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19話 新たなる出会い

 テルマさんと一緒に、僕は街に出る。


 目抜き通りから二、三本奥まった細い道に入り、ある店の前で立ち止まった。


 看板には『アンのパン』と書いてある。


「ここってもしかして、テルマがいつもパンを買ってるとこ?」


 漂ってくる香ばしい匂いに覚えがあった僕は、そう尋ねる。


「そう」


 頷きながらテルマさんが店の中に入っていく。


 僕もその後に続いた。


「あら、テルマじゃないか――っとなんだい。男連れなんて珍しいじゃないか。あれかい。こいつがいつも言ってる『王子様』かい」


 カウンターの奥で店番していたドワーフのおばさんがにやにやしながら僕の方を見る。


「アン。ミリアはいる?」


 テルマさんは何も聞えなかったように一方的にそう問いかける。


「つれないねえ……はいはい。ちょっと待ってな」


 おばさんが店の奥に引っ込む。


『――ミリア! テルマがあんたに会いに来てるよ!』


 よく通る威勢のいい呼びかけが響く。


 ドタバタ。


 ドタバタ。


 同時に、上から騒がしい足音が聞えた。


 屋根裏部屋でもあるのだろうか。


 ドシン!


(今、明らかに落ちた音がしたけど……)


『たっくほこりが舞うじゃないか! 商品にゴミがついたらどうすんだい。だから、いつも言ってるだろう。あんたもドワーフならいつでもどしんと構えてな!』


『ヒャ、ヒャイ! ごめんなさい!』


「ほら。しゃんとしな!」


 おばさんに背中を押されて、ドワーフの女の子が店の奥から出てくる。


 話の流れから言ってこの子がミリアだろう。


 彼女は修道服にも似た白いローブを着て、背丈と同じくらいの長さの杖を持っていた。


 見た目は小学校の中学年~高学年くらいに見える。顔立ちは、綺麗というよりは、かわいらしいと形容するのがふさわしい雰囲気。


 ただし、ゆったりとしたローブ越しにも分かるほど胸が膨らんでおり、かなりの巨乳だ。もしかすると、これでもドワーフ基準では成人してたりするのかもしれない。


「お、お待たせしましたっ!」


 舌っ足らずな声でそう言うと、こちらに向かってくる。


 ガン!


 ドン!


 ガン!


「ヒャウッ!」


 視線をキョロキョロさまよわせ、身体をあちこちにぶつけながら、彼女はあげくの果てに僕の目の前で盛大にすっ転んだ。


(……すでに色々不安なんだけど)


「えっと、初めまして。タクマ=サトウです。よろしく」


 内心の懸念を押し隠しつつ、僕はミリアを助け起こそうと手をのばした。


「ヒャ、ヒャイ! ミリアでしゅ! よろしくお願いしまっしゅ!」


 噛みまくりながら、僕の手を握って立ち上がったミリアは、目をぎゅっと瞑って、緊張した様子で何度も頭を下げた。


「ミリアはヒーラー。レベルは18で、『ヒール』、『ライト』、『プロテクト』、『アンチポイズン』、『アンチパラライズ』など、最低限ヒーラーに必要とされるスキルは全部習得してる」


 テルマさんがそう言ってミリアを紹介した。


「そうなんだ。それで、僕は何をすればいいの?」


「ヒーラー単独でダンジョンに潜るのは難しい。タクマさえよければ、ミリアとパーティを組んであげて欲しい」


 確かに一般論でいえば、パーティにヒーラーが一人いれば、随分ダンジョン探索が楽になるとは聞く。


 『ライト』の魔法は暗闇を照らし、松明を不要にするし、他の様々な回復魔法があればポーション代も節約できるし、生存確率も高まる。


「うーん、個人的には、僕自身のダンジョン探索の経験が浅いのが正直心配かな。率直に言って、ミリアを上手く守れるか分からない」


 僕は素直に白状した。


 レベルだけで判断されて、頼りになる熟練冒険者だと勘違いされると困る。


「だ、だいじょうぶです! 私、こう見えてもドワーフですから! 頑丈ですから! 多少攻撃をうけてもへっちゃらです! 15階層くらいまでなら行けます」


 ミリアはピョンピョン跳ねて必死に僕にアピールしてくる。


「――ミリアはこう言ってるけど、私としては、1~3階層くらいで簡単なミッションから始めて様子見して欲しい。でも、そうすると、タクマとしては物足りないだろうし、稼ぎもミリアと分配してもらうことになるから、収入もかなり下がると思う。だから、タクマにとってのメリットは薄いけど……」


「それは問題ないよ。僕がダンジョン初心者だと認識してもらった上で、ミリアがいいと言うなら組もうか」


 申し訳なさそうに呟くテルマに、僕は即答した。


 日常生活で使うのは食費くらいだし、多少は蓄えもあるので、現状がっついて稼ぐ必要はない。


「え! いいんですか!? 本当に!? 私なんかとパーティになってくれるんですか?」


「うん。いずれ僕も誰かとパーティを組む日は来るだろうし、何事も経験だから」


 不安はあるけど、いつでも僕の思い通りの人とパーティを組める訳じゃないだろう。色んな冒険者とコミュニケーションがとれるようになるというのは、僕のこれからにとっても必要なことだ。


「ううううああああああああああん! テルマさあああああああああああん! やりましたあああ。タクマさんパーティを組んでくれるって!」


 感極まったように泣き出したミリアが、テルマさんのお腹に顔を埋める。


「だから大丈夫だと言ったはず。優しいタクマが困ってるミリアを見捨てるはずがない」


 テルマさんが確信に満ちた口調で断言する。


 ちょっと、彼女は僕を過剰評価してはいないだろうか。


「ううう、本当にありがとうございますー。テルマさんが私を拾って、ここの屋根裏部屋と仕事を紹介してくれなかったら、私絶対のたれ死んでましたああああー」


「その件についてのお礼ならアンとタクマに言うといい」


「――あんた」


 僕が微笑ましい気持ちで二人を見守っていると、おばさんに話しかけられた。


「はい?」


「これやるから、後で食べな」


 焼きたてパンが入った籠を押し付けられる。


「はあ、ありがとうございます。でも、どうして?」


「テルマを助けてくれたんだろ。あの子はずっとうちのお得意さんだったからね。苦しんでる時に何もしてやれなくて、ずっと歯がゆかったんだ。あんたのおかげですっきりしたよ」


 おばさんはテルマさんたちに聞こえないくらいの小声で僕に告げる。


「……僕がテルマを助けたのは、先にテルマが僕を助けてくれたからですよ」


「そうかい。……ミリアも、テルマとはまた違った方向で不器用だけど、良い奴なんだ。だから、よくしてやっておくれよ」


 おばさんはどこか嬉しげに微笑むと、ちょっと背伸びをして、僕の肩をポンと叩いた。


「グスっ。タクマさん! 改めてよろしくお願いします! 一生懸命頑張りますから!」


 こちらに駆けてきたミリアが、僕の手をぎゅっと握って言った。


「こちらこそよろしく。じゃあ、とりあえず明日からダンジョンに潜るってことでいいかな? まずは肩慣らしに1~3階層でビッグマッシュルーム狩りというところで」


「はい! タクマさんにお任せします!」


 ミリアが何度も首を縦に振る。


「話はまとまった?」


「うん」


「はい」


 僕とミリアはテルマに向き直って頷く。


「じゃあ、二人をパーティとしてギルドに登録しておく」


 テルマさんが満足げに頷いてそう言った。


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