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陰謀はどこだ

 授業はある程度皆決まった時間でやっているらしく、今週も前回のような時間配分となった。


 あまり働けていないが、その分は研究して学院に成果を提出するとしよう。折角割り振られた研究室がある為、それを使わないのも申し訳ない。


 そんなことを思いつつ、私は一週間の時間割を確認する。


 もし、貴族社会を学院内で反映させるなら、貴族としての地位はもちろん、学院内での立場も上でなければならないのではないだろうか。


 ならば、怪しいのはロックスのように、高等部でも良い成績を出している王族といった者たちだ。


 しかし、ロックスはもうしないだろう。ストラスやエライザが言うには、人が変わったように真面目に授業を受けている。


 困ったことに、生徒の情報などはまだ殆ど持っていない為、手掛かりを得るまでがまず問題だ。


 さて、どうやって探ったものか。


 そう思った私は、そういった事情に詳しそうな人物を当たることにした。


 廊下を見回しながら歩いていると、目当ての赤い髪が見つかった。


「ロックス君」


 声を掛けると、珍しく一人で歩いていたロックスが目を見開いて驚く。


「ぬぉ!? あ、ああ、アオイ……先生か……な、何用か……?」


 これ以上無いほど狼狽するロックス。


 怪しい。とても怪しい。まさかとは思うが、首謀者はロックスか?


 そう思って見るせいか、額から汗を流しながら視線を逸らすロックスは異常に怪しく見える。こちらの顔色を窺うようにチラチラと盗み見てくるのは、やはり後ろ暗い何かがあるのではないだろうか。


「……ロックス君。もし、何か隠していることがあるなら……」


「ない! 一切無いぞ!? なぜ、疑うような眼で見る!?」


 慌てるロックスを暫く眺めてみるが、どうやら嘘は言っていないようである。


 もし裏から手を回して嫌がらせをするような人物であれば、ここまでわかりやすく動揺はしないだろう。


「……いえ、こちらの勘違いのようです」


「そ、そうか。いや、良かったぞ。本当に良かった」


 露骨に安堵するロックス。


 それを見て微笑み、私は聞きたかったことを口にする。


「ところで、ロックス君。貴方ならば、この学院にどのような人物がいるか、知っていると思いますが……貴方以外に、王族やそれに近い身分の方はいますか?」


 尋ねると、ロックスは怪訝そうに眉を顰めた。


「王族……? 言っておくが、俺にやったように王を呼びつけるような真似をしようというならば、止めておいた方が良いぞ。この国の国王は我が父ながら大雑把な性格でな。多少のことはあまり気にしないだろうが、他の国の王は違う」


「ああ、いえいえ。ご両親を呼んで説教をしなくてはならないほどの問題児は今のところロックス君だけです」


「…………そうか」


 私の言葉にズンと肩を落とすロックス。それを横目に、私は話を本題に戻す。


「それで、王族や関係者は?」


「……そうだな。では、初等部から……」


「あ、出来たら高等部でお願いします」


「むむ……? ならば、カーヴァン王国公爵家のバレル・ブラックは知っているな。シェンリー同様、一足先に高等部に上がった。後は、メイプルリーフのハイラム皇子、グランサンズの公爵家、クラガン。後は……もう卒業出来る技量と知識を持っているが研究の為に残っているブッシュミルズのバルヴェニー殿。ああ、コート・ハイランドのコートもそういう意味では同格だな」


「……コート君?」


 そういえば、彼も大貴族だという話だったか。物腰が柔らかく、丁寧な話し方をするため、すっかり貴族ということを忘れていた。


 彼は最初の授業の後も時々廊下や食堂で会っては雑談をしていたが、まさか、そんなことは無いだろう。


 しかし、話は聞いておくべきだろうか。


「む、もう良いのか?」


 考え事をしていると、ロックスが微妙に不服そうにそう言った。


「はい。ありがとうございました」


 お礼を言って話の終わりを告げると、ロックスは口をへの字にして「そうか」とだけ言い、去って行った。


 挙動不審だ。


「……耳が赤かったけど、体調不良?」


 私は首を傾げながら、その場を後にしたのだった。







 色々と探し回ってみたが、結局コートは見つからなかった。


 火曜日の授業前となり、仕方なく教室に向かって歩いていると、不意にフェルターと話すコートの姿を見た。


 どこか険しい顔で睨み合うように会話する二人の姿に、私は早足で側に寄る。


「……ケンカをしてはいけませんよ?」


 そう言って声を掛けると、二人は揃ってこちらを向き、すぐに顔を見合わせた。何か二人で意味ありげに頷きあい、コートが先にこちらを振り向いて答える。


「すみません。ケンカをしているわけではなかったのですが、ご心配をおかけしました」


 コートにそう言われるが、私は思わずフェルターの方を見る。


「……本当ですか? 虐めてはダメですよ?」


「……虐めなどしない」


 不貞腐れるように答えるフェルターを半眼で眺めてからコートに向き直る。コートは「虐め……」と呟きながら笑顔を引き攣らせていた。


「コート君」


 色々と確認しようと名を呼んだが、コートは「あ」と声を発して手を合わせた。意外に古めかしいリアクションで何かに気がついたコートが、廊下の奥を指さす。


「もう授業が始まるのでは?」


「……後で、お話があります」


 一瞬迷ったが、教師が授業をサボれるわけがない。私はコートに捨て台詞のような言葉を残すと、踵を返した。


 ギリギリで間に合い、すぐに扉を開けて教室に入る。


「遅くなりました」


 そう言って入ると、最初の授業から参加している生徒達と、なぜか毎回同席しているストラスやスペイサイドら教師も席に座って待っていた。


「もう、アオイ先生おそいー!」


「いや、丁度です! アイルったら!」


「あ、コート先輩!?」


 テンションの高い三人組の女子生徒達が騒ぎ、私は苦笑しながら教壇の前に立つ。


 そして、ようやく他にも一緒について来ていたことに気が付いた。


「コート君?」


 振り向くと、扉から片手を振りながら爽やかな笑顔を振りまくコートの姿が。


「参加、まだ間に合いますか?」


「はい、大丈夫ですが……」


 そう言って参加者名簿を見せると、コートは笑みを深めてさらさらと自分の名を記帳した。


 深く考えても今はどうせ確認できないのだ。私は開き直って授業を始めることにする。


 と、その時、コートが「あれ?」と声を出した。顔を上げると、コートはアイルを見て首を傾けている。


「アイル。何をしているんだい? もしかして、前から受けていたのかな?」


 そう優しく尋ねるコートに、アイルはつんとした態度で顔を背けてしまった。


 いつにないアイルの態度に違和感を感じる。拗ねているようであり、怒っているようでもある。


 しかし、コートは全く気にせずに適当な席を見繕って座った。


 二人の態度に何か感じるが、気にしても仕方がない。


「……授業を始めます」


 私はそう言って、皆の名前を呼んでいった。




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[一言] アオイさんは無自覚で魅了している感。
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