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第25話 新鋭軍師がその冷徹な眼差しに写すものは

 勢ぞろいした100人の精鋭部隊を前に、俺は声高らかに宣言する。


「フェルーム騎士団銃装騎兵隊の結成を今ここに宣言する。俺がこの部隊の運用を任された指揮官のアゾートだ」


 ザザッッッ!


 騎兵隊が一斉に膝をつき騎士の忠誠を誓った。


「そしてここにいるサー少佐が、これから君たちの指導を行う教官だ。少佐の命令に従い、銃による戦い方を学び錬度を高めよ。以上!」


 ザザッッッ!



 決まったっ!


 こういうのを一度やってみたかったんだ。




 騎兵隊員たちに自主訓練をさせている間、俺は簡単に騎兵隊についての説明を行った。


 まず銃は魔術具の一種であり、魔法を作動させると銃身奥の弾丸をエクスプロージョンで高速に射出し、その後、弾倉から弾丸を一つ取り出して銃身奥に再装填するという仕組み。


「エクスプロージョンは魔力が高くないと使えないのでは」


「弾丸を打ち出す爆発力は大砲に比べて極めて小さいので、魔力はそんなに必要ない。この魔術具に魔力を込めると、極小のエクスプロージョンが発動するようにしてあり、一般人の魔力でも使える」


「一般人に魔力はないだろう。俺でも使えるってことか」


「ああ、事前にマジックポーションを飲んでもらう」


「うげっ!」


 マジックポーションは、飲むと体内に魔力を取り込むことができる。ただし一般人が飲むと、魔力を体内に蓄えることができないため、行き場のない魔力によって一時的に魔力過多の状態に陥ってしまう。


 その魔力が体外に排泄されるまで、二日酔いをさらに気持ち悪くした状態がかなり長く続くため、よほどのことがない限り好き好んでマジックポーションを飲む一般人はいない。


「マジックポーションで得た魔力で魔術具を作動する。1本で20発分まかなえるので、ポーションを飲む量とタイミングを決めるのも部隊運用の要となる」


「わかった。そのあたりも含めての訓練だな、了解した」


「それからみんなにも1丁ずつ銃を渡しておく。護身用に使ってくれ。弾もたくさんあるから、なくなったら騎兵隊で補給してくれ」


 俺は一人一人に銃を渡した。


 ネオン親衛隊は、ネオン銃装親衛隊に進化した。


「ネオンには、銃装親衛隊を任せたぞ」


「「「おーー!」」」


 みんな、ノリノリである。


「それじゃ、ネオン以外は少佐の元で銃の訓練に励んでくれ。ネオンは俺と一緒に、銃200丁と大砲30基の整備をするんだ」


「え?私も訓練をするの?」


「え!整備は嫌だ。訓練がしたい」


 セレーネとネオンが同時に文句を言い出した。


「セレーネが銃を一番うまく使いこなせるはずなので、しっかり訓練しておいてくれ」


「ネオンは土魔法が得意なんだから、文句を言ってないで整備を手伝え」


 二人とも納得せず俺のことをジーっと睨んでいるが、俺はネオンの首根っこをつかんで、さっさと武器庫に引きずって行った。


 俺とネオンはしばらくの間この武器庫の中で、整備の日々を送ることになるだろう。




 夏休みに入って2週間以上が過ぎ、俺とネオンはようやく武器の整備が一段落した。


「終わったー。何かをやりとげた充実感を感じるな。なあネオン」


「・・・・・」


 ブスッとふて腐れて、メチャクチャ機嫌悪そうだな。



 グラウンドでは今日も騎兵隊の訓練が行われていた。


 少佐を筆頭に、騎兵隊員たちに混じってセレーネと親衛隊のみんなも日々訓練に励んでいた。


 銃を抱えてのほふく前進とか、軍隊って感じがしてなんか燃えてくるな。


 その中でも異彩を放っていたのが、セレーネだ。


 射撃訓練では、セレーネだけ違う武器を持っているように見える。


 なにあれ、マシンガン?


