街探索➁
「お兄様!次はこっち!!」
お兄様の手を引いて屋台を見て回る。
お肉の串焼きに、クレープ生地に野菜やお肉が挟んである物。イカ焼きの様な海産物の串焼きや、かき氷の様な物まであった。
どれもこれも美味しそうで目移りしてしまう。
この世界の食べ物は食材の名前や形が違うものの、味は殆んど日本の食べ物と変わらない。
しかも調味料がたくさん存在するので味が単調にならずに飽きない。
あぁ・・・お酒が飲みたい。
串焼きと一緒に、冷たいビールをゴクゴクと飲みたい。
「シャルロッテ、顔・・・」
はっ!涎垂れてた・・・?!
慌てて口元を拭うが、涎は垂れていなかった。
良かった・・・。
流石に公爵令嬢が涎はアウトだよね。
・・・というか、女子として完全にアウトである。
ホッと安堵の溜息を吐いた私を見ながらお兄様はクスクスと笑っている。
・・・もしかして、騙された?
私はプーッと頬を膨らませた。
「何か食べようか。何が良い?」
お兄様が私の頬を突きながら言う。
た、食べ物でなんか釣られないんだからっ!!
「あっちに、美味しそうな腸詰めと・・・隣には骨付き肉を甘辛く焼いたのがあるみたいだなー」
ゴクリ。
つ、釣られないんだから・・・・・・
「シャルが食べないなら、僕だけ食べちゃおうかなー」
「お、お兄様!私もお供します!!」
だ、駄目だ!やっぱり食べたい!!
「えー?いらないんじゃなかったの?」
「そんな意地悪言わないで下さいー!!」
渋るフリをしているお兄様の腕を強引に引っ張って屋台の方へ向かう。
目指すは串焼きー!! その次は腸詰めー!!
もう直ぐで屋台に辿り着く。そんな時・・・
ドンッ!
「わっ・・・!」
誰かが私にぶつかって来た。
倒れそうになる私をお兄様が支えてくれた。
咄嗟の時に『キャッ』と声が出る女子が羨ましい・・・。
私には無理だった。可愛く生まれ変わったけど・・・無理だった。
「大丈夫?シャルロッテ。」
「・・・大丈夫です。お兄様、ありがとうございます」
お兄様に支えられて、斜めに傾いていた体制を元に戻した。
一体誰が・・・?
ぶつかって来た相手を見ると、その相手は道に座り込んでいた。
私と同じ位の小柄な子供だ。
フードを目深に被っていて、表情を見る事は出来ない。
・・・あれ?でも、どこかで見た事がある様な・・・・・・?
「君、大丈夫?」
お兄様がその子に向かって手を差し伸べると、その子は驚いた様にお兄様を見上げた。
こんな風に手を差し伸べてもらえるとは思ってもいなかったという様な反応だった。
その子が顔を上げた時・・・私のいた位置からは偶然にもその子の顔が見えた。
透ける様な白い肌に・・・赤い瞳・・・?
首を傾げた瞬間に、その子と目が合った。
ハッとお互いに見つめ合う事・・・・・・数秒。
「・・・だ、大丈夫です!」
その子はフードを目深に被り直し、差し出された手を振り払う様にして走り去ってしまった。
あの子は・・・【ミラ・ボランジェール】だ。
私が知っているよりも少し幼かったけど・・・間違いない。
私はそう確信した。
ゲームに出て来るミラは、シャルロッテと同い年で・・・伯爵家の次男だった。
肩まで伸びる白銀色の髪を一つに纏めて耳の下に流し、赤みがかかった大きな瞳と中性的な容姿を持っていた。
アルビノのミラは肌が透ける様に白く、本人はそれを気にしている為に暑くても長袖しか着なかった。
彼方が来るまでは・・・。
彼方がこの世界に召喚された後、二人は学院のクラスメートとして出会う。
彼方はミラのコンプレックスを早々に吹き飛ばし、魔王討伐の旅ではたくさんの経験や苦楽を共にしながら互いの絆を深めていく。
ミラルートに入らなければ、二人は親友となるのだ。
・・・そんなミラが何故アヴィ領にいる・・・?
シャルロッテと出会うのは学院に入ってからだ。
しかも、ミラの実家からここまでは距離がある。
ちょっとした買い物なんかは、王都に出た方が早かったはずだ・・・。
答えを聞こうにも、ミラは去って行ってしまったので分からない。
何でこう次から次に出てくるかな・・・。
自然と気落ちしてしまう。
誰かに追われてる訳でもなさそうだし、元気そうだったから・・・大丈夫だよね?
これから追い掛けてまでミラと関わりたくはない。ミラも私を断罪する側の一人なのだから・・・。
「本当に大丈夫?」
呆けていた私をお兄様が覗き込んで来た。
「ちょっと・・・驚いただけなので大丈夫です」
私は笑って誤魔化した。
お兄様は私が誤魔化した事に気付いているはずなのに、何も言わず優しく頭を撫でてくれた。
・・・大丈夫。・・・大丈夫。
私は道を踏み外さない。
だから・・・大丈夫・・・。断罪なんてされない。
ギュッと手を握り締めながら何度も心の中で呟く。
攻略対象者に出会う度に思い出すのは。私の処刑の場面だ。
実際に体験した訳でもないのに・・・足が竦んでガクガクと震えが止まらなくなる。
私は・・・怖いのだ。
泣き叫んでも誰も助けてくれなかった。
ガッシリと身体を押さえつけられ・・・・・・。
お兄様は頭を撫でていた手を止めて、私の右手を自らの両手で握った。
「僕は君の味方だからね」
説明も何もしていないのに、お兄様には・・・私の考えている事が分かるのだろうか?
私を優しく慰めてくれるから涙が溢れそうになるじゃないか・・・。
大丈夫。私は一人じゃない。
私は唇を噛み締めながら涙を堪える。
私にとって、お兄様はなくてはならない・・・頼もしい、一心同体の様な存在になっていた。
お兄様に裏切られる事があったら・・・私の心は砕けてしまうかもしれない。
「お兄様!!屋台を制覇したいです!!」
私は無理矢理に笑顔を作った。
私は自分も含めた最悪の未来を変える為に頑張っているのだ。
これだけの事で動揺するな。
私はもっと最悪な光景も知っているのだから・・・・・・。
「えー?太っても知らないよ?」
微笑むお兄様。余計な事は言わずに私に合わせてくれる。
「太る時は、お兄様も一緒だもーん!」
「残念。僕は食べても太らない体質なんだ」
何ですと・・・!?
それは不公平じゃ?!
思わずその場に立ち止まる。
「まあ、シャルロッテは太ってもコロコロして可愛いと思うよ?」
「そんな無責任な事を!!」
私はプーッと頬を膨らませた。
「あはは。ほらほら。串焼き食べに行くんでしょ?行くよ」
私の頬の膨らみをプニッと潰して、今度はお兄様が私を引っ張って行く。
お兄様に誤魔化されつつ・・・途中で見つけた『クランクラン』のジュースを飲みながら・・・。
私とお兄様は屋台の食べ物を存分に堪能したのであった。
さくらんぼの形をしているクランクランのジュースは甘酸っぱくてとても美味しかった!
次は是非、お酒の方を飲みたい!
因みに・・・
体重が少し増えたのは・・・成長期だからだと思う事にした。
ドレスのお腹部分がキツいなんて気のせいなんだからね・・・!?
私は心の中で言い訳を繰り返した。
お兄様だけズルイーーーーー!!