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転生王女と天才令嬢の魔法革命【Web版】  作者: 鴉ぴえろ
後日談 その後の日々
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After Days:翼を休める日々へ

後日談を投稿していこうと思います。基本的に日常回や、短編形式で書いていく予定です。

 ユフィが女王になってからというもの、私の周りは色々な事が変わった。

 ユフィは父上の代わりに王城の執務室に入って、女王として政務を行うようになった。先王となった父上や母上が補佐として入っているけれど、その内に補佐から相談役に肩書きを変えて、政務の第一線からも身を引く予定だと言う。


 元魔法省も魔学省と精霊省に分かれて、それぞれの役割と活動を分けた事で組織の健全化が図られた。

 魔学省にはユフィの助手として活躍したハルフィスがマリオンと共に籍を置いている。ようやく周囲にも認められるようになってきた二人はとても幸せそうだ。

 二人は今、貴族学院で学ぶ魔法の基礎授業の見直しをしているという事で、充実した生活を送っているらしい。


 ガッくんは近衛騎士団で毎日、忙しそうにしている。近衛騎士団は魔道具の普及、量産が始まった事で大忙しらしい。近々、大規模な人員増強も考えられているとか。

 彼等の増えた仕事には、魔道具の扱いに習熟した騎士を各地に派遣しての、魔道具の研修もある。これを機会に王城に留まって騎士をしていた貴族が領地に戻るケースも増えているらしく、密かに喜ばれている。

 毎日が忙しい騎士達だけど、その表情は明るいものだった。時々、魔学省の魔道具の実験や検証に付き合って悲鳴を上げている所を見かけるけど。


 トマスは相談役として籍を残しながらも、自分の工房へと戻っていった。やはり性に合わないからと言いながらも、出来る事は十分果たしたとの事で満足げだった。後は自分の工房で、自分が受けたい仕事、突き詰めたい技術を極めたいと語っていた。

 今回の魔道具普及の技術顧問として働いた実績がトマスの名を世に知らしめて、小さい工房ながら客足が途絶えなくなったらしい。中には弟子入りを希望する者もいて、その内小さな工房のままではいられなくなるんじゃないかな、と思ってる。


 私の近しい人達は皆、新しい役職や生活で頑張っている。

 そんな中で、私は……。


「…………暇なのよね」


 なんと、暇だった。

 私の肩書きが第一王女から王姉殿下に変わりつつある中、私だって何も役職がない訳じゃない。

 例えば魔学省と国防省の掛け持ち顧問とか、あとはユフィが戴冠式でやってくれた“実質王妃宣言”のせいで、実質的な王妃扱いとか。

 だけど私自身に回ってくる仕事がない。その理由はいくつかあって、その一つが魔学省が新設されたばかりの組織だから。


 まだ魔道具は私が完成させた既存品を世に送り出す事、それから既存の魔法の見直しと基礎に当たる部分に手を入れる事で忙しいらしい。

 私は魔学の発案者だから、その発想も基礎も人より先に進んでると言われる。だから話がまだ合わないのが現状で。私について来れるのはそれこそユフィやハルフィスといった最前線で魔学研究に踏み込んでる一握りだけ。


 だから、少なくとも物になるまでは私が新しく魔学の研究に携わるのはお預けを受けてしまった。なので私は魔学の新規研究は今は行ってない。

 私が研修をして魔学の理解を深める、という仕事もない訳じゃないんだけど、そこは後続に譲って欲しいという事でやんわりお断りされてしまった。教えるのも習熟に繋がるから、と言われてしまうと私も無理にとは言えない。

 じゃあ騎士団にくっついて行って、各地に派遣して貰って魔道具の研修を行う事も考えたけれど、これも時期を見て欲しいとの事で、こちらもやんわりと断られてる。


「なんか皆、やんわりと私に仕事するなって取り上げてない?」


 確かにここに辿り着くまで色んな事があった。大きな山場を越えて、新しい波に乗りつつあるから影響力が大きい私にはまだ大人しくて欲しいというのもわかる。だからやんわり休んで欲しいと言われたら、つい従ってたけど。

 で、暇を持て余し始めてから気付いてしまった。皆、私を仕事から遠ざけようとしてる。魔学の研究とか、魔道具の普及に関してとか。あれ? おかしくない?


