表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/426

第24話 悪役令嬢の断罪は、あとで臣下が苦労する


「今なんとおっしゃいましたか?」


「君との婚約を解消すると言ったんだ」


 言い争いで騒然としていたサマーパーティー会場は、何が起きたのかを探ろうとする生徒たちのざわつきに変わり、急に静かになっていった。


 そして今まさに、全校生徒たちの目の前で、サルファーがフリュオリーネに婚約解消を宣言しているのだ。



  (((ゴクリ・・・ッ)))



 突然の展開に固唾を飲み込む生徒たち。



「婚約解消することの意味をお分かりでしょうか」


「承知の上だ。君にはもう我慢できない」


 フリュオリーネはあくまで毅然とした態度でサルファーを見据える。サルファーも負けずに正面から向かい合う。


「では、理由をお聞かせ願えますか」


「今さらか。自分の胸に聞け」


「ハッキリと聞かないとわかりません」


「何度注意したにも関わらずセレーネへの嫌がらせを続けた」


「私はやってません」


「取り巻きたちにやらせた」


「それは私ではなく、あの者達が勝手に行ったこと」


「それに魔法団体戦でシャウプ先生に不当なルール変更をさせた」


「それも同じこと。私は存じ上げません」


「上級クラスの生徒たちの増長を野放しにした上、後ろ楯になったこと。結果、学園の生徒達の間に分断が起きた」


「それをコントロールするのが為政者」


「君は全くコントロールできてないではないか」


「っ!」


「これは僕の責任でもあるので君にだけ押し付けるつもりはないが、僕は君の考えていることがわからない。意志疎通ができないんだ。君を妻に迎えても同じような混乱を領地にもたらしてしまうのが怖いんだ。君を抑える自信が僕にはもうないんだ」


 人形のような色白い顔をさらに真っ青にしたフリュオリーネが、呆然とたたずんでいる。


「君が王都の学園に帰るとき、取り巻きたちも一緒に連れて帰ってくれ。もうこの学園にいてもらう必要もないだろう」


 取り巻きたちも、顔を真っ青にして硬直する。


「それから誰でもいいのでシャウプを逃がさないように拘束してくれ。校長とも相談するが、指導者として不適格だとして王都の学園に送り返す」


 生徒会役員たちが走り出す。


 そこまで言って、サルファーは大きなため息をつき、最後にもう一度フリュオリーネに向かってこう告げた。


「これから君と僕は無関係だ。アウレウス公爵の派閥入りも白紙に戻す。これでお別れだ」



 サルファーはそれだけ言うと、踵を返しサマーパーティー会場を後にした。



 一人取り残されたフリュオリーネは、その後ろ姿をただ呆然と見つめているだけだった。


 一部始終を見ていた生徒たちもあまりの衝撃に呆然となっていた。ドン引きである。


 会場は凍りついたように静まり返り、その後ダンスを楽しもうとする剛の者もおらず、パーティーはそのまま解散となった。




 次の日、夏休みの初日を迎えた俺たちは、それぞれの領地へ帰るため友人たちにしばしの別れを告げていた。


「昨日は本当にびっくりしたよな」


「まさか学校の最終日にあんなイベントが発生するなんてな」


「ダーシュたち上級クラスの5人組は、昨日慌てて実家に帰っていったよ。王国の貴族にとってはそれだけ大事件だったってことよね」


 ダンとカイン、マールはまだ昨日の事件の衝撃が抜けきってない様子だ。かくいう俺も本件に関しては何も頭が働かず、一度実家に戻って当主や両親の考えを聞いてみるしかなかった。


