我は空気、我は背景。それがぼっちの生きる道。
日本からサヨナラする日が目前です。
ここ数日というプレイを諦めざるを得ない時期に色んなゲームが発売しましたね(血涙)
次に帰って来た時にはどんなゲームが旬になってるんでしょうね……
ひとまず超希少品のデータをインターフェースのメモツールに書き写し、外見はスクリーンショットを撮っておく。これはあらかじめ青に許可を取っているので大丈夫だ。俺のやつも向こうでバシャバシャ写真撮られてるしな。
「なあ青、お前らは他にも持ってるんだろ?」
「これでもそれなりの商会なんでね、そりゃこういう話は他に無いわけじゃないさ。でも、現物はそれだけだよ」
青の商会が保有する超希少品を見せてくれるという約束はちゃんと守っているわけだ。ま、大なり小なりなんらかの駆け引きをして得た他のデータまでは見せてくれないか。
俺は商会員じゃないし、それは仕方ないな。こっちは1つなのに対して3つ見せてくれただけでも御の字ってやつだろう。
「さあみんな、スクショは撮ったかい?いいね、それじゃあ一旦静まろうか」
パン!と手を打って、ああでもないこうでもないと話し合っていた幹部たちの注目を集める青。ふーむ、なかなかちゃんとリーダーしてるじゃないか、俺とは大違いだな。
「さて、今回赤信号が持ってきてくれたパーツ。これは航海日誌と同時期の物と見ていいだろうね。そして、伏字になっていた船名はクイーン・セレスティアル号で間違いない」
「加えて言うのであれば、おそらくこの時期のものが一番古い反面、最も優れた技術レベルであるということですね」
「その通りだよ、情報長。これらから、この世界の文明レベルは退化しているんじゃないかと仮説が立つわけだ」
え、なに?今ここで考察議論が始まるの?つーかこれを俺が聞いてていいの?
「多分、他にもクイーン・セレスティアル号のパーツはあると思うんだ。その中でも、今回のは割とクリティカルなものだと、僕は思う。飛行船のデザインについてこの中で一番詳しいチーフデザイナー、君はどう思う?」
「そうだねー、現状のドック船が作れるもので一番メカメカしてるのって、食品加工設備や冷蔵庫っていうレベルなんだよね。まあ、ゲームでよくある産業革命直後くらいかな?それと比べるとさ、今回のパーツは文明水準が違い過ぎるよ。グライダーとジェット機くらいの技術差があると思うな」
「するってーとなんだ、こいつぁ皆目見当もつかねぇ謎のパーツってか?」
「そうでもないよ、加工長。このパーツには浮遊能力があって、それでいてあたしたちが懐かしさを覚えるような物なんだよね。それをあたしたちが似たような物を知っているって意味で捉えると、多分バルーンが一番近いんじゃないかな?」
「バルーンに近い物。なるほど、技術レベルがこれだけ違うのなら、もはやクイーン・セレスティアル号は飛行船ではなく、SFに出てくるような重力制御で浮かぶ船なのかもしれませんね。個人的にはその考えに賛成です」
「こればっかりは他のパーツが出てこないことには妄想でしかないけどね。でも、わざわざ船の名前や進水式っぽい日付が書かれているんだもん、船にとって重要なパーツであることは間違いないと思うよ」
なんていうのかな、レベルの違うガチ討論会に賑やかしで参加させられた、中途半端な知識しかない芸能人のような気分だ。もはや意見を挟むことすら許されない雰囲気。もとから喋るつもりはさらさらないけど。
黙って座っていたらベテラン飛行船乗りの皆さんがそれぞれの考察を披露してくださるのだ、ならば俺にできることはこの場の空気と同化することのみ。さあ、俺の存在を忘れて存分に話し合うがいい!
