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状況の整理

三章入って早々、状況整理の回です。

 ――本当に、厄介な事になった。


 マティアスがカレンの暗殺を宣言した翌日、つまり暗殺を決行する日の当日。保健室で事務作業をしていた僕は、当然のように上の空だった。

 遂に今日、カレン・オルテシアを巡っての戦いが始まる。この日は朝から駐屯兵団が大勢街中を闊歩し、各所に目を光らせている。治安維持部隊の連中も今日は公休扱いだ。街の尋常じゃない雰囲気を察して生徒も落ち着きがなく、今日の帰りのHRもまとめるのにとても苦労した。 

だが、これほどの警戒も当然だろう。暗殺が成功すれば歴史に刻まれる大事件になるだけに、どちらの陣営のキャストも名だたる大物ぞろいだ。僕は、今日の事務作業を諦めて、これから自分はどう動くべきかについて考える。


 暗殺を狙う陣営は、まずレートA+の『狩人』。昨日の今日で、しかも警備が昨夜と比べ物にならないほど厳重になった今、再び奴が仕掛ける可能性は決して高くはないが、案件が案件だけに、下手に降りるとも考えづらい。おそらく奴も今日が山場だということは分かっている筈だし、再びカレンを襲撃する可能性は充分にあるだろう。


 だが、暗殺陣営で最も有望なのは、やはりマティアスとセニアの二人だろう。セニアは『屍術姫』の異名を持つ元準一級魔法師アリス・レーゾンデートルが操る超やり手の魔法師で、この街でも彼女一人に何人の駐屯兵がやられたのか想像も付かない。彼女とは直接やりあったことはないが、学校での印象通り、錬金術が得意らしく、多勢を相手取るのが得意なようだ。おそらく、今日もセニアが雑魚を相手取り、その間にマティアスが本丸を落とすという作戦を取るだろう。


そのマティアスこそ、おそらく暗殺陣営で最も厄介な男であり、同時に現在この街で、最も強い人物だろう。


『無音の鬼人』マティアス。魔法どころか魔術すら扱うことの出来ない完全な非魔法師であり、それに関わらずレートSS+という、この国でも五指には入る危険人物の扱いを受けている暗殺者だ。

おそらく、純粋な戦闘力で言えば、セニアや『狩人』にさえマティアスは劣るだろう。

しかし、それが、「偶発的に遭遇したマティアスとの戦闘」ではなく、「暗殺を企てているマティアスとの戦闘」となると話は違う。とにかく、あの人は暗殺にかけて右に出る者はいないのだ。例え相手が魔法師だろうがなんだろうが関係ない。綿密な準備を施したマティアスに命を狙われれば、助かる者は誰一人いないだろう。だがそれは、あくまで通常の暗殺だった時の話だ。


 今回の案件、いつもの暗殺と違うことが二点ある。一つは、暗殺を狙う陣営が一枚岩ではないこと。それぞれが別の依頼人から仕事を受注し、お互いを牽制しあっていることだ。

 そしてもう一つは、狙われている側が、既に自分が狙われていることを自覚しているということ。そして、この一日さえ対象を護りきれば、暗殺は阻止できると分かっているということだ。

暗殺の強みとして、対象に己の命が狙われているという自覚を与えないうちに、好きなタイミングで襲撃できるという点がある。しかし、このアドバンテージは、昨夜の『狩人』が暗殺に失敗したことで、既に失っている。こうなると、護衛としては護りやすい。何故なら、今日一日のうちに、敵が確実に襲撃してくることが分かっているからだ。

 そして、護衛を司る駐屯兵団と、治安維持部隊の『カグヤ』は、暗殺者たちに比べて、圧倒的に人数が多い。しかも、その中には、あのレイン・アルダールもいるのだ。僕は、彼について今一度分かっている情報を整理する。


 レイン・アルダール。十八歳。セルベス学園四年生にして、二級魔法師であり、治安維持部隊『カグヤ』の隊長。これだけで彼の華々しい経歴が分かるが、彼自身、その称号に恥じない、いや、それ以上の実力を有しているのは事実である。

 前述したように、彼はセルベス学園の生徒であり、生徒である以上、僕が彼を調べようと思ったらいくらでも情報は得ることが出来る。しかし、その中で最も確実で信用度が高い情報といえば、やはり先日の僕自身の戦闘データだろう。

 正直、あの程度の短い戦闘でも彼の強さは際立っていた。近距離と遠距離両方に対応できる銃と剣が一体となった魔道具。その銃から放たれる無色のうえに超高速の『魔弾(ガンド)』。極めつきには、徒手格闘すら一流ときた。これだけでも学生離れしているが、おそらく彼はまだ何か隠し持っているだろう。

 不確定要素は多いが、それでもセニアはともかく、マティアスには敵わないだろうと僕は踏んでいる。他にも要注意人物はいるし、駐屯兵団にも猛者はいるが、マティアスは暗殺のプロだ。静観していれば、カレン・オルテシアの暗殺は成功すると踏んでいる。


 しかし、この暗殺は、僕にとって、もっと大きな懸念材料が含まれているのだ。

 保健室に掛けられた時計を見ると、時刻は既に四時。僕の予想が正しければ、学校を休んだ彼女も、これから始まる練習会には来るだろう。そして、おそらく彼女が取る行動も、僕には半ば予想出来ているが、それに対する僕の答えは、まだ用意できていない。

 とにかく、時間は厳守だ。生徒の信頼を損ねるわけにはいかない。

 僕は、思考し続けたせいで重くなった頭を振り、椅子から重い腰を上げた。


読んでいただきありがとうございます。

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