「じゃあ落ち着いたら連絡する。それまでにそれぞれ自分の領地のギルドにちゃんと登録しておけよ」


 そう言い残して、ダンとカインは学園を後にした。


「じゃあ、俺たちも行くか」


 学園に残るマールに別れを告げて、俺はセレーネとネオンと共に学園を後にした。




「私たち3人だけだし、荷物もあまりないので、ギルドの転移陣で実家に帰ろっか」


 セレーネの提案に俺たちも賛成した。


 早速いつものギルドに行き、転移陣の使用申請をしていると、テーブルの方から俺たちを呼ぶ声がした。


「ようアゾート。久しぶりだな」


「サー少佐!」


 最近ギルドに来る時間がなかったので、少佐を含めてギルドの冒険者に会うのは久しぶりだ。


「そういえば少佐にお願いしたいことがあったんですよ」


「お、何だ?言ってみろ」


「この夏休み期間でいいので、うちの騎士団を鍛えてやってほしいんです」


「騎士団を?俺が?どうして?」


 騎士団と冒険者では得意とする技術が違いすぎる。少佐は自分に何を期待されているのかわからず、ぽかんとしていた。


 俺は少佐の耳元でこっそり告げた。


「あまり性能はよくありませんが、小銃を200丁ほど作りました。これで銃装騎兵隊を結成しようと思うんですが、少佐にその指導をお願いしたいのです。米軍のノウハウで」


「!」


「了承戴けるのなら、詳しく説明したいので一度うちの領地に来てもらって、実際にモノを見てほしいのです。もちろん報酬も弾みます。どうですか?」


「わかった妻にも相談するから、少し考えさせてくれ」


 それから、少佐に領地の場所や連絡手段を伝えて、俺たちは自領のギルドに転移した。




「あらま。セレーネお嬢様お帰りなさい。お二人もご一緒なのね」


「え?食堂のおばちゃん?」


 俺たちが転移してきたのは、当主や両親がこの町で仕事をする時に使うシティーホールの隣にある食堂だった。


 え?この食堂、ギルドだったんだ。


「フェルームの町は小さいからね。ギルドの支部もこんなもんなのよ」


 セレーネが教えてくれた。


「せっかくなので今のうちにギルド登録しておきましょう」


 俺たちは既にボロンブラークでギルド登録を済ませてあるので、この支部での登録はここの設備が使えるようするだけのものだ。手続きも簡単に終わった。


 そして隣のシティーホールに足を運ぶと、当主がたまたま在席していたので、先に帰省の挨拶を済ませておくことにした。




「随分早かったじゃないか。学園の休みは今日からだったはずだが」


 セレーネとネオンの父親であるフェルーム家当主のダリウスは、あまりに早い帰省に驚きながらも娘たちの顔が見れて嬉しそうだった。


「ギルドの転移陣を使って帰ってきたのよ」


「転移陣かなるほど。だったら疲れていないとは思うが、まあゆっくりしてくれ。それで学園はどうだった?」


 応接室に通された俺たちは、メイドが用意してくれた紅茶とケーキを楽しみながら、学園でのできごとを話した。


 普段は無口キャラを通して黙っているネオンが、ここぞとばかりにしゃべり倒して、俺とセレーネは横で「そうそう」と合いの手を打つだけの楽な仕事だった。


 しかし話が魔法団体戦の騒動の話に移ると当主の顔も真剣なものに変わり、昨日のサマーパーティーの件まで報告を終えると、顔色を変えた当主はガタッとソファーから立ち上がった。



「・・・とんでもないことになったな」


 俺も今後の行動方針が聞きたかったので、続く当主の言葉を待った。


「いや、早く知らせてくれて助かった。すぐに分家筋も集めて今後の方針を固めなければ。お前たちは先に家に帰って待機していてくれ。しかしようやく領地が安定してきたのに何てことをしてくれたんだ、あのバカ殿・・・」


 なんか聞いてはいけない一言が混じっていた気がするが、ここは聞き流しておこう。




 その後、俺の両親を含め主要な分家を集めた当主は、俺たちから聞いた学園での騒動、そのきっかけとなったセレーネへの求婚についての真相を話し始めた。


 俺も初めて聞く話であり、まとめるとこうだ。



 去年の秋にサルファーから、セレーネを側室にほしいとの相談があったが、当主はすぐに断った。


 その後もたびたび同じ相談をされたため、側室ならネオンでどうだとすすめたが、これは断られた。


 セレーネを正妻として迎えたいといったので、アウレウス家を敵に回すので絶対にダメだと反対した。



「お父様、私はサルファーの側室になるのは嫌です」


「どうせ嫁に行くんだから、伯爵家の側室なら最高じゃないか」


「セレン姉様がサルファーに嫁げばいいでしょ。私は嫌よ」


「セレーネは絶対にダメだ。当家の面子にかけて反対だ。それにどうせお前達2人はそっくりなんだから、ネオンが髪を伸ばせば区別なんかつかん」


「ひどい。よくも愛娘に対してそんな暴言をはけるよね。お父様は娘を物か何かと思っているのよ。アゾートからも何か言ってよ」


 ここで話を俺にふるなよ。鬼か。


「当主さま。さすがにセレーネとネオンの区別は誰にでもできると思います。こんなラスカル野郎はセレーネとは似ても似つかず、ぐはっ」


 ネオンが俺の足元を渾身の力で踏み抜いた。今回のはかなり痛い。


「うむ、セレーネとネオンの見分け方は今は置いておいて話を進めよう。大事なことは、サルファーが婚約解消してしまったということだ。まずサルファーに話を聞く必要があるが、今後の方針を立てるため、ボロンブラーク領の主要貴族を集めなければ」


 もはやサルファーは呼び捨てであり、主君への敬意が全く見受けられないが、当主は各分家の役割分担や騎士団の配置をテキパキと指示していった。


 俺たちは当主とともに、このまま学園にトンボ帰りすることとなった。


 それはそうと、当主はひょっとして、セレーネとネオンの区別がついていないのか?


