51 強き心を求めて
ダンジョンから地上に戻るとフラン達は何処かに運ばれたようだった。校長だけが一人残っていた。
「レッドクリムゾンは?」
「ダンジョンの奥」
「彼は生きてるのかい?」
「死んだら分かる」
「恐ろしい回答だね~」
「あの三人は?」
「ライラちゃんは自分の家だ。フランちゃんとシオリちゃんはキョウって子の家だ」
(……自宅じゃないのか)
「そこが良いって、僅かに残った自我で。泣きながらね」
(心の声を当てるな……)
「連絡、保護してくれた事、礼を言う」
「いやいや。君への謝罪のつもりだった。まさか魔物使いが囮だったとは……本当にすまなかった」
「校長は各地を守るために最善を尽くした。誰がそれを責められる?」
心なしかそれを聞いた校長は少しだけ微笑んだ気がした。
「……若者に頼るしか出来ないとは、歳は取りたくないものだな」
「今回の件。心当たりは?」
「ふむ。正直多すぎて分からんよ。調査が必要だ。そっちは? レッドクリムゾンは何か知っていたか?」
「腕を治した男、この計画を持ち掛けた男は同一人物。だが正体は不明。それ以上は何も分からない。記憶を覗かれても問題ないように対策されていた。かなりの手練れだと感じた」
「……そうか。それと気を付けろよ、今回の事で世界が動くかもしれない」
「動く、とは?」
「天才少女たちの敗北。スキルと魔法を奪う事が出来るスキル。大事件だ。一部は殺すためにレッドクリムゾンを血眼で探し、一部はその力を手に入れようと血眼で探す。少女を利用しようと近づく輩も増えるだろうな」
(……やはりこの世界でも。力は人を狂わせる……)
「じゃ。おっちゃんはやる事が沢山出来たから帰るけど? 他に用事は?」
「必要な時に聞きに行っても?」
「構わないよ。むしろ大歓迎さ」
校長は満足そうに去っていった。
ギルドマスターに頼まれ、一日だけ秘密裏に後処理を手伝った。得た情報を開示し、市民や探索者をこっそりと癒す。
落ち着いたので自宅に戻ると部屋でフランと上代が布団にくるまっていた。呼びかけても震えて涙を流すだけで返答が無い。誰に向けるでもなく、謝罪を繰り返し呟いていた。
この三人を元に戻す事は容易い。封印なども簡単に解ける。しかし、それは考えてなかった。これは自分の酷い我儘だ。彼女たちの輝きを奪いたくはない。
治すと彼女たちは正常に戻るだろう。だが、自分で乗り越えた訳ではない。今まで積み重ねた物が一つでも崩れれば、彼女たちは地に落ち。大切なモノを失う気がする。心には黒いモノが残り、その輝きは純粋でなくなる。そんな気がした。
ただ彼女達がそれをどう克服するかに問題があった。試練を乗り越える方法を俺は知らない。確かに今まで越えてきたのだが、それは創造魔法によるものだ。俺のものはきっと純粋ではない。
彼女たちなりの乗り越え方。良い方法は無いか。教えを乞うために様々な所に旅に出る事にした。
(人間の負の感情に関する魔法。呪い等に詳しいのは神社やお寺か?)
各地のお寺を回る事にした。レナに連絡を取り、フランたちのお世話をお願いして俺は旅立つ準備をするのであった。