「個人的には写真の方が知りたかったんだけどなぁ。これって多分ウィンズの設定に繋がるやつだよねぇ。ウィンズは頼りになるんだけど設定はあやふやだからなぁ。現時点だと『いるんだから、いるんです』って感じだよねぇ。羽もないのに飛んだりするのは、そういうファンタジーな世界だから、でも納得するけどさぁ」
「わかる。こんなにいろんな種類の生き物がウィンズとして存在しているのに、野生ではとんと見ないからな、生態系とかどうなってんだろう。あ、でも野良ウィンズに出会うランダムイベントがあるんだっけ?」
「それがばっちりライオンやねん。あん時はこの写真を知らんかったからテキトーに流したけど、クソもったいないことしたわ!」
歯ぎしりをして悔しがる男性幹部を見て、俺の背中に冷や汗が垂れる。ああ、やっぱりあのライオンはセイランという認識があるんだ……。
セイランは飛び疲れですぐに寝ちゃうからな、俺もシナトが風読みを教わっていなかったら話しかけたか微妙なラインだし。「へー野良のウィンズもいるんだ」で終わらせてもおかしくはないな。
「乱数引いたら発生するタイプじゃなくて、1匹しかいない徘徊NPCであるライオンと遭遇することが条件のタイプだったらかなりのレアイベだよね。相当運がよくないと二回目は厳しそう」
「だから信頼できる商会員にはまずこれを見せて、野良ライオンに出会った時にはちゃんと会話をするように頼んでるんだけどなぁ……成果は無いんだよねぇ。ウィンズ大好きましろちゃんはかなり本気で探してるっぽいけど」
「ああ、こないだチーフデザイナーの紹介で入った女の子な。スゲーよな、仮にも2メートルはある金狼に躊躇なく抱きついて「かわいい~!」だろ?オジサンさすがにびっくらこいたぜ。あんなに困惑してるジンガを見たのは初めてだ」
「うちの生意気フェニックスのディーンもたじろいでましたね。最終的にはなすがままにされていましたけど。だいぶプライドが折られたのか、今ではましろさんを呼ぶぞというだけでかなり従順になります」
ましろつっきーさんは商会に入ってだいぶハジケているようだ。シナト曰く『撫でられるのは気持ちいいんだけど、何かを失う』というその手練手管は、ウィンズの中では恐れられているのだろう。
しかし、ここで話題になっているライオンに出会ったことあります、と発言したらどうなるんだろうか。……うん、悪い予感しかしないから黙っておこう。仮に話すとしても青だけにしよう、きっとそれがいい。
この後も色々な意見が出されたんだけど、どんどんヒートアップしてきたようで次第に俺の知識では間に合わない内容がポンポン飛び交うようになってきた。
これはもう空を飛びつくした人たちじゃないと内容を聞き取ることも難しそうだ。
「ですから、お城の中のステンドグラス、あれがこの世界の始まりを表していてですね……」
「それな!空王の一族は絶対に何か情報を持ってるぜ、あいつらに吐かせるにはどうするのが正解なんだろうな?」
「最近は多少の寄付金では動じませんからね。そもそも情報を吐くように設定されているのかも怪しいですけど」
「それよりもクラウドエンドの遺跡にある暗号解明が先でしょ。あれ、絶対何かあるって!」
「16ヵ国語を試しても無理だったあれですか?モールス信号や点字でもありませんし、多分運営が嫌がらせで作った新言語ですよアレ。本業が言語学者か考古学者の人を連れてこないと解けませんって」
うん、なんかネタバレ気味なものが多くなってきた。なんだ遺跡の暗号って。16ヵ国語を試した時点で凄いわ、俺一人だと確実にお手上げだぞ。
俺がいる意味ももうないし、そろそろサヨナラさせてもらおうかな。議事録でも作ってるのか、隣でメモツールに高速タイピングしている青にこっそり帰宅の旨を伝えよう。
「青、俺はもう帰るわ」
「ん、なんか君をシカトして話し合いを始めちゃってごめんね。送っていこうか?」
シカトしてくれるのはむしろありがたいので問題ない。大規模商会幹部たちの世界観考察なんかを聞けて、俺が差し出した情報よりも多くのお返しを貰ってしまったぐらいだ。
さすがに不平等が過ぎるので、セイランについては俺が個人的に気になることを確かめた後、青の方にメールを入れておくことにする。
「一本道だったから大丈夫。落ち着いてきたころに皆さんにお礼を言っといてくれ」
「はいはい了解。……あ、そうだ。IRの方で大型イベントが近いうちに来るらしいよ。最近まったりしてるし、イベント前に僕もリハビリ始めるけど?」
マジか、それはちょっと気になるな。きーちゃんが荒ぶってなければいいけど。
どちらかというとローテクな世界観のセレスティアル・ラインも一息ついたと言えるし、タイミングいいじゃん。
「漁船兼交易船っていうひとまずの目標は達成したし、そろそろプレイの比重を減らしてもいいかな。……明日か明後日にでもきーちゃんにボコられに行くかぁ」
「あはは、僕も転がされに行こうかな。じゃあまた!」
「ん、また」
シナトを連れて、できるだけ目立たないようにひっそりと会議室を後にしようとしたら、去り際に桃ちゃんさんがこちらにウィンクをしてくれた。
声を出して他の人に気付かれない様にしてくれたのか、それとも議論が楽しくてあいさつする暇も惜しんだのか。どちらにせよ助かることには変わりないので、頭を下げて退室した。
「これから、なにするの?」
青の商船団本部を出て、我らが母船である第二王鮭丸へと帰る途中にシナトが聞いてくる。
「ちょっと気になることがあってな。それを確かめに東へ行こうと思う」
その気になることとは、あの航路図に薄っすら残っていたカルムから東へ向かう線のことだ。特にその先には島の絵があるわけでもないのに、なぜあんなところに線が引かれていたのかがどうも気になってしかたない。あの先に何かあるんだろうか?