 自分の娘だろ・・・。




「なんか気持ち悪くなってきた、うぷっ」


 ネオンが吐きそうになっているが、俺もそうだ。転移陣を使って再びボロンブラークのギルドに戻ってきた俺たちの横には、当主ダリウスと数名の護衛騎士も控えていた。


「転移陣を騎士団の移動にも使えたらいいのにな」


 あっという間にボロンブラークまで移動できたことに感心している当主に、俺はそれは難しいことを説明した。


「転移するには距離に応じて相当な魔力が必要なんですよ。今回もそこの護衛騎士の分の魔力を俺達がまかなったので、魔力枯渇と転移陣酔いで気持ち悪いです。うぷっ」


「そうだな。騎士団全員分の魔石なんか金がかかりすぎて、割にあわないからな。だがとりあえずボロンブラーク領の味方貴族の城同士は、臨時で転移陣を設置しておいた方がよさそうだな。サルファーの金で」


 ひとまず俺たちだけ転移陣を使って移動してきたが、後続としてフェルーム騎士団のうち100騎が今頃こちらに向けて進軍を開始した頃だ。


 フェルーム家は、先の内戦の報奨として男爵家に匹敵する広さの領地を獲得。兵力も現在総勢500人規模の騎士団を持つまでにいたった。


 このうち400を領地の守備用に残し、100騎をボロンブラーク領に移動させることにしたのだ。



「あれ?アゾート。まだ実家に帰ってなかったの?」


 マールがギルドの掲示板の前でクエストを探しているところ、俺たちを見つけたので声をかけてきた。


「いや、実家には一度帰ったんだが、緊急の用事でまたこっちに戻ってきたんだ。俺たちは当分の間学園にいることになると思う」


「そ、そう。でこちらの方々は?」


「フェルーム家当主のダリウスとその護衛騎士のみなさんです」


「え、えぇー?いつもお世話になってます。学園でご一緒させていただいている、マール・ポアソンです」


「ダリウス・フェルームです。我々は少し急いでいるので、落ち着いたら一度領地に遊びにくるといいよ」


「はい!」




 俺たちは当主たちと共に学園に戻り、そこでサルファーをつかまえて、さらにボロンブラーク城へと移動した。




 城の会議室で当主から色々と質問されていたサルファーはやはり元気がなく、自分の短慮を反省していた。


 ただ、済んでしまったことは仕方がないので、今後の方針について話し合った。


 その後数日をかけて、領内の主要な貴族家当主とその騎士団がボロンブラーク城に集結した。


 当主たちは、連日連夜話し合いを行い、アージェント王国内で親交のある貴族への根回しや情報収集を行うため、各所への指示出しなどでバタバタしていた。




「アゾート。お前の依頼を受けることにしたよ」


 サー少佐が快諾してくれたので、早速フェルーム領に残してきた騎士団のうち、銃装騎兵隊がいる駐屯地に向かうことにした。時間がもったいない。


「ところでネオンさんよ。これは一体どういうことか、説明してくれ」


 ギルドの転移陣の前には、俺、セレーネ、少佐の他に、ネオンとその親衛隊たちがいた。


「僕たちの一大事ということで、急ぎ駆けつけてくれたご存知ネオン親衛隊のみなさんです」


「見ればわかるよ!それよりみんな実家には帰らなかったのか」


 聞くところによると、何人かは俺たち同様ボロンブラーク領の騎士の子弟であり、城に駐屯地している騎士団の一員として学園に戻ってきていたようだ。


 それで親衛隊の他のメンバーに声をかけたら、こうして全員が集まったらしい。両親の許可は得ているようなので心配しなくていいそうだ。


「夏休みに大切な娘さんたちを預かるんだから、怪我をさせないようにちゃんと面倒を見るんだぞ、ネオン」


「はーい」




 フェルーム領ギルドに転移した俺たちは、少佐を紹介するために俺の両親が待つ、隣のシティーホールに向かった。


「こちらは、今度新設する銃装騎兵隊の指導をお願いしようと思う、サー少佐です」


「ワルトファールスターク・バルトーカ・モホロビチッチと申します。以後お見知りおきを」


 そう言えば、そんな名前だったな。


「失礼ですが、外国の貴族の方でしょうか」


 俺の父親のロエルが、握手をしながら少佐に聞いた。それ俺も同じことを聞いた気がする。


「いえ、このあたりの村出身の平民です」


「・・・そ、そうですか。そんな方にどのような訓練を指導いただけるのでしょうか」


 父が俺に「大丈夫か」と不安そうな顔を向けている。俺は安心させるために答えた。


「俺が考えたこの武器は運用が少し難しいけど、ギルドで知り合ったこの少佐の特殊スキルが、訓練に調度いいんだよ」


 実にフワッとした説明だが、嘘はついていない。


「お前が言うのなら間違いないか。それではよろしくお願いする」




 これで少佐の指導員着任が正式に決まり、俺たちは早速駐屯地に向かった。


 既に連絡を受けていた銃装騎兵隊100騎が、ズラっと整列して俺たちの到着を待っていた。


 俺の精鋭部隊、実に壮観である。



「おおー、これが銃装騎兵隊か!」


次回、銃装騎兵隊の新設から、事態はさらに急展開

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
おうふ…大量殺戮兵器開発…と思ったけど魔法あるしそんなに変わらないのかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ
OSZAR »