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036.お兄ちゃん、学園へと向かう

「はぁ、とうとう来てしまった……」


 碧の国の屋敷から、馬車に揺られる事3日。

 僕は白の国アルビオンへとたどり着いていた。

 フィンやアニエスも一緒だ。

 今日から、僕達はいよいよ白の国にあるお貴族様御用達の学園へと入学するのだ。

 そんな僕の頭の中は、懸念材料でいっぱいだった。

 なぜか?

 だって、それは……。


「僕が、悪役令嬢だから……」

「姉様、何か言いました?」

「ううん、何でもありませんわ」

 

 半ば投げやりにそう言うと、小窓から流れる外の風景を眺める。

 白の国というだけあって、白い建物ばかりが立ち並ぶ街並み。

 小高い丘の先には、その中でも特に荘厳な塔のような建物が見て取れる。

 あれこそアルビオン国立学園。

 白の国で最も権威のある国立の教育機関であり、その運営には、紅と碧の国はもちろんの事、教会の力も大きくかかわっている。

 完全寄宿制の学園であり、僕とフィンは、これから3年間を、ここで過ごすことになるのだ。

 そして、それは、僕にとって、もう一つ大きな意味合いがある。

 この学園への入学、それは『デュアルムーンストーリー~紅と碧の月の下で~』のゲーム本編のスタートを意味するのだ。

 

(憂鬱この上ない……)


 少し前の自分を主人公だと疑っていなかった頃であれば、きっと学園への入学にも、そこまで抵抗はなかっただろう。

 聖女としての魔法も使えるようになったし、攻略対象とおぼしきイケメン達とも適度な距離感で付き合えていたからだ。

 歯車が狂ったのは、1年半ほど前のあの日、妹との2度目の対面の時だった。

 あの時、僕は自身が悪役令嬢であることを知った。

 悪役令嬢──その概念を僕は知らなかったが、妹は懇切丁寧に教えてくれた。

 そして、知るにつけ、僕は絶望に打ちひしがれることになる。

 僕は、ヒロインのライバルである。

 それだけならいい。

 だが、権力をかさに着て、主人公を痛めつける性悪な悪女が本来のゲームの僕の役割だった。

 もちろん、僕自身は、そんなことするつもりなんて微塵もありはしない。

 しかし、この世界には、どうやら"強制力"とでも言うようなものがあるのを僕は薄々感じている。

 あまり思い出したくはないが、攻略対象であるイケメン達とのやり取りの中で、自身の胸が、まるで少女のように高鳴るような感覚を感じる時があったのだ。

 前世の僕は男。

 だから、いかに顔が良いからと言って、僕が同性である彼らにときめきなんかを覚えるはずがない。

 なのに、ドキドキと鼓動が早くなっていくのを感じた時は、何とも言えない恐怖を感じたものだ。

 イケメン達に振り向いてもらえない僕は、嫉妬からヒロインに嫌がらせをしなければならない。

 おそらく、その既定路線に乗せるために、僕の心さえも、世界によりゆがめられようとしているのだ。


「姉様、大丈夫ですか?」


 陰鬱な思考に埋没していた僕。

 それを心配したのか、弟のフィンが僕の顔を覗き込んできた。

 この1年ほどで、グッと大人っぽくなり、小柄とはいえ、身長も僕を抜いたフィン。

 可愛さに加え、わずかばかりの凛々しさも最近では垣間見えるようになってきた。

 紺色の瞳には、まるで吸い込まれるような魔性の魅力が……。

 って、また……!?


「だ、大丈夫ですから!!」


 思わず、顔をフィンから背ける。

 頬が熱い。

 何を隠そうフィンも攻略対象の一人だ。

 だからか、最近、特に意識してしまうことが多くなった。

 いや、攻略対象以前に、そもそもフィンは家族だ。

 家族に対して、こんな気持ちになるのは……健全じゃない。

 でも、フィンは養子だし……って、ダメだ。もう考えるな。

 パンパン!! と頬を叩く僕。

 そんな僕の様子を頭に?を浮かべながら眺めているフィン、そして、アニエスと共に、馬車は順調に学園への道を進んで行ったのであった。

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