078_グリッソムと国王
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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078_グリッソムと国王
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王都ダンジョンの8階層のモンスターは、半魚人しかいない。ただし必ず数十体で固まっている。20体なら少ないほうで、多い時には100近い数にもなる。
1体1体はそれほど強くないが、数が厄介だ。100体もの半魚人が俺たちを囲む光景はかなり恐怖心を煽る。しかし俺たちは退かない。退くほど弱くないからだ。
「今日はここまでにしようか。さすがに疲れた」
「左様ですな」
80体の半魚人を殲滅した俺たちは、ドロップアイテムを拾って屋敷に戻ることにした。
今回の探索で500体以上の半魚人と戦い倒した。ドロップアイテムはDランク魔石が462個。魔剣が17本、魔槍が15本、魔弓が13張、魔杖が2本。
アンネリーセ、ガンダルバン、バース、ジョジョク、リン、ソリディア、ロザリナのレベルは43まで上がっている。コロン、カロンのレベルは32だ。
俺は転生勇者がレベル42、両手剣の英雄がレベル41、暗殺者がレベル41、エンチャンターがレベル38、剣豪がレベル42になっている。皆のレベルが上がったことで途中からエンチャンターではなく、他のジョブを上げている。とうとうバルカンに並んだ。このまま追い越してやろう。
ダンジョンから出ると、空は真っ黒だった。今回はいつもより長くダンジョンに入っていたが、ボス部屋まで辿りつけなかった。それだけ半魚人との戦闘に時間がかかったということだ。実際にマッピングはあまり進んでいない。それほどモンスターの密度が高いということだ。
ちっ。嫌な顔を見てしまった。グリッソムだ。今からダンジョンに入るようだ。
「………」
グリッソムたちとすれ違うが、言葉は交わさない。前回のことがあったからか、俺と目を合わせようとしないのだ。
「ガンダルバン。皆を連れて帰っていてくれ」
「あまり無茶をしないでください」
「分かっている」
皆を先に帰して、俺はグリッソムの屋敷に向かうことにした。
「すぐに帰るからね」
不安そうな目で俺を見つめてくるアンネリーセの頬に手を当てる。相変わらずきめ細やかな綺麗な肌だ。
「早く帰ってきてください」
「ああ、すぐに戻るよ」
皆と別れて、スキル・隠密を発動。AGI任せで走り、グリッソムの屋敷に到着。
勝手知ったる他人の家。壁抜けで屋敷の中に入って気配を探ると、奴隷たちが檻の中に閉じ込められていたのを発見。
いくら食料と水を与えているとはいえ、これはないだろ。あいつは本当にクズだ(怒)
出してあげたいけど、今出してしまうと俺が忍び込んでいることがバレてしまう。心を鬼にして檻の前から立ち去ろうとして、違和感を覚えた。なんだ、何かが……。
そうか、1人足りないんだ。グリッソムのパーティーは全部で6人。ここにいる奴隷は5人。以前は6人いたから、1人足りない。
5人の奴隷を詳細鑑定で確認したが、もう1人のことは記録されていない。いくら詳細鑑定でも他の奴隷のことは記録されないんだよな。
でも分かったことが1つだけある。いない奴隷はグリッソムのお気に入りだ。男3人、女3人の6人パーティーで、奴隷も男3人、女3人の6人だった。
居なくなっているのは女性の奴隷で、いつもグリッソムのそばに居た。嫌な考えが頭を巡る。そうなっていないことを祈るばかりだ。
今後はたまに奴隷たちの様子を見にこよう。
グリッソムの部屋に入ると、いつものよう……いや違うな。
「これは血か」
絨毯に血の跡と思われる黒ずんだ跡があった。詳細鑑定で見たら、奴隷の血だと分かった。あの野郎……。
これだけの血を流したということは、明らかに致命傷だろう。だが死体はどこに……? そうか、ダンジョンの中か。あそこなら、ダンジョンが死体を吸収してくれる。証拠隠滅には丁度いい。
「クズがっ」
腹が立つ。胸糞が悪い。
あいつも同じ目に合わせてやりたい。いや、それ以上に苦しめてやりたい。
だが、どうやったらあいつの悪事の証拠が掴める? クズのくせにやたらと証拠がないんだ、あいつ。
いや、あるにはあるんだ。レコードカードにそれが反映されているのだから。
父親のほうは証拠があるから、父親を破滅させてからあいつを衛兵に突き出すか。そうすれば、父親の権力で逃げることはできない。
本当はちゃんとした証拠を手にいれたかったけど、このままあいつを放置したら被害が増えるばかりだ。
しかしなんであいつのジョブは弱体呪術士のままなんだ? 盗賊になってもおかしくないのに、どういったカラクリがあるんだ?
