あなたが選ぶ物はなに?
明けましておめでとうございます。
今年も拙作をご愛読いただけますよう精進していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
そして今回から新ゲームに入ります。まずは無人島サバイバル【Choice For Survival】からになります。
「なるほどなるほど、よーくわかった。つまり、このゲームは始まる前が本番だな?」
無人島サバイバルゲーム【Choice For Survival】にログインし、茶管が作っていたルームを選択。初めてのログインだったのでいつも通りのキャラメイクを終えたところで、俺は理解した。
チョイサバと呼ばれるこのゲームは、要するに漂着した無人島で助けが来るもしくは脱出するまでのサバイバルを行うものだ。拠点を作ったり狩りしたり、生活道具を作ったりするタイプのアレだな。
そしてチョイスという言葉通り、このゲームは開始時点で3つのアイテムを選択し持ち込むことができる。中学校や高校で稀によく話のネタになるやつだ、「え~、俺なら~」みたいな。中高生時代に俺がそんな会話をする相手はいなかったけど、しているやつなら何回か見てきた。
この持ち込むアイテムはかなり自由で、ナイフや飲料水と言ったスタンダードなものから拳銃やサブマシンガンと言った銃器、果ては方天画戟やヌンチャクのような「お前は無人島に何をしに行くつもりなんだ」と言いたくなるようなものまである。
まあ、成人男性が持ち運べる程度という決まりがあるのでさすがに重機を持ち込んだりはできないし、マシンガンなんかも規定数の弾丸しかないみたいだけどな。
「で、今に至るわけなんだけど。ふーむ、これはアレかな?世界最大の通販サイトかな?」
そう思ってしまうほど選べるアイテムが多い、いや多すぎる。アイテム選択は十分以内というルールの意味が分かった。下手すると優柔不断なやつは二時間あっても決まらねぇぞコレ。ジャンルごとにタグ付けされてるけどそのタグが多すぎんだよ。
まずサバイバルゲームなのにサバイバルのタグ以外は要るのか?なんでダイエットっていうタグがあるんだ。ネタ用なのか、それとも俺が知らないだけでサバイバルにダイエット器具は意外と重宝するのか?確かにダンベルでぶん殴れば多少の武器にはなるかもしれないけど、それなら初めっからスレッジハンマー持っていくわ。
「茶管はイージーなら多少ふざけても構わないって言ってたけどなぁ……。うん、ひとつはネタにするにしろ二つは真面目に選ぼう」
だとするとまずは……これだな。これが無いとサバイバルは始まらない。これがあるか無いかで極限状態での生存確率は格段に変わると言う。
そして二つ目はこいつだ。武器としても作業用としても万能、そしてがんばれば一つ目の代用にできないこともない。少し大きめのものを選んでおけば間違いないな。
最後はネタとしてこれだ。実は俺、これできるんだよな。それを知ってる人なんてそれこそ親類縁者しかいないけど。
この三つなら呆れられることは無いだろう。イージーモードだし初見だし、真面目にやりつつちょっとふざける感じで。おそらく他の三人も似たような感じなんじゃないかな、きーちゃんとかガチガチのサバイバル装備で来てたりしそうだ。
ん、全員の準備が終わったようだ。難易度はイージー、設定された救助が来るまでの時間は一~二週間。救助のタイミングってある程度ランダム要素があるのね。
それじゃあめくるめく無人島ライフへ、いざ出発!
「ん、んん……え、何ここラオシャン?アクア居る?」
いや違う違う、ゲームが違う。漂着したという設定どおり、うつ伏せに倒れる形で砂浜に打ち上げられているんだ。砂浜=ラオシャンの発想はちょっと改めよう。
若干ぼぉっとする頭をふるふると振りながら立ち上がってみると、同じタイミングで近くに転がっていた三人の人影がむくりと起き上がった。
「ウェルカム、チョイサバの世界へ。イージーだから全員同じ場所で目覚めたがノーマルからはバラバラだ、それも難易度が上がるごとに遠く離れる。さ、まずはアレを漁るぞ」
指差したのは半壊した救命いかだ。テントが乗った円形のゴムボートのようなそれは、おそらく俺たちが乗っていたという設定なのだろう。
だが待って欲しい。まずはアレを漁るぞ、ではなくまずは一言俺に言わせてほしい。いや、一言ではなく二言三言と言いたいことがある。
「なんだ赤いの?別にアレは中身とるまで消えねぇからいいけどよ」
「まず一つ。……なんでお前女のカッコしてるんだ」
そう、他の二人がいつも通りのデフォルトであるため消去法&口調的に茶管と思わしきそのプレイヤーは、紛れもなく女性である。
腰までありそうな長く明るい茶髪、漂着という設定上仕方ないがサバイバルする気あるのかと問い詰めたくなるヘソ出しTシャツにホットパンツ。妙に出来のいいサバサバした感じのヤンキーねーちゃんの姿を茶管はとっていた。
「あ?アバターの性別なんて飾りだし、たまにはいいんじゃね?ハードとかならともかくイージーなんてただのバカンスだしよ」
「ちゃんとボイスチェンジャーを使ってて良かったねぇ。これでいつも通りのオラオラ系兄ちゃんボイスだったら僕は笑いをこらえられる気がしないよ」
あははと呑気そうに笑う青だがお前もお前で大概変だからな。笑いをこらえられそうにないってのは俺のセリフだアホ。なんでお前は徳用アイスのバケツ抱えてんだ?んん?
