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死刑囚、魔法学校にて教鞭を振るう  作者: 無道
一年四組の日常
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カナキの体術 2

「うん、まあこんなところかな」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


 拳を下げたカナキに、カレンは慌てて食い下がる。


「も、もう一回だけお願いします!」

「いや、今の手合いでオルテシア君のことはおおよそ分かったよ。どうやらオルテシア王国の宮廷式護身術を習っていたようだね。まあ、考えてみれば当たり前のことだったんだけど」

「ッ、何故……!?」」


 図星を突かれたカレンは二の句を継げなくなる。

 何故分かったのか。手合いと言っても、今のはほんの十秒も満たない戦闘だった筈。たったそれだけの間で、カナキは何故自分の流派に気づいたのか。


「始まった瞬間、オルテシア君は自然体から、いきなり僕の目の前まで移動しただろう? あれは護身術の特徴で、普段の生活のどんな状況でも、襲撃に対応できるようにってコンセプトで考えられた技法なんだ。それさえ分かれば、後はオルテシア君の素性を考えればわかるよ。最も、オルテシア王国の代表的な護身術といえば宮廷式しかなかったからなんだけどね」

「ッ……」


 これまで習ってきた護身術が、そんな発想から生まれた体術だなんて知らなかった。フィーナの方を見ると、彼女も首を振っていることから初耳だったのだろう。

 すると、カナキがフォローするように言葉を付け加える。


「二人ともその様子じゃ知らなかったみたいだけど無理もないさ。こんな知識があったって、直接戦闘には影響しないし、オルテシア君のように、誰からでも身分を知られてる人にとっては隠しても意味のないものだから。ただ、僕個人の考えとしては、これから独自に技術を発展させるうえで、基になったコンセプトは知っておいた方が良いと思うけどね」

「発展させる、ですか?」

「そうさ。今まで君たちが教わってきた宮廷式護身術は、これまでオルテシア王国の偉人たちが、叡智を結晶にして作り上げた技術だ。けど、それはあくまで僕達と同じ“人間”が考えたものだ。神様なんかが作ったわけじゃあない。なら、これから君たちの手で、この技術を更に発展させることだって可能だと思わないかい?」


 カナキの言葉は、カレンの中で驚くほどの衝撃を与えた。


「……つまり、あなたは、私たちが、これから宮廷式護身術を継承し、発展させるべきだと言いたいのですか?」

「別にそこまでは言ってないさ。ただ、偉人の蹄跡に沿って、ただ技術を吸収するだけじゃなくて、これまでに足跡が付いていない未開の領域にも、君たちなら到達できるんじゃないかって言ってるのさ。時にはあえて道を踏み外さないと、得られない物はあるってことだね」


 カレンは、急速に世界が広がっていくのを感じた。

 今まで、追う国でも様々な英才教育を受けてきたカレンだったが、カナキのような考え方を持つ者は誰もいなかった。だが、それも当然。一国の王女、しかも将来を渇望されている人間に対し、自らの手で技術を革新させろなどと言えば、道を踏み間違え失敗した時のリスクや、教育への職務放棄だと言われる可能性も捨てきれない。仮にカレンが王女でなければ、今のように言う人もいたかもしれないが、それすら許されないほどにカレンは大事に、慎重に育てられてきたということか。


「……そんなこと言われたのは初めてです。少し参考になりました」

「それは良かった。それじゃあ、フィーナ君も組手してみるかい?」

「はい、お願いします!」


 その後のフィーナとカナキの組手でも、なんとカナキが勝利した。カレンだけならともかく、れっきとした騎士であり、純粋な体術だけならカレンよりも遥かに上手なフィーナですら勝てないとは……。カレンの中で、レイン・アルダールとの模擬戦以来の衝撃が走った。

 カナキは特別素晴らしい技術を持っているわけではない。身体能力こそやや高めではあったが、目を見張るような妙技を使うわけでもない。ただ、先を読む力が尋常ではないのだ。


「君たち、というか、学校に通っている生徒達のほとんどに言えることだけど、みんな、正直に戦い過ぎなんだ。確かに、魔法を磨き、体を鍛えることも大切なんだけど、戦っている相手の思考を読んで、次に相手が何をしてくるか、何を狙ってくるのかも考えなくちゃならない。例えば、オルテシア君で言えば最初の奇襲。あの時の君は始まる前から戦意を漲らせていた。それに、始まる直前で下半身を緊張させたから、あれだけの速さの先制攻撃を僕でも防御出来たのさ」

「そんなところまで……」


 カナキの指摘にカレンは舌を巻く。カレンも王家である以上、人並み以上には感情を隠すのが上手いと自負していたのだが、どうやらカナキには通用しなかったらしい。


「フィーナ君も、全体的に素直な戦いをするね。騎士道精神みたいなものがあるのかもしれないけど、少しだけ直線的過ぎる気がするな。組手は一人じゃ出来ないからね。自分の動きだけじゃなく、相手の動きも分析して戦えると、もっと強くなるよ」

「は、はい……」

「うん、けど二人ともやっぱり学生離れした強さだったよ。女子の中でここまで動けるのなんて四年生にもほとんどいないと思うよ。まあ、もしもリヴァル教官の体術の授業を受けるときは、今話したことなんかは小細工だって一蹴されそうな気もするから、あくまで参考までに留めてくれ。他にも様々な考え方を持つ人が世の中には沢山いるから、君たちも色々な人に出会って、話を聞いて、君たち自身のアイデンティティ――“自分らしさ”ってやつを磨いてほしいな」

「――ッ」


 カナキの最後の一言。その既視感を覚える言葉に、カレンは頬を強張らせた。

 様々な人と出会い、自分らしさを磨く。それは、今朝夢の中で私に語った父の言葉そのままだった。


「それじゃあ、僕はそろそろ行くよ。二人とも、また学校でね」

「はい。今日はありがとうございました」

「いやいや、魔法に関しては君たちにほとんど教えることが出来ないからね。せめてこれくらいやらせてもらえないと僕の面目が立たないからね」


 そう言って公園を後にするカナキの背中を、カレンは複雑な心境で見送った。


読んでいただきありがとうございます。

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