【誕生日設定記念】ルーファス様の誕生日②
お久しぶりです。
昨年のアニメイトさんのインタビューで判明したのですが、本日はルーファス・スタンの誕生日です!
ということでルーファスおめでとう(祭)の番外編です。
アカデミー在学中の、ルーファス視点になります。
朝、ノックなしに誰かが私の部屋に入室した。
この屋敷でそれが許されていているのは二人だけ。
「ルーファス?」
「……おはようございます母上。何か緊急の用件ですか?」
髪をかきあげながら、ベッドから体を起こす。私の起床に合わせ、ビルがドアの外に顔を出して控えた。
「いえ? お誕生日おめでとう」
「……ああ」
起き抜けでぼんやりしていた。まさしく今日は私の誕生日だった。
「ありがとうございます」
私がそう言うと、母はニッコリ笑って私を抱きしめた。
「すっかり大きくなったわね。アカデミーのころのレオそっくりだわ。レオは南方の領主会議に顔を出しに行ったから昨夜は帰らなかったけれど、これはレオからのプレゼントよ」
そう言って小さな木箱を渡された。
「父上は出張? 聞いてないですよ? なんの引き継ぎもしていない」
受け取りながらそう言うと、
「誕生日くらいのんびりしろって思ったんでしょう」
蓋を開けると、見たこともないほど精巧な懐中時計が入っていた。
「実用的ですね。使いやすそうだ」
「思ったとおりの淡々としたリアクションねえ」
母が頰に手をやり苦笑する。
「……きちんと感謝していますよ」
「ええ、ええ、わかってるわよ。でも、私のプレゼントは、きっともっと感激してくれると思うわ」
「なんでしょうか?」
「まだ、届いてないのよ。もう少し待っててね。ところであなたの今日の予定は?」
私はベッドを降りて立ち上がり、うーんと伸びをした。
「いつもと変わらずです。ビルを伴って王宮に参ります。父上が出張中であればなおのこと」
「……レオがあなたを置いて行った意味がないじゃない。今日はせめて夕方には戻りなさい! ビル、いいわね!」
◇◇◇
昼過ぎ、本日締めの仕事を終えると、ビルがなぜか鬼気迫る表情で帰宅するように勧めてきた。母にかなり強く命令されているらしい。
帰宅しても、特にすることなどないんだが。おそらく母も予定が入っているだろうし……と思いつつ、ビルが気の毒になって、机の上を片付けて帰宅した。
「ルーファス様! おかえりなさい! そしてお誕生日おめでとうございます!」
玄関をまたぐと、ピアがキラキラした笑顔で待ち受けていた。
もちろん早足で駆け寄る。
「ピア、どうしてここにいるの? 測量調査から王都に戻るのは来週だっただろう?」
まさかケガでもしたのかと、慌ててピアの全身に目を走らせる。
しかしそこにいるのは、ライムグリーンの軽やかなドレスを着た、いつも通りのかわいいピア。耳には小さな……私の瞳そっくりの色のエメラルドのイヤリングに、いつもよりも太めのグリーンのリボンを蝶結びにして、髪を纏めていた。首には当然〈妖精の涙〉。
「それが、いつも三人で作業しているのに、お義母様が10人も助っ人を現場に送ってくださって、あっという間にお仕事終わったんです。本当は今日、ルーファス様のお誕生日のお祝いをしたかったのに、ジョニーおじさまのお仕事だから断れず、くよくよしていたのがバレてたみたいで……」
……婚約以来いつのまにか、誕生日はピアと過ごすことが普通になっていた。
しかし今年はピアに予定が入り(陛下、この件はしばらく根に持ちますよ)、大人になるにつれ、都合が合わなくなることは仕方ないことだ、と言い聞かせていた。
ピアと会えてわかる。私もくよくよしていたのだと。
「よかった、今日中に間に合って。ルーファス様こそお誕生日までお仕事なんて、お疲れ様です」
「……いや、ピアがここにいてくれたから、疲れなんて飛んでいったよ……なるほど、そういうことか」
「え?」
これが母のプレゼントか。確かに今日のピアは私色に染まり、プレゼントそのものだ。
後ろに視線を向けると、ピアに付けていたマイク、そしてサラが静かに頭を下げた。
「これからのことは、どうなっているの?」
「はい、ルーファス様が着替えられたら、ピア様とお二人で早めの晩餐を、とのことです。今日はバルコニーに準備がしてあります」
「そう。じゃあ急いで着替えてくるね。マイクとサラは一足先に休んでいい。長旅お疲れ様。ピアは私が間違いなくロックウェル邸に送り届けるから。マイク、サラを送ってあげて」
「「はい。ありがとうございます」」
◇◇◇
「では、ルーファス様、お誕生日おめでとうございます! かんぱーい!」
「乾杯! ピア、ありがとう」
いつもどおりソファーの横並びで座り、テーブルに所狭しと並べられたピアと私の好物を前にして、二人でグラスを合わせた。
当然バルコニーはオープンスペースで、密やかなマネはできない。母がどこかでほくそ笑んでいる気がして腹立たしい。
「毎年思っているんですけど、ルーファス様のお誕生日って、私のお誕生日みたいなんですよね。ドレスやアクセサリーまでご用意いただいて、お料理やケーキは私が好きなものばっかりで……」
「ピアの好物と私のそれが重なってるだけだよ。さあ、食べよう」
「ま。待って! 私からのプレゼントを先に受け取ってください!」
「なんだろう……ワクワクするよ」
これは本心だ。ピアのプレゼントは、いつも想像の斜め上を行く。
そういえば、今回はコソコソと外出してプレゼントを買っていた……という報告も上がってこなかった。いったいなんだろう?
