儚げな少女、無力感に苛まれる
襲い掛かる何かを、振るった雷が裂いていく。
斬ってから焼き尽くされたのか、焼き尽くしてから斬ったかは定かではない。あまりにも軽いその太刀は、振るった本人である私ですら目で追えない。確信を持って、手数と攻撃速度だけならガドにも匹敵すると思った。
それほどまでに、この刀に宿る神の力は凄まじいのだろう。雷を伴う斬撃、放った魔法には稲妻が加わり、ただただ周囲が焼き尽くされていく……しかしそれでも、私の額には嫌な汗が噴き出続けていた。
(いつまで、続く……!?)
長いこと刀を振り続けているが、一向に終わる気配がない。まだ私の実力が足りないのか? もっと早く、倒せという事なのか?
「ッ……!」
焦りが詰めの甘さに変わる事は、私が一番よく分かっている。戦士とは猛き者ではなく、状況を冷静に判断し、その上で剣を振るう者のこと言う。目の前の敵だけに刃を振るうのは、狂戦士と何ら変わらない。それでも、私は焦ってしまった。
不意を突かれ、腕を掴まれてしまう。
(しまっ――)
腕の次は足、最終的には四肢を封じられ、刀は手から離れてしまった。魔法も何故か使えない、力も何故か、入らない。意識が朦朧としてきて、痛みの代わりに自分への失望が募っていく。そして、私は――。天井から射す陽光を見た。
「……え?」
気が付くと、私は宝の山の上で寝そべっていた。言わずもがな、そこは先程まで自分がいたはずの、城の宝物庫だった。――どういうことだ? と、考察よりも先に、私は見た……私とぺパスイトスを飲み込んだはずの、鏡を。
何ら変わりはない、何の変哲もない鏡だ。完成美を塗り重ねたようなデザインに、変わらず私は引き込まれた。――なのに、私は決定的にそれが「違う」と思ってしまったのだ。
恐る恐る、鏡に手を伸ばす。試練がどうとかそういうのではなく、体が勝手に動いたような、そうやって伸ばした指先が、鏡の表面に触れて――。
――亀裂。音を立てながら広がっていくそれに怯え、私は尻もちをついた。次第に亀裂は隅々にまで広がり、最終的に鏡はバラバラに砕け散った。
何も分からない、何も私には分からない。あの瞬間、何が起きたのか。私はあの時どうすればよかったのか、そもそもどうしてここに戻されたのか……触れた途端に鏡がどうして割れてしまったのか。
そんな私が、純粋な疑問として声を出した。
「……ぺパスイトス?」
何も映さなくなった鏡を茫然と見ながら、私はただ、無力感に苛まれていた。