「良いではないですか。アニスフィア様はただでさえ、ユフィリア女王が即位されるまで働きづめだったのですから」


 イリアがお茶を淹れてくれながらそう言う。けれど、私は納得がいかずに眉を寄せてしまう。


「いや、それは否定しないけど。でも、ユフィが女王になってようやく軌道に乗った訳じゃない。それで私が休んで良いって言われるのは……なんか落ち着かなくない?」

「今、アニスフィア様が動くのは各方面で良い影響が出ないからですよ。今は基礎を固める時期です。そこに劇薬を……ごほん、刺激を与えすぎるのも良くないと思いますよ?」

「人の事、劇薬って思ってるのイリア? ねぇ、ちょっと目を合わせなさいよ」


 イリアは相変わらず離宮に留まっている。最近では表向きの仕事をレイニに譲ってる為、レイニが離宮にいない事が多い。そのレイニは、今は王城の侍女達から教えを受けている。

 今後、レイニはユフィの専属として表に出る機会が増えるだろうから、侍女として、そして男爵令嬢として磨きをかけなければならないという事で、日々厳しい教育を受けているとか。

 それでもレイニは充実した様子で楽しそうだ。この離宮に引き取られた頃に比べれば社交的になったと思う。

 なので必然的に私の世話はイリアがする事になる。離宮を住まいにしているので夜になればユフィもレイニも帰って来るんだけど。なんだか何もする事がないまま時間が過ぎるのは落ち着かない。


「アニスフィア様は大きな夢を叶えたではないですか。少しは羽を伸ばしても良いかと思いますよ」

「……そうだけどさぁ」


 空を飛ぶ。それを皆に広めたい。私の“魔法”だって認めて欲しい。そして皆が笑ってくれるような魔法使いになりたい。そんな願いは、確かに叶えられたと思う。

 今、皆が私の“魔法”を国中に広めようとしてくれる。それが誰かの笑顔に繋がって、日々の充実になる。私が望んだ光景がそこにある。それが嬉しいとは思う。


「だからこそ、私だって何かしたいんだけど……」

「それでもアニスフィア様の仕事はございません。……それとも、本格的に政治に関わる為のお勉強や、お妃教育をお受けになられますか?」

「…………それもいいかなぁ」


 思わず呟いてしまった。するとイリアが目を瞬かせて、すぐに溜息を吐いた。

 そしたら額を指でぐりぐりと押された。なんだかイリアが呆れたような顔をしている。


「貴方が嫌がるような勉強をしたがるとは、よほど疲れておられるんですよ」

「えぇ……? 疲れてたら勉強したくなる筈ないじゃん。暇だからだよ。ひーまー!」

「暇でしたらご自分で研究をすれば良いではないですか。個人の研究は咎められてないのでしょう?」

「……そうなんだけどさぁ。でも、今これだ! って言うのもないんだよ」


 イリアの言う事は尤もなんだけど、なんだか胸がいっぱいというか、しっくり来ないというか、次のアイディアが浮かばないんだよね。

 胸がいっぱいなのに、ぽっかりと穴が空いてしまっているような。ユフィを引き取る前にあったような自分の世界に潜り込むような感覚が降りて来ないというか。


「……重症ですね」

「え? 何か言った?」

「何でもありません。なんでしたらダンスのレッスンでもいたしますか? 体を動かさないのも不健康でしょう。研鑽を積んでおいて損はないと思いますが」

「うーん……じゃあ、それでいいや」


 別にダンスは好きでもないけど、男性と踊るというのに抵抗は少なくなってる。今後、機会がまったくない訳じゃないし、暇な時じゃないとやらないだろうし。

 こうして、私はイリアに誘われるままにダンスのレッスンを受ける為に立ち上がった。



 * * *



 アニスフィアが暇を持て余す事に疑問を覚えるようになる、その少し前の事である。



 * * *



「アニスフィア様を休ませるべき、ですか?」


 目を丸くして意外そうな声を出したのはハルフィスだった。今や魔学省の第一線で才女としての活躍が目覚ましい彼女は、今日の呼び出しの議題に首を傾げた。

 ここに集められたのはアニスフィアと親交がある者達ばかりで、ユフィリアからの召集を受けて集まり、会議の場が設けられていた。

 議題を切り出したのはユフィリア。すっかり女王としての威厳を見せるようになったユフィリアは一つ頷いて見せる。


「えぇ、暫くはアニスには休養を取って貰おうと思っています」

「その理由は?」


 ハルフィスと共に同席したマリオンが疑問の声を上げる。

 あのアニスフィアが休めと言われて休むような性質だろうか? と彼は思っている。あの好きな事には一直線で、破天荒に振る舞ってきたアニスフィアが大人しくしているとは思えない、と。


