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聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第三章
98/201

82 何か来た

ブクマ&評価&誤字報告ありがとうございます!


「こんにちは!」

「いらっしゃい、アイラちゃん」



 研究所でご飯が炊けるようになった数日後。

 時刻はお昼時。

 研究所にアイラちゃんがやって来た。

 今日はお米を使った料理を作る予定なので、ランチに誘ったのだ。

 ご飯が食べられると聞いたアイラちゃんは、即座に頷いてくれたわ。


 初回に炊いたご飯は、その日の夜にアイラちゃんにも届けた。

 宮廷魔道師団の宿舎へと届けに行ったのは、おむすびと味噌汁。

 渡したバスケットを不思議そうに見ていたアイラちゃんは、バスケットに掛けられた布を外した途端に、大きく目を見開いた。

 そのまま、驚いた表情で私を見るから、よかったら一緒に食べないかって誘ったのよ。

 そして、アイラちゃんの部屋で二人でおむすびと味噌汁を食べた。

 遠い故郷のことを話しながら食べたのだけど、味見したときよりも、しょっぱく感じた。



「今日のメニューは何ですか?」

「今日は混ぜ寿司よ」

「お寿司!? え? できるんですか?」

「お酢が米酢じゃないから少し風味が違うんだけどね」

「それでも楽しみです!」



 嬉しそうに笑うアイラちゃんと一緒に、食堂へと向かう。

 アイラちゃんに伝えた通り、今日のメニューはちらし寿司だ。

 米酢の代わりにワインビネガーを使っているので、期待していた風味ではない。

 けれども、悪くない物ができたんじゃないかとは思う。

 具は、牛蒡とニンジン、モルゲンハーフェンから買ってきた白身魚の干物だ。

 上に乗せる錦糸卵も忘れてはいけないわね。


 ちなみに、牛蒡は所長が育てている薬草畑から分けてもらった物だったりする。

 外国から入ってきた薬草ってことで、所長が育ててたのよ。

 気付いたのは去年の今頃だったかな?

 収穫された牛蒡を見て驚いた。

 日本では野菜として食べてたって伝えたら、所長の方が驚いてたけど。

 お米と味噌が見つかったし、来年から食材として少し多めに育ててもらえないか、所長にお願いしてみようかな?


 食堂でテーブルに着席すると、料理人さんがにこやかに料理を運んで来てくれた。

 好奇心旺盛な料理人さん達は、新しい食材であるお米を使った料理を知る機会が出来て、とても機嫌がいい。

 混ぜ寿司と味噌汁を前に、アイラちゃんの目も輝いた。

 待ち切れないようだったので、すぐにいただきますと挨拶をする。



「こういうお寿司って、小さい頃食べて以来です」

「そうなの?」

「はい。雛祭りのときに、母がお店で買ってきてくれて。小学校一、二年生くらいまででしたけど」

「あー、うちも雛祭りのときに祖母が作ってくれたわね。雛祭り以外の時にも偶に作ってくれたかな」



 アイラちゃんと話しながら、祖母のことを思い出して、ちょっと涙腺にきた。

 いかん、いかん。

 落ち着こう。

 周りに分からないように深呼吸をして、気を落ち着かせる。


 涙が引っ込んだところで、スープカップを持ち上げた。

 祖母が作ってくれたときは、大抵お吸い物が付いていたのだけど、今日付いているのは味噌汁だ。

 塩だけでもお吸い物は作れそうだけど、醤油がないと物足りない気がしてね。

 醤油さえあれば再現はできるんだけど。

 味噌があるなら、醤油もありそうよね。

 ザイデラにないか、後でオスカーさんにでもお願いして探してもらおう。



「美味しかったです!」

「良かった」



 しっかりと完食してくれた後、アイラちゃんは弾ける笑顔でお礼を言ってくれた。

 寿司酢に使ったワインビネガーに一抹の不安はあったけど、問題なかったようだ。


 アイラちゃんはこの後も仕事があるというので、おやつにどうぞとパウンドケーキを渡して、別れた。

 パウンドケーキは宮廷魔道師団の人達に人気らしい。

 取り合いになりそうだと言われたので、数本まとめて渡しておいた。

 アイラちゃんは恐縮してたけど、大丈夫よ。

 パウンドケーキはいつも多めに作ってあるもの。


 そして翌日。

 研究所に思わぬ客が来た。



「どうされたんですか?」

「少しお伺いしたいことがありまして」



 始業時間すぐのこと、師団長様が訪れた。

 その後ろには、困った表情をしたアイラちゃんもいる。

 朝から麗しい笑顔で佇む師団長様にたじろぐ。

 一体どうしたというんだろう?

