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ユースフル!  作者: サツマイモ
第一章
3/38

十音’s 003 「そうやって、命を粗末にするんじゃねえよ!」

「そうやって、命を粗末にするんじゃねえよ!」


遠のく意識が、その声だけで、一瞬にして戻ってきました。

気づけば、彼の腕に力はこもっていません。

どころか、少しの力も入っていません。

まるで、屍のような。


「ったく、あぶねえことするなー。さすが、王家の人は考えることが違う」


そこには、ヘッドホンをつけたまま、矢を放った彼女の姿がありました。

東十音。人体蘇生の能力を持つ少女。


「ど、どうして?」

「いや、どうしてって、勘だよ、勘」


勘で分かるような状況ではないと思いますけど。


「あと、別に音が壁になるわけじゃないしね」

「ど、どういうことですか?」

「いや、単純な話。音って、意外と自由に聞けるものでさ。意識して聞かないようにしたら、全然聞こえないものなんだよ」

「……そうなんですか」


彼女は、ふうっとため息をつきます。


「よかったよ、とりあえず生きててくれて」


「すみません」

「謝るこたない。この戦いに巻き込んでるのは、こっちなんだからさ」


もがく一倉を、彼女は簡単に踏みつけながら言います。

そして、着けていたヘッドホンを一倉に付け返します。

その衝撃で、一瞬ビクッと動き、その気持ち悪さから私達も震えました。


「気持ちわるいな」

「そういわないでください。私達の所為でこうなっているんですから」

「確かにな」


軽い風が、ふわりと私の髪の毛をなびかせます。

それは、まだ終わりを告げていないかのような、そんな雰囲気を醸していました。


「それで、どうする? こいつ、太ももに刺しただけだから、まだ死なないだろうけど?」

「……」


黙る私を、彼女は不思議そうに見つめます。


もしも、もしも。

もしも、さっきの鹿とやらが、ただの鹿ではないとすれば。


「あの、人間以外の足音って区別できますか?」

「犬猫の哺乳類から、虫の羽音まで。完璧に区別できるよ?」

「では、鹿の足音ってまだ聞こえますか?」

「うーん、そうだね。なんとなく聞こえるかな」

「その鹿を、今すぐ撃ってもらえますか?」

「え? そんなにもみじ鍋食べたいの?」

「いえ、そうではないです」


もしも、私の考えが正しければ。


昔、私がまだ王宮に閉じ込められていたころのことです。

3年前の生誕祭の前日です。

私がクマのぬいぐるみで修と遊んでいると、突然鬼のような形相で父親―国王―が、私の部屋のドアをこじ開けて、ぬいぐるみを持っていたことがありました。


『このぬいぐるみには、絶対に触れてはならない』


その時の形相と言葉の勢いは、永遠に忘れることは無いでしょう。


『なんで?』

当然、父親に訊けるはずもなく、私は修に尋ねました。


すると、修は、『ここだけの話なのですが』といって耳元に近づいてきたのです。

慌てて赤くなった顔を抑えようとしていると、彼はこうささやいたのです。


『あれは、武器なのです』

『武器?』

『監視装置とでも言いましょうか』

『どうして、そんなものが』

『これ以上は、例えお嬢様でも口を割るわけにはいきません』

『そう』


てなことがあったのです。

もしも、その時の技術が使われているのなら。


たった3年、されど3年。


生身の動物を使うことだって、容易くなるのではないでしょうか。


「おお、そういうことか。じゃあ」

素早い準備からの見事な一発。

彼女の狙いに狂いはなく、迷わず真っ直ぐとんだ矢は、鹿に命中しました。

鹿の悲鳴は、暗闇からもはっきり聞こえました。


「まさか、監視先はここだったのですね」

「まあ、自慢じゃないけど、うちが一番強いからね」

私達は、一応病院へと通報し、鹿の元へと足を運びました。


「それにしても、素晴らしいですね」

「そうだろう?急所にしか当てねえんだよ。で、これが監視装置の元ってわけか」


宝石のようなそれを手に取り、彼女は空へと向けます。

初めはすべてが驚きでしたが、嗅覚聴覚で見るという彼女の行動にだいぶ慣れてきました。

それでもやっぱり、凄いと言わざるを得ませんが。


「そうだと思います」

「ふーん」


星の光を反射する装置を、彼女はその握力で破壊しました。


「よし、鹿を持って帰るぞ!」


犯人とバレぬよう、私達は自己最速で帰宅しました。

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