転移した先が悪役令嬢の処刑現場でした
「これより、マリリア・ハイベルグの処刑を執行する!!」
断頭台を囲む民衆から歓声が上がった。そして、俺に視線が集まる。
不味い……。とんでもない場面に転移してしまった……。
「貴様! 何処から現れた……!?」
死刑執行人の一人が斧を構えながら叫ぶ。衣服を見る限り、ここはルーベリア王国のようだ。
さすが蛮族の国。未だに公開処刑を行なっているとは……。しかも、うら若き乙女が断頭台に囚われているではないか……。とても好みの顔だ。
「おい! 話を聞いているのか!?」
「それはこちらの台詞だ! 処刑立会人のことを聞いていないのか? 王家より通達があった筈だぞ?」
執行人二人が顔を見合わす。
「……そんな通達あったか……?」
「そういえば……少し前に書簡が届いていたが……」
「読んだか?」
「開いてすらいない……」
二人は急に慌て始める。
「最近、私怨による冤罪が増えているのだ。つい先日も全くの無罪だった貴族令嬢が首を落とされてしまった。それで、立会人が死刑囚の言い分を聞くことになったのだ」
「言い分を聞いてどうなる?」
「はぁ……」
溜め息をつくと、執行人二人は不機嫌になる。
「なんで私が立会人に選ばれていると思っている……!?」
「えっ、いや……」
「人の嘘を見破ることが出来るからだ!」
ピシャリ言い放つと、周囲から音が消える。
よし。主導権を握った! このまま嘘を真にするぞ!
「執行人Aは死刑囚を見て『もったいないなぁ〜首を落とす前に一回抱きて〜』と思った!!」
斧を持った男を指差す。
「ば、馬鹿なコトを言うな! そんなこと思うわけないだ──」
「はい! 嘘!! 皆さん、この男は嘘をつきました!!」
民衆が一斉に斧の男の方を見て「嘘つき!」と叫ぶ。
「死刑執行人Aよ。認めるか?」
「……認めます……」
馬鹿め。
「では、続けよう。今、まさに処刑されようとしているご令嬢に問う。君は何の罪でここにいるんだい?」
女は長い睫毛を瞬かせ、控えめに語り始める。
「私は実家の家計を立て直す為、商人上がりのバルモア男爵家に嫁ぐことになりました。しかし、相手はガマガエルのような見た目の醜悪な男で、おまけに加虐趣味までありました。借金のカタに奉公に出された平民の娘に夜な夜な鞭を振う。私は決心しました。この男を殺して、自分も死のうと。そして、男が好んで飲むワインに毒を忍ばせました……。男は一命を取り留めましたが、私は殺人の罪でここに……」
ず、随分と具体的じゃないか。動機も山盛り。本当に殺ろうとした……?
魔眼を凝らしてギッと女の顔を見つめる。ぼんやりと赤色が見えた。この子は……嘘をついている。
「ご令嬢に追加で質問だ。ワインに入れたという毒は何処で手に入れたんだい?」
「……スラムの薬屋で……」
「はい、嘘! 完全に嘘! なんで嘘をつく?」
「……」
女は動揺を隠せない。
「誰かを庇っているのでは? 例えば男爵に痛めつけられていた平民の娘……」
「違います!」
女の顔が赤く光った。
なんてことだ……。青い血が流れていながら、何故平民の娘の為に死のうとする……? 理解出来ない。出来ないが、ここで女の嘘を指摘すると、その想いが無駄になってしまう。
どうする……? 考えを巡らせていると──
「マリリア様ァァ!! どうして……!?」
泣き叫びながら、見窄らしい格好の娘が駆けてくる。なかなか可愛い。
「リン! 来ちゃダメ!!」
断頭台から悲痛な声がする。この子が例の平民の娘か。
「マリリア様は無実です! バルモア男爵に毒をもったのは私で──」
「はい、嘘! 完全に嘘!!」
全くもう! 面倒くさい!!
「どいつもこいつも嘘ばっかりじゃないか! 処刑立会人に虚偽の発言をすることは重罪だよ!」
誰も彼も黙り込む。
「君、こっちに来て!」
泣きじゃくる娘の手を握り、魔力を込める。
「はい! 死刑!!」
転移魔法で娘を飛ばす。続いて断頭台に近寄る。
「マリリア! 君も嘘をついたね! 死刑!!」
涙で濡れた頬に触れ、転移魔法を発動。あっという間に二人が消えた。
民衆の視線が全て私に注がれる。
「実は処刑立会人の話は全部嘘です! 嘘をついたので、私も死刑!!」
続いて俺も、転移魔法で飛んだ。
#
グニャグニャになった空間を抜けると、見慣れた部屋に出た。今度は転移魔法成功だ。
「いや〜、上手くいった!」
「ザイード王子! 何が『上手くいった』ですか!?」
従者セバスの怒気を孕んだ声。俺の前に立ちはだかり、わなわなと身を震わせている。
「えっ、転移魔法の精度がさ。どんどん上がっているなぁって」
「この二人は……!?」
部屋の隅にはマリリアとリンの姿。状況が分からず怯えている。
「えっと……。転移先で色々あって。まぁ、二人とも可愛いから貰っちゃえって──」
「馬鹿なんですか!? 勝手に拾ってきて! 犬じゃないんですよ……!?」
「わかってる。わかってるって! ちゃんと面倒見るから」
「私はもう、知りません!」
セバスは顔を真っ赤にさせたまま、部屋から出ていく。
「怒られちゃった〜」
二人に戯けてみせる。
「あの……。助けて下さり、ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
マリリアとリンが頭を下げた。うーん。照れ臭いな。
「ところで、ここは?」
「ここはラルジュ王国。そして俺は第三王子ザイード。二人には侍女として頑張ってもらうから、よろしく!」
二人は戸惑いながらも頷く。
「あっ、俺には毒を盛らないでね? 頼むよ」
「「ザイード様にそんなことしません!」」
魔眼で見ても、その言葉に嘘はない。
「ちょっと魔法を使い過ぎて疲れちゃったから、俺は寝るね!」
着の身着のままベッドに寝転がり、眠気に任せて瞼を閉じた。
手に柔らかく温かいものが触れる。マリリアか、リンか。二人ともかもしれない。
俺は安心して、微睡に落ちた。明日からの二人との生活を想像しながら。
少しでも面白いと思った方はブクマ、評価よろしくお願いします!! モチベーションになります!!