まさか神の犯罪システムを掻い潜る手があるのか? あいつを詳細鑑定で見ても、そんなチートはなかった。もしかしたら、そういったアイテムがあるのか? まったく分からん……。
証拠がないまま公爵邸に帰ると、アンネリーセ、ロザリナ、リン、ソリディア、厳島さんが優雅にお茶を楽しんでいた。男連中は風呂らしい。
「やあ、皆でお茶会か。美人揃いだから、目が癒されるね」
「お帰りなさいませ。装備を」
アンネリーセが俺の装備を預かろうとする。
「これくらい自分でできるから、大丈夫だよ。アンネリーセは皆とお喋りをしていて」
「それはいけません。これは私の仕事ですから!」
圧が凄いんですが……? どうした?
「わたしもお世話するのです」
ロザリナも?
「あ、あの……私も」
え、厳島さんまで? 本当にどうしたんだ?
「いや、本当に一人でできるから」
「「「駄目です!」」」
おーい。リン、ソリディア。助けてくれー!
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あー、酷い目に遭った。
三人が競うように俺の装備を外すんだ。俺の装備はクイック装備に設定しているから、一瞬で外せるのにさ。本当に三人は急にどうしたんだよ?
さて、公爵が居ないから、王女に証拠の品々を提出するしかないんだよね。あの王女、悪い人ではないんだけど、育ちがいいせいか今一頼りない感じがする。証拠を渡して本当に大丈夫なんだろうか? 一抹の不安があるんだよね。
それと渡す方法だよな。俺が「はい証拠です」と渡すのはあり得ない。それこそ王女の要らぬ関心を買ってしまうからね。
さすがに王女の寝室に潜り込むのも気が引けるな。いくらなんでも女性の部屋に忍び込むのは、俺の中ではアウトだ。
そういえば国王は病気なんだよな。一応、確認してみるか。話が分かりそうな人だといいんだが。
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翌日、俺は国王の様子を見るために、城に忍び込んだ。
公爵の城も厳重な警備だったけど、国王の居城だけあって衛兵が多い。
でもジョブ・暗殺者レベル41は伊達ではない。どこでも出入りできるぜ。
色々な部屋に入ってみたが、なかなか国王の部屋に辿りつけない。そもそも部屋数が多すぎる。
そして警備がとても厳重な部屋に入った。ここで正解のようだ。
豪奢な天蓋付きのベッドに、一人の男性が寝ている。顔色は土気色でまったく健康そうに見えない。元々は金髪だったと思われる髪は、ほとんどが真っ白に変わっている。息も細く、重病なのが分かる状態だ。これでは話はできないだろう。
―――詳細鑑定。
「………」
なるほど、これはなかなかに重いな。
この国王は毒を盛られている。ダーガン病という病気と同じような症状になる毒らしい。
問題は誰が毒を盛っているかだ。まさか王女……ではないな。王女を詳細鑑定で見た際にそんな表記はなかった。財務大臣やエルバシル伯爵でもない。他に毒を盛った犯人が居るということだ。
国王は毒を盛られ大臣や重臣は私腹を肥やし、この国はもう終わっているんじゃないか。
救いは王女は真面目で、騎士団長などまともな人も居ることか。でもクズたちが幅を利かせているのは間違いない。大掃除するか、滅ぶかの二択が迫られる状況じゃね?
かなり重篤な状態の国王だが、俺ができることは王女に知らせるくらいなものだ。
国王が死んでも俺にはどうでもいいことだ。だけど毒を盛られていることを放置できない。解毒しても手遅れかもだけど、見てみぬふりをするのは気分が悪いんだよな……。
国王が勇者召喚を決めたと公爵から聞いたから感情としては二、三発殴ってやりたいけど、国王は純粋に国のためを思ってやったことらしい。連れてこられる勇者のことは考えてなかったようだが。
ご愛読ありがとうございます。
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2/16に『076_破滅に導くためのあれこれ』に少し加筆しました。