表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/426

第38話 食糧問題の解決策を


「みんな、お疲れさま。今日は俺の家に泊まって疲れを癒してくれ」


 あれから、クレイドルの森ダンジョンの第8層までを難なく攻略した俺たちは、全員怪我もなくプロメテウスギルドに到着した。


「俺たちも泊まっていいのかよ」


「構わない。夕食も用意してあるので、ゆっくりしていってほしい」


「さすが貴族さまだ。それじゃ遠慮なく」


 俺はオッサンたちを含めた全員を引き連れて、城の方に歩き出した。





「ここってプロメテウス城じゃないか。ここがお前の家なのか」


「ああそうだ。かなり汚い所だが遠慮なく入ってくれ」


 オッサンたちが柄にもなく尻込みする一方で、クラスメイト達は楽しそうにはしゃいでいる。


 城に入ると母上が使用人とともに俺たちを出迎えてくれた。


「みんないらっしゃい。部屋を用意したので着替えてから食堂に来なさいね。お風呂は順番に使ってね」


 母上がテキパキと客間を割り振っていく。


「おいお前ら。調子にのってお嬢さんたちに手を出すなよ」


 少佐が釘を刺すと、


「誰が出すかよ。俺はまだ死にたくねえ」


 第8層まで全く出番のなかったオッサンたちは、彼女たちの恐るべき攻撃力を十分理解していた。


「大丈夫。部屋は鍵がかけられるから、安心してね」


 母上はそれぞれの部屋の鍵をみんなに手渡していった。


「しかし、随分とキレイになったな」


 一週間前と比べて、ホコリやカビ臭さがなくなっており、汚れもあまり目立たない。


「かなりがんばったのよ。でもアゾートの部屋はまだ終わってないけどね」


 4階の当主部屋はベッドの交換など必要な改修と清掃がまだ終わっておらず、俺は3階の家族部屋の一室を使っている。


 自分の部屋に戻ろうとすると、何故かネオンが俺についてきた。


「お前には2階の部屋を貸しただろ。早く着替えてこいよ」


「みんなの前では、私はアゾートの弟という設定なんだから、2階に泊まるのはおかしいでしょ」


「確かにな。いや、ちょっと待てよ。うちの両親はお前が俺の弟として学園に通ってること、知ってたっけ?」


「どうだろう。でもお義母様からは、セレン姉様と同様に2階の鍵を渡されたから、ひょっとすると知らないかも」


「あぶなっ。夕食会の前に気づいてよかった。おいネオン、すぐ説明に行くぞ。それから母上のことをお義母様と呼ぶな」




 結論から言おう。


 この後、両親からメチャクチャ怒られた。


 うちの両親の認識は「ネオンは変な子」であり、ネオンのことはあまり深く考えないことにしているらしい。男装してるのも当主命令だからぐらいの扱いで、まさか兄弟として寮で一緒に住んでいるとは思わなかったようだ。


 完全にやぶへびだった。


 相手がネオンとは言え男子寮で年頃の娘と同居なんてとんでもないとか、責任をとってネオンを嫁にもらえとか、俺は巻き込まれているだけなのに、ひどい言われようだった。


 ネオンも、はしたないだの、もう嫁の貰い手はないだのガミガミ怒られているのだが、本人は全く堪えておらず、ニヤリとほくそえんでいる。


 こいつは本当に憎たらしい。


 両親から一通りのお小言をもらった後、ネオンも3階の家族部屋の一つを借り受けることになった。




 2階の食堂で夕食会が始まった。


 30人ほどの会食だが、食堂にはまだまだ余裕があった。


 シャンデリアの下にセットされたテーブルにならぶご馳走を食べながら、みんな学園での話や今日のダンジョンでの話などで、盛り上がっていた。


 ネオンは俺の父上と楽しそうに話している。


「じゃあこの娘たちはみんな、お前の親衛隊なのか」


「その通り、彼女たちは僕の親衛隊なのです、父上」


 俺と父上の間にまんまと着席し、ネオンが領主家ヅラして調子にのっている。俺は耳元で小声で注意した。


「おいネオン。あまり調子に乗ってると色々とバレるから、あまり話をするな」


 こいつのせいで、せっかくの夕食なのに胃がキリキリして料理が喉を通らない。


 セレーネが俺の反対側の隣でナイフとフォークを握りしめ、プルプル震えている。ネオンにお怒りの様子だ。この後また姉妹ゲンカがはじまるぞ。



 その夜、城の庭園で行われた姉妹ゲンカの爆裂音が、深夜の城に響き渡った。


 