「……みんなが選んだアイテム、教えてくれないか?」
そしてみんながそれぞれ持ち込んだアイテムを砂浜へと陳列していく。並べられるそれらを見て、なるほどと納得できるものもあるが何だそれはと言わざるを得ない物も多い。主にオメーのことだぞ青。
赤信号
・サバイバルナイフ(刃渡り10センチほど。折り畳みではない)
・多機能スコップ(スコップ、のこぎり、クワ、斧、つるはしになる)
・三味線(中棹)
ブルマン
・RPG (ゲームじゃなくてロケットランチャーの方。弾数3発)
・日本刀 (忍者刀のような反りがなく刃渡りもやや短いもの)
・徳用アイスクリーム (バケツみたいな大きさのアレ。チョコクッキー味)
キハダ
・スナイパーライフル (ボルトアクション式。弾数24発)
・大型クーラーボックス (結構頑丈。踏み台にしても大丈夫)
・手回し充電式懐中電灯 (ランタンみたいにもなるやつ)
茶管
・サブマシンガン (総弾数200発)
・毛布 (分厚過ぎないもの)
・パラシュート (丸ではなく長方形のやつ)
「こんなの、見たらわかると思うんだけどなぁ」
「まあまあ、ダブルチェック・クロスチェックは大切ですよ。情報に齟齬が有ってはいけません」
齟齬があるのは情報ではなくて常識感覚ではないだろうか。
きーちゃんはまぁわからなくもない。スナイパーライフルは最悪スコープをデカい望遠鏡として使えなくもないし。クーラーボックスは普通に使えそうだし、電池切れがない灯りはとてもありがたい。
茶管も多少首をひねるがわかるよ。パラシュートは何に使うのかわからないが、経験者が選ぶんだから何かしら使い道があるんだろう。この無人島の気温はけっこう暖かい方だが毛布もあって困る物じゃない。
でもごめん青、お前だけはマジでわからん……!RPGと日本刀を担いだ危険人物がなんで徳用アイスクリームを後生大事に抱えてるんだ。ていうかどういった理由でアイスなんだ、お前クソ物騒なもん抱えてるくせにそこだけ本気でバカンス気分じゃねーか。
まずさあ、なんでみんなさも当然の様に銃火器を持ってきてんだよ、もうなんかハリウッド映画とかによくある軍内のおバカが集まった問題児部隊にしか見えねーよ。こんな装備のやつらが乗り合わせてた船って何なんだ、漂着したんじゃなくて強襲揚陸作戦の間違いじゃないのか。
俺だけ銃を持ってないのが逆に浮いてんじゃねーか、ナイフじゃなくてショットガンでも持って来た方がよかったか?
「はっはっは、なんだお前ら割と真面目に選んだな!初心者ばっかりだからってフォローするつもりでアイテム選んだが流石のゲーマーどもだ!」
「そりゃあれだけ選択肢が多いとわかってたら、多少は事前に調べちゃうよね」
「私はこういうの、どうも効率的になっちゃうんですよね。もうちょっとハジケたいなって思うんですけど」
「なぁに、だったら次に冒険すりゃあいいんだよ。何度もトライできるのがゲームなんだからな」
わしわしときーちゃんの頭を撫でる茶管。ちょっと身長が低めのきーちゃんをヤンキーねーちゃんが撫でているのはけっこう絵になるなぁ。
じゃなくてね。え?何?このアイテムの並びって結構ガチな感じなの?俺にはガチ40パーセント、ネタ60パーセントくらいに見えるんだけど。
「あのな赤いの。大は小を兼ねるって言葉があるだろ?このゲームは割とそんな感じでな、ナイフで出来ることは大抵日本刀で出来る。まあ持ち運びや取り回し云々の話があるからデカい方が絶対に良いってわけじゃあないが、刃物系統で日本刀を選ぶのはけっこうアリなんだぜ」
はーなるほどね。要するにこのゲームでは『切る』という行為に対してツールの向き不向きはあれど、刃物である限り『できない』ということは無いってことか。血抜きして皮を剥いで……ってしなくても、狩りが終わったら獣が肉という形でドロップするタイプなんだな。
そういうことなら確かに日本刀はアリだろう。まあでもナイフの有用なところは携帯性の良さだから、完全上位互換ってわけではないだろうけど。
「アイスは?」
「実際にコレ持って、アイテムとしてインベントリ見てみなよ」
はい、と手渡されたアイスをインターフェース経由で調べてみると……
【徳用アイスクリーム チョコクッキー味 4リットル】
とある有名アイスクリームメーカーが製造・販売しているちょっと高級なアイスクリームの業務用サイズ。ふんだんに混ぜ込まれたチョコクッキーが美味しく、なめらかな口あたりがとろけるようでクセになる。今ならおまけとして金属製アイスディッシャーも付属。
・満腹値+5(100ミリリットルごと)
・水分値+10(100ミリリットルごと)
・短時間に摂取しすぎると頭がキーンとなる。
・空になった容器はバケツ等に使用可能。
……これ結構有能なのでは?