「アニスの療養の為です」

「……療養? どこかお体の具合が悪いんですか?」

「いえ。ただ、アニスには休養が必要だと判断したのです。これはアニスが国防省で魔学の普及を始めた頃から考えていました。私の戴冠式も終わりましたし、良い機会かと」

「でも、アニスフィア様はやる気満々というか、今も飛び出しそうというか……。ようやく魔学が軌道に乗り始めたのに……」

「アニスは魔学の第一人者ですが、発想の飛躍が酷い事があります。今は基礎を固める時期、下手にアニスの影響を与えるのは良くないのです」

「まぁ、アニスフィア王姉殿下が基準になられても、それは困るしな」


 笑い声を上げながら言ったのはミゲルだった。そしてその場に集まった誰もが、確かに、と同意を示すように頷く。


「……そもそも、アニスの発想が奇っ怪なのは本人の気質ばかりではありません。環境にも問題があったのです」

「環境というと……ずっと離宮に篭もりきりだった事ですか?」

「それもあります。そして今でこそ減りましたが、アニスを認めない、受け入れない者達が多数でした。アニスは気にしてないように見えますが、周りの目を気にするからこそ敢えて奇行に走っていた節があります。その結果、アニスは自分を省みない所があります」


 はぁ、とユフィリアは溜息を吐く。その悩ましげな溜息は、心底アニスフィアを案じての事なのは誰もがわかっていた。


「今まではそれが許されていた風潮がありました。ですが、今となってはもうアニスはこの国に欠かす事が出来ません。私もアニスを諫めますが、女王という身ですので常に見張れる訳ではありません」

「……それで療養なのですか?」

「グランツ公が口にした言葉です。アニスは心を病んでいる、と。実際、自分を省みないあまりに禁忌になりかねない手法にまで手を出しています。それも心を病んでいるからと言われれば否定出来ません」

「……“刻印紋”ですか」


 イリアが苦々しげに呟く。“刻印紋”とは、最近になって呼ばれるようになったアニスフィアの背中に刻まれた刻印を刻む手法の事である。

 これは機密扱いであり、アニスフィアと親しい者や一部の重役にのみにしか公開されていない。アニスフィア以外に己に施そうという者はいないと思いたいが、人が集まれば邪な事を考える者はいる。


「見方によっては、そこまでしなければならない程にアニスは追い込まれていたとも言えます。誰にも咎められず、誰も気付かない。魔学が謎だったからこそ追求もされませんでしたが、魔学の技術公開が始まった今、いずれはアニスの刻印紋に気付く者も出てくるかもしれません」

「刻印紋は魔学における闇の側面とも言えなくもないですからね……」


 不安げに呟いたのはレイニだった。彼女にとっては間接的な話ではあるが、思う所がある。

 魔学は今でこそ、国を活性化させるものとして広く受け入れられ始めている。しかし、その技術や知識を悪用しない者がいないとは言えない。その温床となりかねないのが刻印紋である。

 どんな物事にも光と闇の側面がある。刻印紋はその負の象徴となりかねない代物だ。


「いずれ、誤解を受ける前に手を打っておく必要がありますが、流石に今は時期尚早です。それに機を間違えば、折角アニスに集まってきた支持も悪影響を受けるでしょう。だから療養も兼ねて、暫くアニスには休んで貰おうと考えているのです。その間に、あの破天荒な所も多少は矯正したいですしね」


 こうして、アニスフィアの療養は決定されるのであった。



 * * *



(アニスフィア様も、環境が変わって戸惑っているのでしょうね……)


 ダンスの為の相手役を務めながらも、イリアはアニスフィアの顔を眺めながら思う。

 アニスフィアの大きな目的は果たされた。これから彼女の為す事は広く受け入れられていくだろう。けれど、それはもう少し先の話だ。あまりにも突飛なものを生み出し過ぎれば、幾ら魔学を受け入れ始めた者でも忌避してしまうかもしれない。

 それをアニスフィアも無意識に感じているのかもしれない。あれほど熱中していた研究熱も、今は少し冷えているように思える。かといって、何もしないでいるのは落ち着かない。

 休んで良い、とは言われても、何かをしなければならないと、そう思っているかのように。だからやらなければならない事を探してしまう。そんな必要はないのに、とイリアは思う。


(やりたい事を、自由に、と言っても……まだ戸惑いが大きいのかもしれませんね。いざ実感してみると)


 こんなにも自分達を取り巻く環境が変わるとは思わなかったとイリアは思う。

 いずれはアルガルド王子が王となり、アニスフィアの居場所すらも残らないとさえ危ぶんでいた。

 戸惑っているのは自分もなのかもしれない。だからこそ、自分が担っていた役割をレイニに譲った。


(今はユフィリア女王も、レイニもいます。先王陛下も、王太后様も、それだけじゃない。この方はもう一人じゃない)


 一人で抱え込む必要はないのだと、そんな思いからイリアの口元が柔らかく微笑を浮かべる。

 イリアの表情の変化に気付いたアニスフィアが不思議そうに首を傾げる。そんな主の姿を見ながら、イリアは何でもないと返すのであった。


 今はどうか、飛び続けたその翼を休めて欲しいと祈りながら。




別作品で「斯くして騎士は公爵令嬢と逃避行する」も投稿しております。良ければこちらもお願いします。

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