「今年は二つです。まず小さいほうから……どうぞ!」
片手に収まるサイズのプレゼントを受け取り……青い柔らかな紙を慎重に剥がすと……想像ついてしかるべき、石ころが出てきた。思わず全身の力が抜ける。
「な、な、なーんと! ウニの化石でーす! 今回の測量で見つけたんです! 見てくださいこの美しい五芒星を! 神秘ですよ神秘! 約2000万年前の神秘がルーファス様のお誕生日を祝うために、時を超えてやってきたんです! このバッチリのタイミングで! すごくないですか!?」
「ウニが私のために!? そ、それはどうも。えーと、でも、それだけ重要なものならば、ピアが持っていたほうがいいんじゃない?」
そうしてくれて構わない。自分の宝を私に捧げようという気持ちだけで十分だ。本当に。
「大事なものだからこそ! ルーファス様にプレゼントしたいんです!」
「じゃ、じゃあ、遠慮なく?」
そろそろ私のクローゼットは、ピアの化石で一列埋まりそうだ。忘れないうちにこれがどこの何者か? 紙に書いてわかるように保管しなければ。
「2000万年前のウニも、味は一緒だったんでしょうか? これも美味しかったと思います?」
「え? ピア、まさかウニを食べる気? というか、食べたことあるの?」
思わずギョッとして尋ねた。
「え? あーこっちは食べる習慣ないんだっけ? も、もちろん食べたことなどありませんわよ、そんな不思議生物? おほほほ……え、えっとルーファス様、次です次! あの、このプレゼントはウニに比べれば大したものではないんですが……」
ピアが目をおよがせながら不自然に話題を逸らしたが、大した問題ではないので気が付かないフリをする。
次のプレゼントは少し大きいが軽かった。やはりそっと青い包みを開けると……黒い毛糸で編んだ細長い物が……。
「これは……マフラー?」
「はい。不器用なので、編み物はまっすぐに編むマフラーしか作れなくて……でも、単純作業は無心になれるので好きなのです」
「まさか、ピアの手編みなの?」
マフラーとピアを交互に凝視する。
「お恥ずかしながら……マフラーは家族やうちの使用人のために幼い頃から何本も編んでいるのです。ロックウェル領もスタン領ほどではありませんが、案外冬は冷たいので。でも、全くこの新緑の季節にそぐわないし、毎晩寝る前に編んでたので目も跳んでるかも……ウニも手に入ったし、やっぱり返してください」
「いやだよ。せっかくピアが編んでくれたのに……」
愛する人が、私のために時間を費やし一生懸命作ってくれた、金銭では価値の測れないものだ。私はマフラーを、ピアの手が届かないように持ち上げた。
毎晩自室で編んでいたのなら……マイクや護衛のチェックもかいくぐったわけだ。
「でも、素人の手編みなんて、やっぱりルーファス様にふさわしくないかも……」
「ピアは私を思い浮かべながら、編んでくれたんだろう?」
「もちろんです。ルーファス様はコートが黒だから、黒のマフラーが合うかなあって。秋冬、私の採掘につきあってくれるとき、これを巻いてくれたら寒くないかなあって。ルーファス様は一流のものをお持ちだとわかってるけれど、私の作ったものであれば汚れてもいいし、その、使う場面もあればいいなって……」
その気持ちだけで、胸が温かくなる。
「ピア、嬉しい」
私は早速首に巻いてみた。
「どう? 似合う」
「もう、ルーファス様ってば、すごく暑そうです! でも使ってくれるのですね……嬉しい」
ピアがふわりと微笑んだ。
「うん、このマフラーを使える冬が待ち遠しいよ」
一生このマフラーしか使わない。そう思いながら毛糸の柔らかさを頬で堪能していると、ピアがクスッと笑った。
「ん? どうしたの?」
「私のマフラー、色はみんな違いますが、うちの両親も兄も、領地の者も使ってくれてます。みんなお揃いなのです。ルーファス様、ロックウェルの一員のようになっちゃいました」
ロックウェルの一員……か。
私はスタン領に誇りを持ち、スタン領を背負って生きているわけだが、ロックウェルの一員と言われても、異を唱えようと思わない、それどころか案外嬉しく思っている自分に気がついた。
