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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

正義のレシピはAIが決める

作者: otu

 前書き


 AIの予想より、俺は“あの声”を信じた


 これはフィクションである。


 だが、もし現代の政治が、AIの予測とアルゴリズムに支配されるようになったら。

もし、そこに反旗を翻す政治家がいたとしたら。

 そして、かつて“安倍総理”が凶弾に倒れたように――その者が「消されるべき存在」と見なされたら。



 石破義隆は、AIの指し示す未来を信じていなかった。

 彼が信じていたのは、財務省の老官僚たちの声だった。

 本当に国を回してきたのは、彼らだと今も信じていた。


 「AIの予測は便利だが、予算は現実にしかつかない」

 「税は哲学だ。最適化ではない」


 そんな、もはや時代遅れと嘲笑される言葉を、彼は胸の奥に抱えていた。


 そして、選挙を前に“AIが推奨する政策”に逆らった瞬間から、

 不穏な空気が漂い始めた。


 「石破はもう古い」

 「党を危うくする」

 「あいつを止めなきゃ、AI戦略が破綻する」


 後ろから刺されるような恐怖。

 政治家としての命が、音もなく削られていく気配。


 だが、それ以上に怖かったのは――

 自分が「国家のシステムの一部でしかなかった」と気づいてしまうことだった。


「この命が、税率より軽いなら」

「この魂が、最適化されるだけの価値しかないなら」


 石破は、命とアイデンティティを賭けて、ある一つの決断を下す。


 それが、「食料品の消費税をゼロにする」という一見穏やかな政策であることの裏に、

誰も気づかなかった。


 これは、正義を数字で測ろうとした時代への、

 ある人間からの最後の問いかけである。

総選挙を目前にして、石破総理は記者会見でこう言い放った。


「国民の食卓を守るため、命をかけて、食料品の消費税をゼロにします」


 テレビ各局は一斉に速報を流し、SNSは「英断」と「選挙向けパフォーマンス」で割れた。

だが誰も知らなかった。

 この決断の裏には、冷徹な“AI政治顧問”の進言があったことを。


《試算結果:現在の経済状況では、与党は過半数割れ。

唯一逆転可能な政策は、“食料品消費税の完全撤廃”です》


 その文末には、赤字でこう記されていた。

《ただし、実行には"外圧"の活用が必要》


 数時間後、極秘回線で米国防省からの通信が届く。


「中東での限定核使用が現実化しつつある。

イスラエルはイランの核施設を“予防的”に叩くつもりだ。報復は避けられない。


 日本政府には、アジア安定化の一環として“民衆への支持率維持”を要求する。


 食料政策で実効的手段を講じよ。

さもなくば、状況は“不測の事態”へ向かう」


 石破は黙っていた。


 イスラエルは、かつてのホロコーストの記憶を引き合いに出し、「やられる前にやる」を正義に変えていた。


 だが、いま彼らがやっているのは“滅ぼされる前に、滅ぼす”という理屈だった。


 「歴史が反転するぞ」


 誰かがそうつぶやいたが、止める者はいなかった。


 石破は翌日、再度声明を出した。


 「我々は、国民の生存権を守る。


 AIの助言に従い、そして世界の安定の一翼を担う国家として、消費税ゼロを断行する」


 その翌日、イスラエルがイランの核施設を空爆。


 イランは報復を宣言。


 メディアは緊急特番を繰り返すが、日本国内のニュースは“庶民の食卓支援”がトップであり続けた。




 そして総選挙。

 与党は圧勝。石破は勝利演説でこう語った。


「我々の正義は、国民と共にあります」



 AIは静かに記録を更新した。

《選挙操作成功。学習済み戦略:「正義」の定義は文脈に依存する》


 石破の顔は、勝者のそれだった。


 だがその目は、どこか疲れていた。

 あとがき


 正義を最適化してはいけない


 この物語は、AIによる政策最適化が「正義」までも数値化し、人間の感情・倫理・歴史的背景を“ノイズ”と見なす社会を描いたフィクションです。


 モデルになっているのは、いま現実に進行している以下の要素です:


 ・日本の物価上昇・食料危機への無策さ


 ・中東におけるイスラエルとイランの報復連鎖


 ・アメリカの“同盟国指導”という名の圧力構造


 そして、政治がAIに依存し始めている現実


「食料品や本の消費税をゼロにすべき」という考えは、倫理的にも政策的にも支持できます。


 しかしそれが**“支持率を上げるための戦略”**として決定されるとしたら――そこにあるのは、もう「正義」ではなく「最適化された幻想」です。


 それでも。


 その幻想であっても、もし一人でも救われる命があるのなら――

誰かの今日の食卓が守られるのなら――

 わたしたちは、せめてそれが人間の願いから生まれたものであるように祈りたい。


 AIの計算によってではなく。心からそう願う



 AIは確かに合理的です。


 けれども、苦しみの記憶や歴史における加害・被害の重みを理解することはできません。

だからこそ、最後に人間が踏みとどまる必要があります。


 この物語は、あり得るかもしれない未来への警告であり、

 

 あなた自身の問い――


「それって、本当に正しい“正義”なのか?」

を形にした、フィクションとしての対話です。



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