視界の端に出ている満腹値と水分値はそれぞれ上限が100のようだし、100ミリリットルごとに効果発揮なら単純にこれ一つで満腹値200と水分値400になる。どれくらいのスピードで各ゲージが減っていくのかは知らないけど、それなりに賄えるんじゃないのか?
「腹も満たせて喉も潤わすことができるし溶けることもない、いいアイテムだ。消耗品なのは惜しいがそれで一人が二日は生きていけるし、なにより美味いから食うことに我慢しなくていい。もう一つのRPGは……まあ、最終手段としちゃあ悪くない。邪魔な岩や木を吹っ飛ばして整地するのにも役立つだろうぜ」
なるほど、ネタ装備に見えて割とガチ装備だったわけだ。……あれ?もしかして本気でサバイバルにおいて何の役にも立たないアイテムを持って来たのって俺だけ?
「三味線というチョイスに割とびっくりしてますけどね。あーさん、それ弾けるんですか?」
「ばあさんに教えてもらってたからな。ホントに弾ける程度だし、曲もそんなにないけど」
「赤も大概よくわからないスキル持ってるよね……」
ひとまず俺の疑問は解けたことだし、ゲームを進めよう。時間に追われる系のゲームなのに足を止めさせてしまってすまない。えーっと、救命いかだを漁りに行くんだったか?
「そうそう。日が暮れるまでにやることはあるし、ちゃっちゃとやっちまおうや」
この救命いかだ、聞けばイージーモードでのみ現れるお助けアイテムボックスらしい。中に入っているのは人数×二日分の食料と飲料水、それに釣り糸と救急セットが一つずつ。
なんというか、これで生き残れるうちにこれからの生存ルートを確保してね感がすごい。それに現状俺たちの満腹値と水分値と体力は(漂着しているくせに)ほぼフルなので、結構な時間の猶予があるわけだ。
茶管に倣って手早くアイテムを漁り、当面の水と食料を手に入れる。今回のマジカルバッグに当たるインベントリグッズはなんとポケットだ。きーちゃんが七分丈パンツのポケットににゅるにゅるとスナイパーライフルを収納しているのを見るとちょっと頭が痛くなってくる。TVゲームのころとやっていることは同じなのに、視覚化されるとなんか腑に落ちないのはなんでだろう。
とはいえ、この異次元ポケットも万能ではない。ポケットに入るアイテムは合計で十種類まで。それ以上はストレージアイテム(リュックサックとかそういうの)が無ければ収納できない。が、きーちゃんが持っているクーラーボックスはそれなりのストレージになるそうだ。うん、きーちゃん有能。
「メシと水がまとまって手に入るからイージーは良いよな。これがエクストリームだと餓死&脱水症状寸前の状態でラプトルの巣を駆け抜ける羽目になるからなぁ」
それを抜けるために開幕徳用アイスを爆食いする人もいるらしい。聞くだけでわかる極限の名に恥じぬ地獄だ。エクストリームモードだとこの島には恐竜が出てくるのか、ちょっとやってみたいぞソレ。
「まずは水源の確保ですか?」
「それとも食料調達場所の調査かな?」
サバイバルと言えばまずそれだよなあ。やっぱね、人間は腹と喉が満たされてないと生きてけないんだよ生き物だからね。
しかし、知識豊富な先達であるヤンキーガール茶管はちっちっちと指を振る。いつもの顔ならそのドヤ顔にイラっとしたかもしれないが、今のアバターだと妙に似合っているのがなんだかなぁ。
「おいおいオメェら、今回はバカンスだぜ?地べたで寝っ転がって星を見るのもいいが、最初は寝床だろ?」
呂布が方天画戟を持っているのは創作らしいですけど、私の中では呂布と言えば方天画戟、諸葛亮といえばビームを出すおっさんです。
一見ふざけた装備でも、ゲームシステム的にガチになることってありますよね。