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死刑囚、魔法学校にて教鞭を振るう  作者: 無道
一年四組の日常
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殺気の正体

これを更新時点で、ホラージャンルの日間、週間、月間、四半期の四タイトルで1位、総合ジャンルでも念願のトップ100入りしました!

これからも頑張ります。

「全員集合!」


 リヴァルの怒号が轟き、演習場を震わす。

 カナキに指導を受けた日の学校、戦闘実践演習の授業の最中であった。


「来月から、学生騎士大会の選抜戦が正式に開催される。今週からは実戦的な演習を増やしていくから気合いを入れろよ」


 学生騎士大会、という聞いて周りの生徒、特に三年生以上の生徒から、並々ならない闘志が伝わってくる。カレンの隣に立つフィーナも、静かに闘志を燃やしているのが伝わってきた。


「学生騎士大会と言えば、その年で最強の学生を決める最も大々的に行われる行事の一つだ。我がセルベスからも、毎年代表として五人が王都で行われる本選に出場している。本選まで進めば国王の見ている前で試合を行えるという大変な名誉を授かることもできる。そこでお眼鏡に適えば、将来の進路も安泰だろうしな!」


 リヴァルの言う通り、本選まで進んだ生徒のほとんどは、将来有望な職に就く者が多い。

 学生騎士大会とは、学生最強を決めるのと同時に、有望な若手を引き抜く「競り」の場でもあるのだ。学園の卒業を近づいている三年や四年が目の色を変えるのも仕方のない話だ。

 最も、現在王位を継承する最たる候補であるカレンとしては、全く関係のない話であったが、仮にここで優勝することが出来れば、後々、王になった時に箔が付くし、盤石であったカレンの知名度が、更に民衆の間で広まるかもしれない。カレンも、この大会には出場するつもりでいた。

 リヴァルは、そのあと生徒を焚きつけるような言葉をいくつか口にし、各自で体操するよう生徒を散開させた。このとき、比較的生徒達は自由行動を黙認されており、そのときに意外な人物がカレンとフィーナの元にやってきた。


「オルテシア、トリニティ、ちょっといいか?」


 話しかけてきたのは、カレン達と同じクラスのルイス・アルバスだった。

 南国出身らしい黒人の彼は、誰とでもフランクに接し、人望も厚い。今も、この国の王女であるカレンに対し、砕けた口調を取る数少ない人物だ。


「あら、何かしら?」

「うちのボスが話があるんだってさ。ついてきてくれるか?」


 ルイスの指さす方向を見ると、集団から少し離れた所で、そのボス――レイン・アルダールが腕を組んでいた。


「アルダールさんが? 何の用?」

「アルダール先輩、な。詳しい話は俺も聞いてない。とりあえずついてきてくれるか?」

「言葉を挟むようで申し訳ありませんが、いくら先輩とはいえ、用事があるならばカレン様を呼ぶのではなく、直接あの方がこちらへ来るべきだと思いますが」

「ひぇえ、トリニティは相変わらずおっかねぇなあ。それさえなきゃボーイフレンドの一人や二人はすぐ作れるだろうに」

「よ、余計なお世話です!」


おどけた態度を崩さないルイスに、フィーナは珍しく慌てた様子を見せる。

生まれや育ちは関係なく、カレン達と気軽に会話ができるルイスは、カレンとしても好印象を持つ人物だった。


「いいわ、フィーナ。ここは彼に免じて、私たちが足を運ぶとしましょう」

「おお、流石お姫様! どこぞのお堅い従者とは違って話が分かるぜ!」

「……カレン様がそう言うのでしたら……」


 渋々と言った様子でフィーナが引きさがり、上機嫌になったルイスがカレン達を先導して歩き出す。

 やがてレインの元までやってくると、彼は腕組をほどき、軽い微笑を見せた。

 それが意外で、カレンは少したじろぐ。彼はもっと無愛想な人物だと思っていた。


「来てくれたか。わざわざすまないな」

「全くです。カレン様を呼びつけるなど、この学校内で少し強いからといって、増長しすぎではありませんか?」


 先ほどのルイスへの意趣返しだろう。歯に布着せないフィーナの言い様に、流石にレインも困り顔を作った。


「そんなつもりはなかったが……。確かに、最近は人を呼びつけてばかりで、自分から行くという発想が抜け落ちていたかもな。すまない、以後気を付けよう」

「わかればいいのです」


 大人しく反省した様子を見せたレインに溜飲を下げたフィーナ。その光景をルイスがありえない物でも見るような目で眺めていた。


「流石は女騎士様……。ボスにそんなこと言えるのはアンタと王女様くらいだぜ?」

「カレン様に不敬を働く者は、誰であっても関係ありません」

「ふふ、フィーナ、いいのよ。ありがとう」


 このままでは話が進まない。カレンは話を打ち切り、レインに先を促した。


「……すまないな。それじゃ、早速本題なんだが、君たち二人共、うちの部隊――『カグヤ』に入ってもらえないか?」

「……また突然ですね」


 そう言いつつも、カレンは半ば予想していた提案に目を細める。


「先日の模擬戦、君の戦いは本当に見事だった。準一級魔法師とはいえ、一年生であそこまで実戦で動ける者はそうはいない。君たちが『カグヤ(うち)』に入ってくれたら、即戦力だろう」

