80 小手調べ
その時、終にスカウトが戻ってきた。それの姿はまだ見えない。なのに全員に悪寒が走った。酷く恐ろしいと感じた。
スカウトが36階層から35階層に戻ると同時にフランが氷の壁を作り出した。前回と同じように。魔物の体力をなるべく削る作戦だ。あわよくば取り巻きを引き離すことが出来る。
だが、それに気が付いたフェンリルと取り巻きは加速する。そして、氷の壁が出来る前に35階層へと降り立った。同時に巨大なフェンリルの鋭い遠吠えが皆の体を硬直させた。
フランは氷を作るのを途中で止めた。MPを無駄に消費しないためだ。
「やっぱり対応してきたッ」
調査した時よりも個体が多く。計四匹の魔物が牙を剥く。クロスが次の指示を出した。
「ライラ。アレを頼む」
「了解ですわ」
フェンリルが同じフロアにいるだけで、気温が急激に下がる。地面が徐々に凍り付いていく。しかし、パーティー周辺の地面は凍り付く気配がなかった。ライラの<ヒートヒール>によりそれを見事に防いだのであった。
彼女はフランを見つめた。フランは悪態はつかなかった。これは状況の問題でない。確かに多少悔しい気持ちはあった。しかし、あの変なヒールが役に立っている事をフランは認め、敬意を込めたのであった。それを感じ取りライラは微笑む。
「MPに気を付けて」
「分かってますわッ」
ナナセは周辺が暖かくなった事に口角が吊り上がった。寒いのはそんなに好きではないようだ。
「へっ。ガキにしてはやるじゃねぇか」
茶化すような感じだったが、それを止めろと指摘する者は居ない。彼女が素直ではない事は短い間だが十分に理解している。
「良しッ。後は取り巻きを引き剝がせば!!」
ソウシが次の作戦の事を考えていると、ナナセが驚いた表情を見せた。その隣でシオリが<紫電一閃>と<迅雷風列>を使用している。いつでも特攻できるように準備をしていた。
ナナセはその異様な雰囲気に冷や汗をかいた。出会った時や、先ほどまでの弱々しい雰囲気とはまるで違う。味方から発せられる空気のはず。
しかしそれが異常に重く感じる。自分よりも小柄。LVも低いはずなのに、上代を無意識に恐れていた。
(くっ……こいつは危険だと体が反応しているってのかよっ。なんだこの魔法は……ッ)