アオイの魔術
さて、何を披露するべきか。有用なオリジナル魔術といえば飛翔魔術だろうか。しかし、それは聖都に来た際に使っている為、ジェムも把握している筈だ。
ならば、あのジェムの自信は飛翔魔術程度では覆されないに違いない。
「……そういえば、火の魔術について何か言っていましたね」
そう呟き、私は片手をジェムの方向へ向ける。
「な、なんだ!? 何をする気だ!? 言っておくが、私は上級の魔術を三小節で行使することが出来る! 力づくで勝負を挑んでも勝てるとは思うでないぞ!」
杖を持ちながらそんなことを言いだすジェム。別に戦うつもりもないが、その方が魔術を肌で感じることが出来るのも確かである。
まぁ、今は先に魔術の披露を行うことで様子をみるとしよう。使うのは私が持つ魔術の中でも最強の魔術の一つである。
魔力を指先に集中し、五指を揃えて手刀の形を作る。持てる魔力の大半を注ぎ込み、指先から徐々に前方に伸ばしていく。十分に魔力が集まったタイミングで、口を開いた。
「神炎槍」
呟いた瞬間、指先から青白い炎が発現する。肘から先が炎に包まれ、一瞬でジェムのすぐ横へと炎の槍が伸びた。
石でできていそうな階段の半ばに突き刺さった炎の槍は、まるでガラスが高温で溶けるように周りをドロドロと溶かしていく。温度は中心が千五百度程度になるようにしている為、石程度では殆ど抵抗なく溶かし切ることができるだろう。
「ひ、ひぇえっ!?」
ジェムが階段から転げ落ちるようにして離れた為、そちらへ軽く炎の槍を移動させる。すると、石の階段はさらに溶けながら切断されていく。
「ぬ、ぉおおお……っ!?」
階段上のディアジオが慌てた様子を見せた為、炎の槍はすぐに短く長さを調節した。どうやら三分の一ほど溶かしてしまった為階段の上の面が傾いてしまったらしい。
「な、ななな、なんだ、その魔術は……!?」
ジェムが顔面蒼白で叫ぶ。広間は騒然としており、中には私に剣を向ける者もいた。
「オリジナルの火の魔術です。火山に棲む赤い鱗のドラゴンに火の魔術が効きづらかったので、練習がてらドラゴンを倒せるまで火の魔術を強化してみました。とりあえず、鉄やミスリル、オリハルコンまでは問題なく切り裂けます」
そう告げると、ジェムが唾を飛ばして怒鳴る。
「ば、馬鹿な! 火山に棲む赤い鱗のドラゴンといえば、最上級の火のドラゴンではないか! そんなものを一人で倒せる魔術師などおらん! それにオリハルコンだと!? 王家の秘宝クラスであり、神の金属と言われるほど貴重な物なのだぞ!? 貴様のような小娘が手にいれることなど出来るわけがなかろうが!」
怒りに我を忘れているジェムを見て、面白いものを見つけたような顔をしたローズが前に出てきた。
「……石の階段を難なく切って溶かすところを見ていると、あながち嘘と断ずることもできないわね。メイプルリーフ聖皇国の秘宝の一つ、オリハルコンの短剣なら陛下がお持ちですよね?」
何処か嬉しそうな顔でローズはそう言うと、階段上にいるディアジオを見た。
「ちょ、ちょっと待て。この短剣は流石に許可出来ん。これは聖皇国にとって最も重要な秘宝なのだ。試し切りに使うなど断じて許すわけにはいかん」
慌ててディアジオが腰に手を当てる。どうやら、常に手元に持っているようだ。斜めになった階段の上で我が身を庇うようにしているディアジオを見て、そういえば謁見の間を一部破壊してしまったのだと思い出す。
話の途中だが、ひとまず修理だけしておこう。
「石細工」
そう呟き、石の魔術を行使する。溶かされて形を変えていた階段を整えながら固めていった。十数秒で元通りの形になる。倍は頑丈になったはずなので、それで許してもらおう。
「……い、今のは、無詠唱か」
と、階段の出来栄えを確認していると、ジェムが驚愕したようにそう口にした。
すると、謁見の間に来ていたバルブレアが呆れたように口を開く。
「何をいまさら。先ほどもそうだっただろう? それに、二日間しっかり調べたなら、アオイ殿が無詠唱で魔術を使うことが出来ると知っていた筈だ。自分に都合の悪い内容は全て無かったことにしたか?」
バルブレアがそう言うと、ジェムは目を丸くしたまま振り返る。
「まさか、そんな……無詠唱なぞ不可能だ。どうやってそんなこと……」
動揺を隠せない様子のジェムに、バルブレアは鼻を鳴らして片手を振った。
「貴様の嫌いな新しい魔術というものだ。それを聞くということは敗北宣言をすることと同義だぞ? 黙って余裕のある顔を貼り付けていろ」
バルブレアが切って捨てるようにそう言うと、アウォードが深い溜め息を吐く。
「……ジェム副魔術師長。アオイ殿は研究室でも魔術を無詠唱にて発現していた。話によると全ての属性で、だ。調べたのでは無かったのか?」
アウォードが追撃する形で確認すると、ジェムは息を詰まらせるように押し黙ってしまうのだった。
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