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異世界に戻った異世界賢者の備忘録  作者: 夏
最終章8章 魔王と神
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  9


魔具の体調悪化のせいで一週間無駄にしてしまった感から俺はいつにもまして図書館で入りびたりになった。

元々速読と暗記のスキルもちの俺は読書にもさほどの時間は掛かるはずもなく必要な知識は全て叩き込んだ。

もちろんその中の本の中にはアルフが完読できなかったあの銀世宗主の心構えと役割の本とその関連書の全てを完読せしめた。

神族としての知識のすべてと特技全般は神族以外には見せることは基本してはならないという神族の独特な下界への掟があるため窓にも閲覧禁止項目として一括りにした。

掟を知るそれ以前に見られていた場合は不問とされたことにも触れておこう。


図書室で読む書に一区切りがついた。

その事は同時に神界でするべきことを終えたことになる。

そう、神界を後にして人としての元の自分の世界に戻ることを意味する。

再びの別れに父君と母君は少しばかり寂しいようだった。

だが今までの別離に比べさほどの時間は掛かることはない。その上、神界は時間の進みが早いので期間も長くは感じないだろう。


俺自身、人としてやることは残したままの今回の帰還は両親も知る事なので仕方のない事と理解はしている。


おれは父君と母君にしばしの別れと挨拶をして神界を後にした。


リリスに連れられて覇王城の三階の自分の部屋に降り立つと何を思ったかリリスは俺の腰をグッと引き寄せて抱きしめてきた。

「リリス?」

「………ここにいつでも降りる許可をくれリュウ…」

リリスのその抱きしめている手は震えていた。

俺は笑った。

「何言ってる。この場はお前にとって対の世界の聖域だぞ?」

その俺の言葉でリリスは俺が何が言いたいのか理解した。

「あ」

実は神族は己が創造した世界の降臨は禁じられているが聖域はその場にあらずというルールだ。

故に降臨の場と言われている。

しかも対の世界なので己が創造した世界ではない。

何が言いたいかといえば出入り自由という事だ。

いろいろと制限はあるものの比較的聖域では自由に過ごせる。

「でもな、夜に来るのはやめてくれ。ここは俺のプライベートエリアで側室と一緒ということもあるんだ」

「昼に来れば翌朝までいてもいいのか?」

その言葉は来たときは暗に夜の蜜夜が欲しいという言葉でもあることに気がついた。

「それは…ある程度は何とかなる。この城自体が俺の力と生命力で維持されてる城だから他の聖域よりは頑丈だしな。実際ここで初めてしただろうが」

リリスは極上の笑みを浮かべた。

「そうだったな。ならいい。お前の顔をもっと見たいから来る」

「そうか。一応、側室たちにお前のことは言っておくから覚悟はしておけよ?」

「覚悟?」

「なんせ、お前は誰とも結婚しないと言ってた俺の伴侶なんだから、嫉妬にさらされると思え?」

「うぐっ……。わかった」

「まぁ、いつものお前らしくあれば受け入れてもらえるだろ」

「そ、そうか?」

「ああ、それとな、俺の側室たち全員、お前と同じで俺以外お断りと公言しているから離縁はないと思うぞ。うまく仲良くできないと苦労するから気を付けろよ」

「ほう…。お前以外お断りか。彼女らの気持ちが理解できるな」

「は?」

「お前という男を知って体感すると他の男が男として見れなくなるんだ。最上すぎて…な」

リリスはさらに俺に寄り唇が触れるだけのキスをしてきた。

「私もお前の毒にやられた一人だ。お前以外の男はもういらん。子もお前の力を引く子が欲しい」

「リリス……。それなんだが、どうしてお前は俺ばっかり孕ませようとする?」

「…………。私はな、もう子を孕むには少し遅いのだ…。腹が固くなっていてな。今のお前ほどの弾力はない。子はできないだろう…」

その言葉で気がついた。

アルフは二人目の伴侶だ。一人目の伴侶は病のため男神の機能が失われていた。アルフはその体が未成人で成長を止めてしまいリリスに機会は訪れなかった。その上、転生の儀で、下界時間で5千年も経っている。

