1 青い瞳の少女
退院後、両親と帰宅する。まったく知らない家。その違和感から正直な言葉が出た。
「お邪魔します」
「……キョウ。やっぱり記憶が」
二人が悲しい表情をしていたので、思い切って切り替えた。
「た、ただいま!!」
「おかえりなさい、キョウ」
今は中学三年。三か月後に高校生になる。初めての体験。そして、その学校は探索者育成高等学校。
探索者とは主にはダンジョンの中に入り、資源を持って帰る職業。魔物の数が増えすぎないように狩る事もしなければならない。これにより魔物をなるべくダンジョンの外に出さないようにしている。
昔は軍がやっていたらしいが、国を守るのが優先のため、今は探索者の仕事である。もしダンジョン外に出た時は、彼等が基本処理をする。最悪の場合は軍が対処する。
海外にもダンジョンが存在し、入れる。しかし、その地域にあるダンジョン資源を売買可能な専門の商会で換金しなければならない。その地域で公式に売られている武具は勿論買える。
LVを上げると探索者ランクが上昇する。SSS、SS、S、AA、A、B、C、D、E、Fの10ランクでSSSが最高ランクだ。
探索者になりたいと言ったら、両親には当然心配された。数時間かけて無茶はしないと説得をした。渋々ながら了承を貰えた。死にかけたのに了承をもらえるとは。この世界では思った以上にこの生き方は当たり前なのかもしれない。
翌日、家のインターフォンが鳴る。眼鏡をかけたポニーテールの黒髪。幼馴染の女子のようだ。
撃打亜矢紅というらしい。玄関を出る前に深呼吸をする。そして、あたかも知り合いのように挨拶をする。
「おはよう。やっぱり記憶がないんだね」
速攻でばれた。というか学校の皆はもう知っているらしい。それなら逆に気を使わずに暮らせそうだと思った。
「私のせいでごめんね」
どうやら彼女を逃がすために囮になったようだ。キョウという人間は良い人だったらしい。お詫びにと毎日家に来て、受験勉強を手伝ってくれた。
ある日、いつものように二人で登校していると、不自然さを感じる。通勤時間帯なのにいやに静かだ。悲鳴が聞こえた。そこには三メートルはありそうなゴリラが暴れていた。魔物である。
「逃げてウチダさんッ」
「でもキョウは!!」
「えっと……逃げ遅れた人を」
「駄目だよッ。またやられちゃう!!」
「大丈夫、戦わないよ。ただ避難を手伝うだけだから」
「約束だよ」
「分かってる」
ここで二手に分かれた。まずは人に見られない死角を探す。すぐに<サーチ>で周囲二kmの生命反応及び生存者の状態を確認。死にかけている人が数人いたので、その場で遠距離に<ヒール>をかける。動けなかった人が疑問に思いながらも必死で逃げ出した。
(よし。次は元凶を断たないと……)
その時、目にも止まらぬ速度で黒髪の女子が剣を片手に急接近する。間合いに入った瞬間、魔物を切り刻んだ。
(中々の動きだ……)
ところが倒れると思った魔物が最後の力を振り絞って拳を振り下ろす。拙いと思い魔法を使う。<エアラプチャー>。直径2cmほどの小さな風が破裂し、腕を弾き飛ばす。
黒髪の子は何かを探しているようで、既に魔物など眼中にないようだ。魔物の血を浴びた時、目を細めた。それは怒りあるいは気だるさといった印象を受けた。振り返ると喉を突き、止めを刺した。
恐らく彼女は探索者で魔物を狩る依頼を受けたのだろう。路地裏を歩いていると先ほどの子に声をかけられた。
「ここで何をしてるの?」
(感知は絶対に出来ないはず。何故……)
「……魔物がいたので逃げようと」
「その割には落ち着いてる」
ステータスを覗いている気配がする。それならこっちも。ここにきて初めて他人のステータスを見る。驚愕した。LV33しかない。この雰囲気は熟練者のはずだけど。そして、驚かないという事は相手は偽装を見破れていない。
「た、倒した所を見てました。貴方が……」
「倒したのを見届けてから逃げたってこと……んーいいや。この辺で魔法を使ってる人居なかった?」
「見てませんけど。何故この辺だと?」
この少女はその青い瞳で何を見たのか。この世界の人達は皆こうなのだろうか。色々と疑問が浮かんだ。
「ただの勘」
(な、なるほど……それはやられた)
次の瞬間、彼女は一瞬で距離を詰めて剣を喉に当てていた。少しでも力を込めれば貫ける。そこでハッとした。急いで尻もちをついた。
「うわぁぁあ!! 何を!!」
「もしかして……見えてた?」
「いえ、まったく。どんくさいものでっ」
「……そう。あの強さの魔物の腕を誰が何処から。あんなにも正確で、それでいて綺麗に吹き飛ばしたのか、知りたかっただけ」
「な、何か思い出したら連絡します」
そのまま逃げるように立ち去り、ウチダさんと合流した。探索者について訊ねた。SSSはLV50からのようだ。ウチダさんのLVが7だということが判明した。忘れない内に偽装変更する。LV1から3に引き上げる。学校の入学最低条件がLV2なのを思い出したからだ。
魔法でLVを制限し、内部ステータスの出力調整も再度行なった。高すぎるとうっかり殺しかねない。しかし、低すぎても怖いので念のためLV80相当にした。
誤字報告下さった方、ありがとうございます。修正しております。
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