていいことよ。おかげで一発お見舞いできたもの)


 平手打ちをされると思っていたらしいアレッサンドロの驚いた顔を思い出し、オパールは内心でにんまり笑った。

 子供の頃は兄とよく取っ組み合いのケンカをしていたのだ。

 あの頃のことを思い出してしまったオパールはまたむかむかと腹を立てた。

 昔から兄とはそりが合わない。

 兄のせいで何度トレヴァーやマルシアに厳しく叱られ、母に悲しそうな顔をさせてしまったことか。


「オパール、大丈夫か?」

「ちょっと子供の頃のことを思い出していたの」

「ああ、なるほど」


 オパールの気持ちの変化を悟ったのか心配してくれたクロードだったが、兄のことだと理解したらしく納得したようだ。

 兄妹仲が悪いことをクロードはよく知っている。

 いつも二人の仲介をしようとして失敗していたのだ。


 クロードが笑いを抑えて大きく息を吐き出したとき、壇上近くの扉が開かれた。

 あの扉は王族しか使うことが許されないものだ。

 その慣習通り、扉から入ってきたのはアレッサンドロ国王その人だった。




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