 取り敢えず、入り口で立ち話もなんなので、応接室へと案内した。



「昨日、ミソノ殿が食べた料理についてお伺いしたくて参りました」

「昨日の料理というと、混ぜ寿司と味噌汁のことでしょうか?」

「そうです! そちらの料理を私も食べてみたいのですが、用意していただけないでしょうか?」



 応接室のソファーに腰掛けるなり、師団長様は話し始めた。

 何というか、師団長様の笑顔の圧が強い。

 説明を求めてアイラちゃんに視線を送ると、アイラちゃんもよく分からないようで首を横に振られた。

 けれども、状況の説明はしてくれた。


 昨日、宮廷魔道師団の隊舎に戻ってから、魔法の訓練をしていたそうだ。

 そこへ訓練の様子を見に、通りがかった師団長様。

 暫くはアイラちゃんが魔法を使っているところを見ていたらしいのだけど、そのうち変なことを聞いて来たんだとか。

 今日は何か変わったことをしたり、されたりしなかったかという問いに、アイラちゃんは研究所の食堂で昼食を取ったことを話したらしい。

 なるほど。


 恐らく昨日食べた料理のどちらかに、師団長様の興味を引いてしまう効果があるのだろう。

 師団長様の様子を見れば、十中八九、魔法に関わる効果だということが分かる。

 丁度、お米や味噌を使った料理の効果を調査しようと思っていたところだし、師団長様に実験に協力してもらうのもいいかもしれない。



「用意するのは構わないのですが、実はお願いしたいことがありまして」

「何でしょうか?」

「すみません、その前に所長の許可を貰って来てもいいですか?」

「分かりました。私も一緒に行きましょう」



 言うや否や、師団長様は立ち上がる。

 余程、昨日の料理が食べたいらしい。

 取り敢えず、許可はすぐに貰えると思うからと、何とか押し留めて応接室を後にした。

 何も言わなかったけど、あの様子では私が戻って来るまで応接室にいるだろう。


 急ぎ足で所長室に向かい、ドアをノックする。

 応答の声が聞こえたのでドアを開けると、驚いたように所長がこちらを見ていた。



「そんなに急いで、どうした?」

「すみません、ちょっと許可をいただきたくて」



 ドアを開けるタイミングが早かったらしい。

 心配そうな顔をする所長に、師団長様から料理を食べたいと言われていること、そして料理の効果の調査に協力して貰おうかと思っていること等を伝えた。



「そうか、ドレヴェス殿がな……」

「はい。料理の効果は間違いなく魔法に関する物だと思われるので、今回は師団長様に協力していただいた方がいいかと思います」

「そうだなぁ」

「材料となるお米や味噌も在庫が少ないので、師団長様に協力してもらった方が消費が少ないかなと思いまして」

「魔法に関することであれば、彼の目は確かだからな。いいだろう」



 そう、師団長様に協力してもらいたいのにも理由がある。

 今回の料理の材料は在庫が少なく、しかも手に入りにくい。

 自分やアイラちゃんのためにも、できれば和食の材料は残しておきたい気持ちが強い。

 調査も大事だとは思うんだけどね。

 それで、今回の調査は少数精鋭で行いたかったのだ。

 それには、魔法のことに詳しい師団長様に協力してもらうのが一番だと思う。

 後は師団長様に宮廷魔道師団から適任な人を数人選んでもらおう。


 所長の許可が貰えたので応接室に取って返す。

 部屋に入った途端に、「いかがでしたか?」と笑顔の圧も強く師団長様に問い掛けられた。

 どれだけ料理が食べたいんだ、この人。

 少し引きつつも、所長の許可が取れたと伝えれば、師団長様の笑顔が深くなる。

 師団長様の隣を見ると、アイラちゃんもホッとしていて、視線が合ったところで同時に苦笑した。


 それから、師団長様に協力して欲しいこと、すなわち料理の効果を調査するのに協力して欲しいと伝えれば、快く請け負ってくれた。

 二つ返事だった。

 ふと気になったので、インテリ眼鏡様にも伝えた方がいいかと問い掛けたところ、そちらへの連絡はアイラちゃんが請け負ってくれた。

 よろしくお願いします。

 まぁ、宮廷魔道師団のトップがいいって言ってるんだから、インテリ眼鏡様に止められることはないだろう。

 多分、……多分。


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