公爵に文句がある
「おお、あの烈女英雄の息子どのか!
「迷宮伯か、迷宮があるとは羨ましい」
帝国西部の独立派貴族のパーティに参加したらずいぶんと歓迎された。
河川伯、火山伯、花伯、都市伯などいろんな異名を持つ方々だ。
「いや、母君にはだな。うちの領地に現れたリッチを討伐してもらったことがあってな」
「わしは領内の奇病を治す秘薬に必要な薬草を探してくれて」
「獣人大洪水で管区動員がかかったときかな、獣人の群れに包囲されたわが軍に助太刀いただいてだな」
母さんは領主になる前の冒険者時代から、領主になった後でもあちこちで活躍していたらしい。
ボクとドルミーナを産んでからは「残機を確保しないとね!」とか言ってしばらくおとなしくしてたけど。
あ、残機って冒険者用語で弟子とか後継者って意味だよ。
でも、これだけ関係があるなら借金のお願いもできる?
「昨年の大不作でみな財政が厳しくてなぁ」
知ってた。
伯爵たちが酒を飲みながら愚痴る。
「タダ飯が食えると思って家臣どもを引き連れてやってきたんだがな」
「西大公め少し領地がでかくて金持ちで魔法や軍事に才能があるからと我らを見下しておる!」
「しーっ、そこに公爵のメイドがおるじゃろ」
「聞かせてよいのではないか?」
なにがあったのですか。
「招待状の形式が違うとやらで城門で延々待たされ」
「なんか来客名簿が正門にしかないとかで外壁を半周させられた」
「突然部屋を代われとか荷物全部置いてからだな」
「わしにだけ弓術大会の案内が来なくてな、行きたかったのに」
みんな一緒の状況みたい?
「しかもこんなグダグダな対応をしておいて従属せよなどと、ふざけておる」
「ああ、あの文官服めが言葉は丁寧だが偉そうに資金援助しましょうかなど」
「うちは武官が来たが資金援助など聞いてないぞ」
「ウチには来ておらんが、そのうち来るか?」
あれ?ここもバラバラなんだ……。
「そうか、迷宮伯もそのような状況だったのか」
「よし、ともに戦おうではないか」
「我らが全員集まればたかが公爵、ちょっと兵が多くて将が優秀で魔導士も多数、兵糧が豊富なぐらいであろう」
「戦いは数ではないからな」
「えー」
待って待って……あとグスタフ先輩も乗せられないで。
これを母さんや、先輩の奥さんが聞いたらどう思う?キレて即座に挙兵するよね!?
大喜びで「軍資金が足りない?!なら略奪だ!」とか言って公爵領に攻め込むよ?!
たしかにちょっと兵が多くて将が優秀で魔導士も多数、兵糧が豊富なぐらいなら……うーん、母さんと作戦次第では戦えるかもしれないけど、ボクの家臣も大勢やられちゃう。
なんとか近所の酔っぱらったおじさんおばさんたちを宥めて部屋を出た。
このままじゃ結婚式が台無しになって花嫁さんや花婿さんが可哀そうだ。
なによりもこんなわけのわからない理由で戦争になって、ボクの愛する家臣や領民が傷つくのは嫌。戦う人たちも納得できないよ。やるならちゃんとした理由できちんと勝てるようにやらないと。
なんとか西大公につながる人に現状を伝えて、穏便に解決できないかな。
執事さんの手にはあまるから貴族で……。
って西大公派の貴族とは交流がないぞ、どうしよう。