最盛期ではないのだと暗に言っていた。

だが俺の判断はそうではなかった。

「そうだとしても、人の老いからくる不妊とは違うんだから可能性を摘むべきではないと思うぞ」

「でも…」

「今の俺は完全な神族ではないから俺はまだ子を作って孕むことはできん。でもな、孕ませることはできるんだよ」

「え……。でも普通、神力操作は成人しないと……」

さすがに俺の頬が朱にそまる。

「……………………っ。お前のせいだろが。お前が散々、……俺で嬲るから……っ。………体感して覚えてしまっただけだ」

その言葉にリリスも朱に染まる。

「…………っ。物覚え良すぎだろ。二・三回しかやってないのに、お前…」

「うう。仕方ないだろ。覚えてしまったものは…。俺には自動習得のスキルがあるから普通は一回で何でも覚えるんだ。これでも覚えが悪かったほうだぞ…」

「なんでそんなレアスキル持ってるんだ…」

リリスの呆れているのを知りつつ話がそれそうなので軌道修正を図る。

「それに俺が知らないとでも思っているのか。お前が本当は女の子の子供が欲しくてたまらないことくらい。アルフでも気がついたんだぞ?」

リリスはその言葉で大いに驚き真っ赤に染まる。

「なんで…それ…」

「バレバレだ。お前が、俺に組み敷かれたくないっていうなら仕方ないから諦めるけど…」

「組み敷かれる………っ。嫌じゃない…かも…」

想像したのだろうまんざらではない表情だった。

「孕むまで辛いかもしれない…神族として子ができなかったとしても人として産むこともできる。今ならこの世界で人として育てることができる。この城には俺の子を拒否する奴は誰もいないから側室たちと相談すれば腹を貸してくれるだろう。違うか?」

「あ……」

「嫌か?」

リリスは首を横に振った。

「………欲しがってもいいのか?」

「欲しがってくれよ。アルフもお前に女の子を授けたかったんだ。俺とアルフの願いをかなえてくれないか?」

「………うん。欲しい…。欲しいよ…女の子…」

リリスは恥ずかしさ半分嬉しさ半分で俺の首筋に顔を埋めた。

俺は宥めるようにリリスの頭を撫でる。


しばらくそのままジッとしていた。

背後にキバが静かに扉越しに控えていたことは知っていたがリリスの羞恥が上がるのが目に見えていたので黙っていた。

それはキバも理解していたのか気配を消してくれていた。


リリスがやっと気持ち的に落ち着いたのか俺から離れてくれた。

その時扉からノック音が響きキバが入ってきた。

「リュウ様お帰りになられておられましたか」

「ああ、さっき帰ったところだ」

「どこに行かれていたのかは聞きませんが、その御方は…。……人ではなさそうですね」

キバらしく人でないことを察知したようだ。

「あ、ああ。彼女はリリス。地球神リリスだ。俺の妻でもある。時々この三階に降りてくるから面倒を見てやってくれ」

「はい、了解いたしました。正妻様ですね」

「正妻……。いい響きだ」

リリスはその言葉に酷く喜んだ。

「リリス、彼はキバ。この城の総責任者で俺の神官長で使い魔でもある」

「ほう、使徒ではないのか?」

「まだ違う。使徒システムに関してアルフは知らなかったからな。その内、使徒への位上げ希望者を募るつもりだ」

「使徒…ですか?」

キバの疑問に俺は答える。

「ああ、使徒。神の使徒。神の意と理想と力をその身に受け実行する神の使い。……召使いのような存在だな。使徒になれば神の眷属化するから主たる神の意志無くして老いることも滅ぶこともできない存在になる」

補足するようにリリスが言った。

「普通は下界のヒトから絶対の忠誠を誓える人のみ選んで使徒と天使に召し上げる召使いのような存在だがアルフもリュウも使徒という概念を知らなかったからな。この世界にはまだいない存在だ」