一回見ただけの俺がその場で気づくようなことなんだから、あそこにいた人たちもほぼ間違いなくわかっていると思う。議論の時にもほとんど触れられてなかったしね。
聞けば答えてくれたかもしれないけど、こういうのは自分で確かめるのがゲームの面白さ。行ける場所にあるんだ、だったら自分で行こうぜ。
風に揺れる草原を見ながら桟橋へと歩を進める。なだらかな上り坂を越えると桟橋は目前だ。黙って座っているだけでも結構つかれるもんだよ、ああいう所って。
坂の上から王鮭丸を見れば、船員たちがデッキ掃除の真っ最中だった。副長が暇があればすぐに掃除する綺麗好きだからなぁ。『目鼻が利いて几帳面、そして負けず嫌いであること』が良い船員であるとかなんとか。そういう人は船員じゃなくても良い人材だと思うけど。
「おかえりなさいませ、頭。もうご用事はお済になったので?」
王鮭丸に帰ると、船員が掃除をさぼっていないか見張っていた副長が搭乗口のところで出迎えてくれた。
「留守番ありがとう、副長。有意義な時間だったよ。調べたいことがあって、次は東へ向かうことにした。ひとまずカルムに向けて飛ぶ」
「東へ向かうんですね、承知しました。もうじきデッキ掃除が終わりますんで、しばしお待ちを」
そこまで急ぎでもないから、ゆっくりやればいいよ。
航路図を開いてカルムの位置を確認。ここから7日か、ちょいと遠いな。
「シナト、カルムまでの風を読んでくれるか?」
「ん。……いい風がふいてるよ。いつもより、早くつきそう」
やったぜ。シナトが口に出して早く着くと言った時は、大概かなりのショートカットになるんだ。予定が7日なら、1日2日くらいは短縮できるかもな。
程なくしてデッキ掃除は終わり出航の準備が整った。航路図からカルム島を選択したら、いざ出航だ。
相変わらず全自動不思議パワーで行われる出航作業だが、これも十分な人数のNPC船員を雇えば彼らが行うらしい。さすがに不思議パワーには速度で劣るのでオプションからどちらかを選択できるそうだけど、一度は見てみたいもんだ。
少しづつ離れていくグレート・ブルテンを見て、いつかこんな島を手に入れるのも夢がある、と思う。たとえそれが個人では到底手が届かないとしても、思うだけならタダだ。
ソロプレイは気楽でいい。何をしても他人に迷惑を掛けない限り文句を言われることは無いし、全て自分が納得できるように進めることができるから。
でも、大抵のゲームは複数人で協力するコンテンツがあるのが基本だ。そしてそれはゲームが進行するほどに比重が大きくなってきて、やがてソロの限界というものが来る。その時にここが限界だと受け入れ甘んじるのか、それともゲームを遊びつくしたいと思って一歩踏み出すのか。
殆どの人はそんなところで悩むようなことはしないかもしれない。でも『無言部屋』というコミュニケーションを放棄したルールが存在するように、知らない人とふれあうことに抵抗を感じる人は確かに存在する。俺という確固たる情報源があるのだから間違いない。
こんな悩みも、オフラインモードしかプレイできなかった数ヵ月前に比べれば贅沢なものかもしれないけど。少なくとも、あの時に他プレイヤーの世界観考察議論を生で見ることはできなかった。
『他人の意見を聞けて良かった』と思える程度には、俺も人に慣れてきたのかな。
次回でセレスティアル・ライン編はいったん締める予定です。活動報告の方でちょいちょい出してるゲーム達も順番待ちしてますしね。
しかし先にIRに出戻りです。