ピアを構成するロックウェルの懐に入れてもらえることは、純粋に喜ばしい。新たな発見だ。
私はスタン領だけでなく、ピアのロックウェル領も、自然体で大事にすることができるだろう。
私がマフラーをつけたまま食事しようとすると、ピアが「あせもができちゃうでしょう!」と叫んで立ち上がり、私の首から取り上げた。そしてキレイに畳んで返してくれた。
「あせもくらい、できても構わないのに」
「ルーファス様、あせもをバカにしすぎです!」
食事を味わい感想を述べつつ、あせもがいかに痒いのか談義にたまに戻りつつ、ウニの発見時の熱のこもった話を右から左に聞き流しつつ、競い合って咲いている母の庭の花々と、コロコロ変わるピアの表情を愛でつつ、私の誕生日は暮れていった。
「ピア、急いで帰ってきてくれて、そして疲れているだろうに駆けつけてくれてありがとう。こんなに楽しい誕生日になるとは思わなかった」
私は心から礼を言った。この何気ない害のない会話がどれほど私を安らかにしてくれることか。
「私は何にもしていないので、そう言われると困っちゃうのですが……私もルーファス様のお誕生日を今年も一緒に過ごせて……幸せです」
そう言って笑うピアの表情には、どこか憂いを帯びていて、ああ、と思い至る。
ピアの言う、予言のXデーは、もうすぐそこだ。
私はピアの肩に腕を回して引き寄せた。
「ピア、今日でよくわかった。ピアのいない誕生日なんて全然嬉しくない。私が100歳になるまで、ピアが今日のように祝ってほしい。頼むよ」
「……ずっと?」
ピアがおずおずと上目遣いで私を見る。
「そう。ずっと二人で。そしてピアの誕生日は私が祝う。ね、お願い」
私は眉尻を下げて、空いた左手をピアの前で立てて懇願する。ピアのイエスを引き出すために、少し大袈裟な仕草ではあるが、この気持ちに偽りはない。
「ルーファス様ってば……わかりました」
ピアが、どこか困ったような、諦めたような笑みを浮かべて承諾した。
「ありがとうピア」
私はピアをぎゅっと抱きしめて、慌てるピアの頰にキスを落とした。私がずっと隣にいることを実感し、肌で理解するように。ピアはそこの夕焼け以上に真っ赤になった。
「ななな、なんてこと! ルーファス様っ! ここ外! お屋敷の皆様にまる見え!」
「誕生日だから大丈夫」
「絶対適当なこと言ってる〜! ふがっ!」
私は少し調子の戻ったピアを再び抱き込み、彼女の顔を私の胸に押し付けた。
こんなに真っ直ぐで、愛情深く、ひたすら可愛いピアが腕のなかにいるのに、他に心をうつすなど絶対にありえない。
誕生日も、何気ない日常も、私と一緒に過ごすのはピアだけだ。
ピアの頭のてっぺんにキスを落とす。
予言なんてクソくらえだ。
私の邪魔をするならば……何物も容赦しない。
◇◇◇
「ルーファス。ホワイト領の特級のさくらんぼ、私が好きなことよく覚えていたわね。ありがとう。私からの誕生日プレゼントのお礼かしら?」
「まあ、そういうことです」
「ルーファス、私の懐中時計は?」
「気に入りましたよ。早速使わせてもらっています。母上からさくらんぼ、分けてもらってください」
「あら嫌よ。さくらんぼは全部私のもの。レオにはあげないわ」
母が美味しそうにさくらんぼを口にする様子をチラリと見て、私も両親との朝食の席に着いた。
ルーファス・スタン生誕祭に参加していただき、ありがとうございました!
わっしょい٩(^‿^)۶
作者、Webと書籍の時間軸や登場人物がごちゃごちゃになってきまして、ひょっとしたら「おや?」と思ったところもあったかもしれませんが、あくまで番外編ですので笑って見逃してくださるとありがたいです。
書籍4巻、来月15日発売です。ビーズログ文庫の限界に挑戦(いつも言ってる)した、ピアとルーファスのイチャラブを是非お手元へ!!
どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m