「リュウ様の召使い…ですか」

「まぁそうなるな。俺という神族に仕えるという事だから人であれば使徒。眷族化するなら天使と呼ぶ存在になる」

「なりとうございます」

「…………即決か」

「もちろんでございます。もとよりこの存在。リュウ様の御霊に仕える身でございますれば悩むことなどございません」

「いい部下だな」

「……彼ら以上にいい部下など俺は知らん。だが今、俺は完全な神族ではないから使徒も天使も作る力はない。神族化してからの事だ。時間はまだある」

「城の者たちにも選択をさせてもらえるのでしょうか?」

「………俺が神族化したとき只人か使徒化の選択になる。使い魔のお前たちはな。天使化は後でもできることだ。じっくり悩むと良い。自分らの未来の選択だからな」

「……ありがとうございます」

「リュウ、私は一度地球に戻る。側室らと会いたいだろうし、ゆっくりもしたいだろ。少し間を空けてからくるよ。そうだな、一週間が良いか。逢う設定をしてくれリュウ」

「ああ、わかった。そうしてくれると助かる」

「ずっとリュウを独占していたわけだしな。悪いと思ってるんだ。これでもな」

リリスはそう言って俺に神力を分けてから城を後にしたのだった。


しばらくしてからタテも俺の存在に気がついて上がってきた。

「キバ、俺が出かけてからどれくらい経ってる?」

「さほどの時間は経ってはおりません。一週間です」

「そうか、何か変化はあったか?」

「いえ、特に大きな出来事はございません。ですがリューイ様が二人目の出産のため一週間後辺りで里に帰郷されると伺っております」

「そうか、もうそれ程になっているのか…」

「はい、それと大きな変化はございませんがリナ様の成人化が完了したという報告と共にエリーゼ様の体調が少し変化しておられるようですのでもしかするとご懐妊されている可能性があると女官からの報告がありました」