 次の日の放課後、俺はフリュオリーネを連れてフェルーム領の当主ダリウスを訪ねていた。


 ダリウスはセレーネたちの父親なので、文字通り親ほど年が離れているが、一応、俺の従兄弟にあたる。


 今日は例の食糧問題の解決策として、商業ギルド長と相談した内容をダリウスにも伝え、協力を求めに来たのだ。




「それで、秋の収穫で得た穀物をお前の作る市場でも売却するように、サルファーや他の当主たちにお願いすればいいんだな」


 各領地が税として徴収した穀物の一部は、商人に売り渡して金銭と交換する。それを、プロメテウス取引所を通してもらうようにするのだ。


 取引所では価格が公表されているため、相対取引で商人に足元を見られて安く買い取られてしまうことがなくなる。


 領主たちにとってのメリットをアピールして、参加を促す。逆に領主たちが多数参加することで、取引所の信用を高めて商人たちの参加を促す効果もある。


 取引で最も大事なのは信用なのだ。




 取引所の話が一段落した後、もう一つの本題に入る。俺は声を潜めて、ギルド長から聞いた話をダリウスに耳打ちする。


「今回の食料品価格の高騰には裏があって、どうやら隣のソルレート伯爵家が何やら動いているようです」


「なんだと。どういうことだ」


 穀物の量はもともと、サルファー伯爵エリア全体の領民を賄うのに十分あるのだ。しかも、今年は豊作が期待されている。


 しかし、内戦勃発という悪材料があるものの、ここまでの価格高騰が起こるのはおかしい。


 商人の売り渋りが連鎖して価格がつり上がっているのだが、それを主導しているのがソルレート領に本店を持つロディアン商会らしい、というのが商業ギルド長からの情報だ。


 さらにギルドが調べたところ、ロディアン商会は、穀物をソルレート領に運び込み、買値より安く売却。その損失分はソルレート伯爵から補てんされているらしい。


 内戦の結果、これまで中立だったボロンブラーク領がアウレウス派に入ったため、シュトレイマン公爵派のソルレート伯爵が早めに仕掛けてきたというのが、俺の考えだ。


 ちなみに、ソルレート領が関税も引き上げ、中継貿易を主体とするプロメテウス領には大打撃なのだ。


「話はわかった。それでどのような対応策を考えておる」


 俺は誰にも聞かれないように小声で語った。


「うーん。所々よく理解できない所もあるが、何をしようとしているかはわかった。当主たちへはうまく説明しておく。任せておけ」


「アウレウス伯爵には俺の方から協力を求めます。フリュ、面会の約束を取り付けておいてほしい」


「かしこまりました」





 その後俺たちは、プロメテウス領の商業ギルド長や主要な商会を回って取引所の設立に向けて調整を行った。


 そしてダリウスとの面会から三日後、俺とフリュオリーネはアウレウス伯爵との面会のため、王都の伯爵邸まで来ていた。



「フリュの魔力があって助かった。俺の魔力だけだと、王都までジャンプするのはまだまだ厳しいな」


「私の魔力はあなたのものだから、いくらでも使ってくださいね」



 屋敷に着くと使用人たちが温かく出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ、メルクリウス男爵」


「お帰りなさいませ、姫様」


 俺たちはそのまま伯爵の執務室へ通され、簡単な挨拶をした後、早速本題に入った。




「帳簿取引とは面白い発想だが、そなたが考えたのか」


 前世の知識とは言えないため俺は頷く。


「そうか、大したものだな。それでソルレート伯爵への対応策だが了解した。細部について確認したいことがあるので、あとでそなたに質問状を出しておく。回答するように。それから我が派閥の主要メンバー二人と顔合わせをさせたい。今日は夕食を共にするように」


「承知しました。夕食にフリュオリーネは、」


「同席させて構わない」


 フリュオリーネはアウレウス伯爵と縁を切られ、平民の身分となっている。他の貴族との会食の場に出席させてよいものかどうか確認したのだが、どうやら今回は構わないらしい。


