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最後の呪い 3



 動揺してしまいながらも、魔力を流し、解呪を続ける。


 フェリクスへ視線を向けると、彼も眉を顰め、剣の柄に手をかけていた。


《ルフィノ様が倒してくださっていますが、教会の周りに埋められていた兵士のアンデッドのようで……ティアナ様も気を付けてください!》

「アンデッドですって? イザベラ、大丈夫なの?」

《はい、なんとか解呪は続けますから、っきゃあっ!》


 爆発音が聞こえてきて通信は途切れ、再びフェリクスと顔を見合わせる。


「一体、何が……」

「とにかくイザベラを信じて、解呪を続け──っ」


 そこまで言いかけたところで、前方からドオンという大きな音がして、地面が揺れる衝撃と共に土煙が辺りに広がる。


「ティアナ!」


 すぐに目の前にフェリクスが立ち、風を切るように剣を振り、土埃が晴れていく。


 やがてカシャン、カシャン、という金属が擦れるような音が大聖堂内に響く。


 鼓動が早くなっていくのを感じながら、音がする方へと視線を向けた私は息を呑んだ。


「──嘘、でしょう」


 そこにいたのは、一人の男性だった。


 ところどころ錆びた赤と金の鎧、ボロボロの赤いくすんだローブが揺れている。豪華な刺繍が施されており、元は職人が時間をかけて仕上げた最高級のものだったというのが分かった。


 そして左胸には、リーヴィス帝国の皇族の証である紋章が描かれている。


 ひとつに束ねられた腰まである黒い髪が揺れ、光のないアイスブルーの瞳は焦点を失ったように虚ろでくすんでいた。


 目の前の人物が何者なのか、すぐに分かってしまった。そしてそれは、私の目の前に立つ彼も同じだったらしい。


「……アラスター・フォン・リーヴィス……」


 震える声でフェリクスが紡いだのは間違いなく、初代皇帝の名だった。


 過去に王城で見た姿絵とも、よく似通っている。何よりその顔立ちも、フェリクスと似ていた。


(まさか、そんなことが……)


 想像もしたくない最悪の事態に、ロッドを握る手が震える。


 ゆっくりとこちらへ近づいてくる男性の背後にある扉は、完全に崩れていた。


その奥では床を埋め尽くすような大量の金銀財宝と、それらに埋もれるようにして置かれた豪奢な棺がある。その側には大破した蓋があり、棺の中は空だった。


「…………っ」


 ──初代皇帝が、死霊術により強制的に甦らされている。


 そのおぞましい事実に、言葉を失う。


 イザベラ達も、皇妃の墓の周りに埋められた兵士の死体がアンデッド化して甦らされ、襲っているのだろう。過去には殉葬者が墓の周りに埋められる風習があったと聞いている。


「どうして、こんな酷いことができるの……」


 これ以上に死者を冒涜することなど、間違いなくないだろう。そもそも死霊術なんて、伝承でしか聞いたことがない。


 仕組みは分からないものの、この地における私の魔力や呪いは、彼らを動かすために使われているのかもしれない。


 初代皇帝が右手に持っている剣はずるずると引きずられており、床と擦れてギギギという耳をつく嫌な音が鼓膜を揺らす。左腕と右足の関節は不自然に曲がっており、顔や手は土気色をしていた。


 もしかすると、まともに動けないのかもしれない。初代皇帝が亡くなったのは数百年前で、その肉体だってとうに朽ちているはずなのだから。


 そんな期待を抱いた次の瞬間、キイン、という金属と金属が激しくぶつかる音が響いた。


「フェリクス!」


 これまでとは全く違う俊敏な動きをした初代皇帝がフェリクスに切り掛かり、即座にフェリクスは自身の剣を引き抜いて受け止めている。


 瞬きをする間もなく、またすぐに次の攻撃が繰り出された。剣同士が交差する衝撃で火花が散り、両者が剣を振るうたびに空気が裂ける音がする。


「……やはり、流石だな」


 フェリクスは冷静に攻撃を受け止め、すぐに反撃の刃を相手へと放つ。それからも二人の激しい攻防は続き、一振りごとに地面が揺れた。


(あんなの、反則だわ)


 アンデッド化している初代皇帝には痛覚もなければ「死」という概念も存在しないのだろう。


 腕が切り落とされても身体の中心を貫かれても、苦しむ様子はなく攻撃を続けていた。


 初代皇帝は軍神と呼ばれ、その圧倒的な力によって帝国を統一したと言われている。


 それほどの武を誇った人間がアンデッドになった以上、より厄介で強さは計り知れない。


「く……っ」


 フェリクスも苦戦を強いられており、身体にできた切り傷からは血が滴り落ちている。


 

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【脇役の私がヒロインになるまで】

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