「…………随分と大きな変化だな」

「エリーゼ様の件はもう少し経ってから報告をと思ったのですが…」

「決定じゃないのか」

「はい。今日はいかがなさいますか。今日はもう夜も更けておりますので側室様達は皆それぞれでお休みかと思われますが…」

「ん、今日は少し界渡りで疲労があるからこのまま休むよ」

その言葉に返事をしたのはタテだった。

「了解です。ベッドメイクは完了しておりますのでごゆっくりお休みになってくださいリュウ様」

「ああ、助かるよ」

そう言ってタテは夜着を持っていた。


夜着に着替えて俺は身綺麗にした後ベッドルームに入るとそこにはイヴが立っていた。

「イヴ?」

「添い寝したい」

「……神力か」

その言葉にイヴが頷く。

「構わないけどお構いなしに寝るから構ってはやれんぞ」

「それでいい」

「そうか」

言って俺はベッドにもぐりこんだ。

同時にイヴももぐりこんでくる。

寝転んだ俺の胸の上に心音を聞くように頭を乗せてきた。

疲労から俺の意識はすぐに沈んだ。



翌日俺の帰還は側室たちの知るところとなったのか、寂しかったのだろう。俺が寝ているのを構わずにベッドに侵入していた。

その頃にはイヴの姿は消えていたので居たことにも気がつかなかったようだ。


眼を開けておれは周囲にクリス達が居並ぶようにベッドに腰かけていたので驚いた。

寝起きで働かない頭でぼんやりと聞いた。

「何してるんだ?」

「何って…。逢いたくて居ちゃいけない?」

「……いや。そんなことは言ってないだろ。……………。ただいま」

おれはまだ少し界渡りと時差ボケがあるのかどうにも眠気がとれないでいた。

「いつの間に帰ってたの?」

「………深夜かな。まだ眠い…」

言っておれは欠伸が出た。

「深夜って、どこ行ってたのよ?」

「…………………。リリスに連れられて………神界。時差ボケが直らないな……」

起きたわけではないのでまたも大きな欠伸が出る。

「リリス?」

「神界ってなんじゃ?」

「………神の世界……………」

俺は眠気から意識が落ちかける。

そんな俺をクリスが大きく揺さぶった。

「リリスって何よ!」

俺はクリスに揺さぶられてさすがに眠れなかった。

眼をこするがどうにも眠かった。

「時空間時差が酷すぎるな。眠すぎる」

「何なんじゃ時差とは?」

リューイが不思議に思ったようだ。

「時差は時差。時間の流れが違う世界に居たから感覚が直ってない。もう少し休まないと治らないな…」

「だからリリスって誰よ!」

「ん。ごめん。アルフの正妻だった女神。離縁してなくてな。転生してても関係が引き継がれてしまって」

「ん?アルフの正妻じゃと?」

「ああ」

「関係が引き継がれてるって…言った?」

「ああ、すまん。アルフの記憶と情愛が引き継がれていてな。………俺の伴侶だ」

「なんで伴侶になるのよ。アルフ神は関係ないじゃない」

俺は首を横に振った。

「大ありだ。彼女は離縁せずに5千年アルフの転生者の俺を待ってた。転生して別人になってもパートナーなことには変わりないんだ。パートナー解消して離縁してると思っていたんだが想いの他、彼女が一途な上にアルフの情愛が俺にもあるせいか拒絶できない」

「……………」

さすがにクリス達は声が出なかった。

「すまない…。もう妃は増やすつもりはなかったんだがそういう訳にもいかないんだ。彼女は俺の一人目だ」

「どんな人なの?」

ステラが聞いてきた。

おれは眠気がある中答える。

「ん、姉さんにそっくりな性格でな。ハッキリきっぱり男っぽい性格だ。言い出したら俺でも聞かない豪胆さがある女性で裏表は基本ない。姿はイヴの姿を大人の女性にした姿、かな」

「イヴ様の姿を大人にした姿って…」

「…………金髪碧眼の美女という事かの」

またも欠伸が出た。

さすがに眠気で目をこする。

「彼女は自分の見せ方を知っていてな。黙って立っていれば美の化身なんて神族から言われるほどの姿のせいもあるのか傍から離れ無くてな。神界に居る間中、振り回されてしまって……」

俺の頬は少し朱に散ってしまった。気を散らすように少し顔を振って呟いた。

「……ずっと毎日のように食われてた…」

「食われてたって……」

「それはそれは難儀じゃの」

「…………彼女気を使ってくれてみんなも思うことがあるだろうからって一週間時間をくれた」

「一週間?」

「ああ、俺をずっと独占してたことに申し訳なさそうにしてた」

「ふふ、悪い御人ではなさそうじゃの」

「…そうね」

「彼女は神だ。異世界の地球神だから降臨できる場も聖域と限られる存在でこの三階でしかあえない。裏表のない性格だからみんなも上手く気が合うと思うんだ」

「楽しみにしてるわ」

「ただな、彼女、恐ろしいほどの酒豪でうわばみだから来るときはきっと酒を持ってくるぞ」

「うわばみ?」

「酒に酔うことはないんだ。彼女に合わせるとこっちがつぶれる」

「それは楽しみじゃ。飲み仲間が増えるのは嬉しいぞな」

「リューイも酒すきだものな。…………もういいか。もう少し眠らせてくれ…」

俺は言いながら限界だったのでベッドに沈んだ。

「なんでそんなに眠るのよ…」

「……………」

俺はその言葉には答えられなかった。

「リュウ様は神界でなにかあったようです。生命力が帰っていらしたときは酷く弱かったので…」

「「「「え?」」」」

一同はキバのその言葉に驚いた。

「本当に…?」

「はい。間違いございません。リュウ様のお身体は私が何よりも管理しておりますので」

「なにがあったのじゃ…」

「後で聞くしかないのね」

「そうね」

すっかり意識を失っているリュウにクリス達が各々、キスを落としてから部屋を後にした。


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