罠!!
「《研磨》」
私の手のなかで開いたスクロール。
そこから即座に生み出された竜巻が、ぐんぐんと大きくなる。
横向きに延びた竜巻が、大地をえぐりながら目の前の呪術師へと襲いかかる。
一切の手加減も無く。
金剛石の粉の輝きを含んだ、渦巻く風。それがフードを目深にかぶった呪術師を呑み込む。
──手応えが、無い! まずい!?
渦巻く風に、フードすら一切動かない男の様子。
私は本能的に察する。
呪術師の男の姿がそれでも竜巻の中で、四散していく。
それはまるで、霞が散り散りになるかのような。
もともと極小の無数の何かの集まりが、またバラバラに戻ったかのような。
そんな手応え。
「おやおや。物騒な攻撃ですな。まあ、残念ながらそれは本体では無いのですよ。どちらにしてもお別れですな」
切れ切れに聞こえてくる呪術師の男の声。それもすぐに竜巻の中へと飲み込まれていく。
私はスクロールの展開を中止する。
残されたのはえぐれた大地だけだった。
「……逃げられたのか? いや、もともと幻か何かだけを送り込んできていたのか」
私は呪術師の消えた辺りを眺めながら、呟く。その時だった。
「ぶもっ!」「キューッ!」
ヒポポとセイルークが同時に叫ぶ。
その視線は空へと向いていた。
私も慌ててその先へと視線を向ける。
空には一点の輝く光。
恒星とは別に、見たこともない光が現れていた。その輝く光が急激に拡大していく。
「──隕石かっ! えっ! 直撃する!?」
みるみると迫ってくる隕石。
私は両手に持てるだけのスクロールをリュックから取り出す。
「《複合展開》《結合》」
七本のスクロールと一本の結合のスクロール。それが、魔素の光で形成された魔法陣の頂点で結ばれる。
「《リミット解放》全展開中スクロール」
結合したスクロール群にかけていた制限を解除する。スクロールから魔素の光が溢れ出す。
「《固着》隕石《空間固定》……いまっ!」
七本の固着のスクロールによって描かれた魔法陣から、魔素の糸が出現する。
結合することにより、その効果が累積するように増幅されていくのだ。
現れたのは、セイルークの落下を止めた時の、何千倍もの量の魔素の糸。
溢れ出す糸がまるで巨人の手のようになると、今まさに上空より落下しつつある隕石を包み込むようにして、受け止めた。
灼熱の輝きが魔素で出来た巨人の指の隙間から漏れる。
その余波だけで、スクロールからうっすらと煙が立ち上ぼり、私の皮膚を焼く。
しかし、それも魔素の糸が完全に隕石を包み込むまでの一瞬の出来事だった。
すぐに閉じられた巨人の手の中に、全ては包み込まれたのだった。