 フリュオリーネは何やら準備があるらしく、メイドとともにどこかへ行ってしまった。




 夕食までの間、控え室でザッパー男爵と雑談する。年齢差はあるが、アウレウス伯爵の配下として同じような立場になったため、ザッパー男爵からは、ためになる話しをいろいろと聞かせてもらった。


「あの内戦の時、本当にフリュが全ての指揮をとっていたんですね」


「私も姫様にあそこまでの才能があるとは思いませんでした。アウレウス伯爵の娘とは言え、末恐ろしいですね」


「他のご子息もあんな感じなのですか」


「皆さん優秀ですが、あの姫様は特別かもしれません」



 そこでノックの音がした。


「夕食のご準備ができました」


 俺はザッパー男爵とともに会食に向かうためにドアを開いた。


「フリュ・・・」


 そこにはドレスに身をまとったフリュオリーネが立っていた。


 洗練されたデザインの水色のきらびやかなドレスに、ネックレスには高価な宝石が輝いている。


 整いすぎたその美貌の彼女は、少し照れたような表情で俺に微笑みを向けている。


 俺は思わずつぶやいた。


「きれいだ」


 嬉しそうに微笑んだフリュオリーネは、手を俺に差し出した。


「メルクリウス男爵、エスコートを」


 ザッパー男爵に促され、俺はフリュオリーネの手をとって、会食の場へ向かった。




 会食の場にはすでに伯爵とその派閥のメンバーも着席していた。


「男爵にも縁があると思うが、こちらはマーキュリー伯爵とバーナム伯爵だ」


 ダーシュとアレンの父親だ。


「アゾート・メルクリウスです。ダーシュとアレンとは学園で仲良くさせていただいてます」


「かなりこっぴどく、痛めつけられたと聞いているが」


 マーキュリー伯爵がイタズラっぽく、ニヤリと俺に笑いかけた。


「お嬢様も相変わらずお美しいですな」


 バーナム伯爵がフリュオリーネを見て思わず感嘆をもらすと、アウレウス伯爵が、


「そんなことはないよ。これは二度も婚約破棄されて、最後にようやく貰い手が見つかった。正直ホッとしているところですよ」


 ん?


「それは残念ですな。是非うちのせがれの嫁に欲しかったのですが」


「全くです。だがボロンブラークを派閥に引き入れた上、彼のように優秀な後継者を得られたのだから、政略結婚としてはこれに勝るものはない」


 なんか変な勘違いをされているようだ。俺はフリュオリーネに、こっそり耳打ちした。


「フリュ、なんか俺たちが結婚したみたいに誤解されているけど、ちゃんと訂正した方がいいのか?」


「もうお父様ったら、ごめんなさいね。この場の会話はお父様にお任せした方がいいですが、私からは後でちゃんと言っておきます」


「そ、そうだな。よろしく頼むよ」



 二人でコソコソと仲睦まじく話している様子を、三人の伯爵たちは生暖かい目で見つめていた。





 今週はプロメテウス取引所の創設に向けて、かなり精力的に動き回ったため、放課後は全て潰れてしまった。


 だが明日はいよいよ2回目の週末ダンジョン攻略だ。


 本当はウォーミングアップをしておきたい所だが、アウレウス伯爵に納入する小銃を作らなければならない。


 内戦終結の条件だからな。



 これは俺の問題であり、さすがにネオンには頼めないからな。まあ、魔力のトレーニングと思えば気も紛れるか。


 机に向かって作業を始めようとすると、横から魔法を唱える声が聞こえた。



  【ロボット】ゴーレム



 ネオンだ。


「どうしたネオン。これはアウレウス伯爵関係の仕事だから、お前は手伝わなくてもいいんだぞ」


「いいよ。私も手伝ってあげる」


「お前、この作業が大嫌いじゃないか」


「アゾートが一人でがんばってるのに、放っておけないよ。それにこんなことを手伝えるのは、私だけでしょ」


「そうだな。いつも最後はネオンに無茶させるが、本当に助かるよ」


 その日はネオンと二人並んで黙々と作業に打ち込んだ。




 そうして、2回目のダンジョン攻略の日がやって来た。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ
OSZAR »