 相変わらずの戦闘民族ぶりを発揮しているセレーネはおいといて、銃装親衛隊のみんなは騎兵隊の末席になんとか食らいついていて、精悍な顔つきになってきた。


 鬼軍曹のしごきを耐え抜いて一皮むけた新兵のようだ。


 そんな彼女らを含む総勢113名の銃装騎兵隊の訓練が今日も終わり、全員整列している。


 先頭に立ったサー少佐は、みんなから隊長、隊長と親しまれ、軍隊式の最敬礼で迎えられていた。


 騎士団としての面影は、見る影も失っていた。。


「・・・あの、少佐はこのまま隊長としてここに残ります?」


「そうだな。定職につくのも悪くないな。ちょっと妻に相談してみるよ」


 少佐の奥さまに一度お目にかかりたいな、と思っていたところで、伝令がかけこんできた。


 至急ボロンブラーク城に集合するよう、当主からの指示が伝えられたのだ。


 少佐に部隊を任せ、俺たちは臨時で敷設された転移陣を使い、急ぎボロンブラーク城へ飛んだ。




「想定より悪い事態だ」


 フェルーム家の主だったメンバーを集めた当主は、各地に派遣した工作員の情報をもとに、現在判明している状況を説明した。


 それによると、追放中の次男フォスファーが軍を上げて、ボロンブラーク城に向けて再侵攻を始めているとのこと。


 その後ろ楯はアウレウス伯爵。騎士と歩兵あわせて約3000名を増援。総計5500人規模の進軍らしい。


 フリュオリーネも増援部隊に参加しているようで、おそらくはフォスファーの婚約者として、サルファーを殺害したあとフォスファーを伯爵位に付け、ボロンブラーク領をアウレウス派閥に強引に取り込むことを考えているようだ。


 つまり、アウレウス家によるボロンブラーク領の実質的な支配だ。これを阻止することが、我々の最終目標である。


 当主が領主会議での決定事項を伝える。


「我々は奴らを迎え撃つために、スカイアープ渓谷東側平原を決戦場に定めここに敵主力を誘い込み、重火器と遠距離魔法を使った包囲殲滅戦を敢行する」


 そして全員を見据えて、はっきりと言いきった。


 「我々フェルーム家がエースだ」






 時はサマーパーティーまでさかのぼる。


 全校生徒が衝撃を受けていたあの会場から、密かに抜け出した一人の男子生徒は、そのまま学園を出て城下町繁華街の一角で工作員に情報を伝達した。


「サルファーがフリュオリーネとの婚約を破棄した」


 サルファーを陥れ、次期ボロンブラーク伯爵の地位を狙っていた次男フォスファーは、自分の派閥の子弟にサルファーの動向を監視させていた。


 そこに「婚約破棄」という思わぬ敵失を拾うことができたフォスファーは、その幸運に喜びをかみしめつつ急ぎアウレウス伯爵へ面会を求めていた。




 そして5日後、面会の機会を得たフォスファーは、王都のアウレウス伯爵の屋敷を訪れていた。


 通された応接室には、アウレウス伯爵が既に座っており、傍らには腹心のザッパー男爵が控えていた。


 フォスファーは挨拶のあと早速本題を切り出した。


「この度は兄の愚かな行為への謝罪と、フリュオリーネ様へのお見舞いをさせていただきたく、病床の父になりかわり参上いたしました次第」


「ほう、謝罪とは?」


「兄のサルファーは無能ながらも父の寵愛を受けて次期当主の指名を受けておりました。が、主だった貴族の多くは能力に勝る私を次期当主に推しており、案の定、兄は愚かにもフリュオリーネ様との婚約を破棄する始末。あまりの愚行に私も主だった貴族達も怒りの止まるところを知りません」


 悲痛な表情を浮かべて語り続けるフォスファーを、アウレウス伯爵は何も言わずじっと見ていた。


「本来は私が治めるべきだった領地を愚兄から取り戻すべく、志を同じくするものたちと正義の行動を起こさんとしており、アウレウス家とフリュオリーネ様の名誉を踏みにじった愚兄を討つことこそ、私めが考える最大の謝罪と考えているところでございます。この正義の行動を遂行せしめ、ボロンブラーク領とアウレウス公、そしてアージェント王国の繁栄のため、是非ともこの私めにお力添えをいただきたきたく存じます」


 アウレウス伯爵は乾いた笑みを浮かべフォスファーに問うた。


「みなまで申すな。そなたの願い聞き入れてやってもよいが、何が望みだ」


「できますればフリュオリーネ様との婚約。それと少しばかりの兵力をお借りいたしたく。我が方の戦力は敵兵力とほぼ同数であり、攻略にいささか時間がかかってしまうため、それに見合うだけの戦力をお貸しいただければと」