「当然ね」「当たり前です」


 レインの賞賛に、間髪入れず頷いた二人に、男二人は苦笑いを浮かべた。


「けど、分かっているとは思いますが、私たちも暇ではないわ。別にあなた達の仕事を軽んじるつもりはないけど、私たちにそれ相応の見返りはあるのかしら?」

「そうだな。将来の進路を選ぶ際に融通が利く、のは君たちには関係ないだろうから、やっぱり得られる主なリターンは民衆からの信頼じゃないかな」

「……まあ、その辺りが妥当よね」


 すべて予想通りの展開だ。そして、これだけではカレンが『カグヤ』に入る理由としては弱い。

 確かに、民衆への好感度上げも大切だが、そんなものは他にもっとスマートな方法が沢山ある。

 「残念ですけど」とカレンが言った時、そこに滑り込ませるようにして、レインが口を開いた。


「ああ、あともう一つ。君が得られる最大のリターンとして――俺に稽古を付けてもらえること、ていうのもあるな」

「――はい?」


 その言葉、そしてレインの微笑に。

 カレンは自分でも分かるくらい、あっさりと――キレた。


「……聞き間違えでしょうか? 今、とても傲慢な言葉が聞こえた気がしたのですが気のせいでしょうか?」

「常に冷静そうに見えて、自尊心が高い所は他の貴族と変わらないな。それは君の数少ないウィークポイントだよ?」

「私が……他の貴族と、同じ?」


 それは、カレンにとって禁句と言って差し支えない言葉。

 途端に目の前の光景が明滅し、無意識に魔力を熾す。

 しかし、カレンが動くより早く、レインへと飛び出す人物がいた。


「――流石にそれは不敬が過ぎます」


 フィーナは魔力を熾す間もなくレインへと掴みかかる。そのまま腕をねじり、関節を極めようとするが、どんな技法を使ったのか、数秒後にはカレンの目の前でフィーナが腕の関節を極められていた。


「……一年とは思えない動きだな」

「あなたっ……!」


 それが決め手となった。

 遠くでリヴァルが何か言っていたが耳に入らず、カレンが“殺すつもり”で魔法を撃とうとしたとき、




 背中から、氷柱で刺し貫かれるような冷たい殺気を感じた。




『――ッ!?』


 カレンだけでなく、レインとルイスまでも慌ててそちらを見る。

 カレンが後ろを振り向くと同時に、彼女の肩に服の布越しからも伝わる凍り付いた手が置かれた。


「――三人とも、これは何の騒ぎだい?」

「……カナキ、教諭?」


 僅かに震える声で、カレンがその名を告げると、カナキは、暖かみのある笑顔で微笑んだ。

 それだけで、凍り付くように止まっていた心臓が再開したような気がして、思い出したかのようにカレンは息を吐く。


「アルダール君。フィーナ君を放してあげたまえ。何があったかは知らんが、これ以上大事にするのはおすすめしないよ。今なら僕の方で後ろの怖い教官殿も黙らせておいてあげよう」

「……すみません。悪ふざけが過ぎました。お心遣い、感謝します。」


 レインがそう言葉を絞り出した後、彼も大きく息を吐いたようにカレンは感じた。

 拘束を解かれたフィーナが、ぎこちなく立ち上がる。すると、レインが二人に向かって頭を下げた。


「すまないな二人とも。ちょっと君たちの力を確かめるつもりが、やりすぎてしまった」

「……いいえ。先に手を出したのはフィーナですし、私も、あの程度で激昂してしまうのは大人げがありませんでした」


 謝罪は不要だと手を振るが、レインはそれでもフィーナに改めて謝罪していた。どうやら、思っていたより誠実な人間のようだ。

 カレンは横目でカナキの顔を盗み見る。

 彼は、いつものように人の良い笑顔を浮かべながら、フィーナとレインが和解する光景を眺めていた。


「どうやら解決したようだね。それじゃ、僕はリヴァル教官の方に適当に言い訳を作っておくよ」

「ありがとうございます、先生」


 カナキが去っていき、その後ろ姿を見守る。

 さっきの尋常じゃない殺気、気のせいだったのか。いや、あれほどの殺気、間違えるわけが……。

 しかし、カナキの背中の奥、そこでこちらを物凄い形相で睨むリヴァルを見てカレンは納得した。


「……あれはリヴァル教官からでしたか」


 解決したというのに、未だにリヴァルからは強い殺気が伝わってくる。流石は、元王宮護衛騎士団長を務めていた男だ。かつて『押し寄せる鉄壁』の異名を持った実力は伊達ではないという事か。

 視線をレインに戻すと、彼は未だに不審を瞳に浮かべてカナキを見つめていた。

 鋭いようで、案外洞察眼はイマイチらしい。

 彼の疑問を解いても良かったが、先ほど挑発された意趣返しだ。ここは黙っておいて、代わりに『カグヤ』には入隊してあげることにしよう。認めがたいが、確かに現時点で彼から学べることは沢山ある。ひいては、それが学生騎士大会の優勝にも関わってくるだろう。事実を認める度量くらい、今の私でも持ち合わせている。

 カレンは、このときの決意通り、その日のうちにフィーナと共に、シール市治安維持部隊『カグヤ』に入隊した。


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