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殺人姫に離別の花束を 2

間隔あきました。すみません。

「ヴァアアアッ!」

「チッ!」


 奇妙な唸り声を上げながら、左右から魔物が飛び出してくる。

 僕は、両手に展開した魔力執刀(チャクラメス)を二頭の魔物の口にねじ込み突き殺すが、それを好機とばかりに正面から走ってきた二頭への対応が後手に回る。


「ッ――先生!」


 アルティの悲鳴も虚しく、一頭が胸元に噛みつき、もう一頭が顔に牙を立てる。


「いやぁああっ!」

「――落ち着きたまえ、アルティ君」

「え?」


 ミチミチと軋みを上げる自分の頬骨に意を介さず、自由になった手で腰から拳銃を取り出し、数回引き金を引く。六発の弾丸を吐き終えた後、ようやく噛みついていた魔物が離れ、塵と化した。


「やっぱりこのタイプの魔物に銃は相性が悪いみたいですね……」

「せ、先生……今、噛まれて……」

「……まあ、そこらへんはここを生き残れたら説明するよっ!」


 アルティの後方に現れた魔物を銃で牽制し、電撃(サンダー)の魔法で倒す。この手の魔物には火属性系の魔法を使いたいところだが、ここでは引火する恐れもあり、下手には放てない。

 本当にずぼらなようで計算高い……。

 僕は内心でセニ……アリスに毒づくと、周囲に目を配る。

 決して広くはない居間は、血や臓物が散乱しており、それらの大半も今は魔物たちに踏み潰され、ミンチのようになっている有様だ。あのすべてがエトを形作っていた物かと思うと、やりきれない感情が心を支配する。


「ヴァアアアッ!」

「ッ、五月蠅いなあ!」


 休ませる暇は与えないとばかりに、魔物たちが次々と襲い掛かってくる。それらを斬り伏せながら、時折アルティの方へ向かう魔物にも対処する。

 そうしながらも、視界の端では新たな魔物が灰色の瘴気から次々と姿を現す。

 どうやら本当にアリスは根気勝負で僕を殺しきるつもりのようだ。

 僕は苦々しい気持ちで目の前の魔物を消し去りながら、自分の残機、そして体力がどこまで保つのか、身体は止めることなく計算を始めた――。






『さてカナキ君。今でちょうど戦闘開始から一時間が経過しました。残機はまだまだ残ってるようですが、体力の方は大丈夫でしょうか?』

「……余計な、お世話ですよ」


 アリスは一時間と言っているが、実際にはもっと時間が経っている気がする。

 目の前の魔物の数は一向に減らず、代わりに僕の攻撃を喰らう回数が増えてきている。

 ここらで状況を変えないと、あと一時間と保たないだろうが、生憎こちらにはアルティがいる。これまでに何度もこの場からの脱出を試みたが、その度に魔物が一斉に襲い掛かってくるうえに、居間には簡易ながら結界も張られている。流石にそれらの問題を全てクリアしてアルティをここから逃がす自信は僕には無かった。

 だが、絶望的な状況の中でも、まだ僕には希望が残っている。それは、いつかは訪れるであろう援軍の存在。アリスは日の出まで待てば助けが来るかもと言っていたが、どうせ彼女のことだ。家の周りの雑木林に人除けの護符でもばら撒いて対応策は打ってあるだろう。ただでさえ人目に付かないこの立地でそんなことをされたら、赤の他人がこの家まで辿り着ける確率はゼロに近い。

 しかし、この家に元々住んでいる人物なら。マティアスがセニアの正体を掴み、急いで帰ってきてくれるならば話は別だ。護符程度なら突破できるし、物理的な障害があっても、彼の腕なら何ら問題なく排除することが出来る。現状、僕の力だけでの解決が難しい以上、ここはマティアスに賭けるしかなかった。

 それからまたしばらく魔物たちを相手取る時間が続く。もういくつ魔物を屠ったのかも覚えていない。そのとき、アリスがはっとした声を上げた。


『あ、ここでカナキ君に報告でーす。――マティアスさんが死にました』

「――そうですか」


 僕は表情を変えず、迫ってきた魔物を踏み砕く。どうせアリスの妄言だ。僕が動揺するのを見て愉しもうという魂胆だろう。

 事実、すぐにアリスのつまらなそうな声が返ってきた。


『ちぇー、カナキ君は本当にノリ悪いなぁ。でもね、これは本当だよ。今、マティアスさんとフィーナちゃんが病室で戦っています』

「ッ!?」


 その可能性は僕自身も予期していたため、アリスの一言は背筋が凍るような気持ちだった。


『満身創痍にも関わらずセニアを倒したマティアスさんですが、そこにカナキ君が足止めしていたフィーナが到着。既に息絶えていたカレンちゃんを見て激昂。怒りのままにマティアスさんに飛び掛かって、今は戦闘中ってところ。どう、これはありそうな話でしょ?』

「……まぁ、アリスさんが作ったにしては中々上手い設定ですね」


 僕は心中の動揺を殺し、完全な平静を装って答える。伊達に毎日学園で生徒たちを騙していない。これくらいの動揺を殺すことなど造作もないことだが、アリスの言葉を嘘と決めつけることができないのも事実だった。


『……ふーん。ま、カナキ君ならそういうと思ったけど。ホントにカナキ君ってつまらないわよねぇ』

「――?」


 突如、周囲に展開していた魔物たちが霧散する。

 魔力切れか?

 一瞬、そんな希望も湧いたが、この程度でアリスが魔力を使い切るとも思えない。考えられる線としては、お遊びをやめて、本腰で僕を消しにくるかというところだが――。


「ッ!」


 ガラガラッ、と勢いよく玄関の戸が開かれ、重たい足音が居間に近づいてくる。

 マティアスではない。とすると、外からの助け、またはアリスの仲間だが――。


「……まぁ、後者だよね」

『じゃあステージアップといきましょうか、カナキ君! 次の相手はさっきとはレベルが違うわよ! なんていっても、この街でも五指には入る実力を持つ魔法師、駐屯兵団の団長なんだから!』


 アリスの自信に溢れた声と共に、居間の襖が開かれる。

 現れたのは、生気を感じられない禿頭の大男、シヴァ・ラーメリックだった。


読んでいただきありがとうございます。

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