「いかほど必要か」


「3000ほど」


「よかろう。ザッパーそなたが率いよ」


「御意」


「それからフリュオリーネを呼べ」


「ハッ」





 婚約破棄を宣言されて自領に戻ってきた私は、事のあらましを父である伯爵に報告した。酷薄とした目を私に向け、終始無表情のまま私の話を聞いていた。


 話を聞き終えた父は、特に感情を私に向けることなく淡々と私に問いかけた。


「で、そなたはどうしたいのだ」


 そのような質問を返されるとは思わなかったので、驚いた私は、質問で返さざるを得なかった。


「それは私の今後の身の振り方のことでしょうか」


「だとしたら、どうしたいのだ」


「それは」


 婚約破棄という不名誉な傷がついた私は、この先まともな婚姻を結べる可能性はなくなった。


 下位の貴族との政略の道具に使われるか、一生涯この家で飼い殺しにされるか、あるいは修道院へ行くという道もある。


「娘の婚姻や将来はお父様がお決めになることだと考えておりましたので、そのようなことを問われるとは考えておらず、少し気持ちを整理させて戴きたく存じます」


「よかろう。ではそなたの答えがでるまで、ちっ居処分を申し渡す」


「わかりました」





 私はどこで何を間違ったというのか。


 子供の頃から、アウレウス家一族の他の姫君たちと同様に、王妃や他国の妃、あるいは王族に輿入れするための教育が施されてきた。


 私が12歳の時に結婚相手が決まった。地方の伯爵家だ。


 困惑する私に投げ掛けられたライバルの姫君たちの言葉は、哀れみと嘲笑。


 私のこれまでの努力が全て否定された気がした。



 もともと感情が薄かった私は、このことでさらに感情が消えてしまったようで、正式に婚約するためボロンブラーク領を訪問したころには何も感じなくなった。


 城内を案内してくれていたサルファーの言葉にも、何も興味がわかなかった。


 それから王都に戻って、ライバルの姫君たちの嘲笑を聞いても何も感じなくなり、ただ黙々と勉強に打ち込んで行った。


 ある日お父様からボロンブラーク領の騎士学園に入学するように仰せつかった。


 ボロンブラーク領を治めるための実地訓練に調度いい機会だと思い、王国を治めるために学んだ知識を実際に試してみた。


 その結果、多くの貴族は私に付き従い、生徒会長であるサルファーよりも強い影響力を及ぼすまでになった。


 うまくいっていたはずだった。


 でも結果は、学園内の貴族階級間の分断と崩壊。原因を作ったのは私に付き従った貴族たちの行動だが、結果責任は私にある。


  (それをコントロールするのが為政者)


  (君は全くコントロールできてないではないか)


 その通りだった。


 自分は実地訓練に失敗したのだ。


 貴族たちの行為がもたらす結果を想像することができていなかった。


 全ては因果関係でつながっていて、物事は複雑に絡み合っている。


 情報を集めて整理し仮説をたてて結果を推定する。


 そうしてできうる限りの未来を読み切り、自分の思い描いた結果を導く。


 いくら知識があっても受け身ではダメ。自分から結果を求めに行かなかったのが敗因だったんだ。



 自分の敗因はわかったけれど、私には次のチャンスがない。


 そうね、今後の身の振り方を考えるのでしたわね。




 そうして自室で自問自答を繰り返していたある日、お父様から呼ばれ、応接室に向かった。


 応接室には、お父様とザッパー男爵、それに一人の客人がソファーに座っていた。


「こちらは、ボロンブラーク伯爵家次男フォスファー。お前の新しい婚約者だ」


「ボロンブラーク・・・・・」


「フォスファーとともにボロンブラーク城を攻め、サルファーを討ち滅ぼしてこい」


 私が、ボロンブラークを、攻めて、サルファー様を、討ち滅ぼす


 言われた瞬間は理解できなかった言葉が、少しずつ頭の中でハッキリしていき、自分が何をすべきかを完全に理解した。


 今度は失敗しない。


 目標を設定し、あらゆる状況を想定し、望む結果を確実に得る。


 そして、サルファーを討ち滅ぼすための最大の障害となるのは、フェルーム。



 アゾート・フェルームだ!!



 私の不倶戴天の敵を倒すことが、今度の私の目標。


 なんてシンプル。なんてやりがいのあるの。


 私の目の色が瞬時に変わったことを、お父様は見逃さなかった。


「行け、フリュオリーネ!我が騎士団3000を率いてサルファー・ボロンブラークを討て。そなたが騎士団の軍師だ。その知謀を存分に活かすがよい」


「はい、お父様! 必ずやご期待に添えてみせます!」


 私は生まれてはじめて高揚感というものを感じ、喜びにうち震えていた。



フリュオリーネがライバルとしてアゾートに立ち塞がります。


次回、激突。

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