074_怒り
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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074_怒り
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目の前では公爵が頭を抱えている。頭痛持ちなの? 体は大事にしなきゃダメだよ。
「誰のせいだと思っているんだ……」
あ、はい。俺のせいですね。すみません。
「話の趣旨は理解した。召喚された者がフットシックル男爵に保護を求めてきたのだな」
公爵は目頭を揉みほぐしながら確認してくる。疲れているんだね。
「ええ、国は大変良くしてくださっているようでそれには不満はないようですが、どうしても無理やり召喚されたことが心に引っかかっているようです」
物は言いようだね。言ったもん勝ちなわけよ。何せ、国は実際に召喚という拉致をしているわけだから。召喚を拒否できるなんて俺たちは知らなかったわけだし、国も知らないと思われるからね。王女様が申しわけなさそうな表情してたから。
「その2人の心情は分からないではない……。王女殿下と調整してみよう」
「ありがとうございます」
持ってて良かった、権力者とのコネ。叙爵されてなかったら、こういったコネを使えないもんね。持っているコネは最大限活用すべし!
ヤマトのことはどうでもいいが、厳島さんのことは少し考えるべきだった。あそこまで俺が生きていたことを喜んでくれた彼女には、心から感謝をしたい。
落ちついたところで、アンネリーセたちにも俺の正体について語った。
「ご主人様が勇者様たちと同じ異世界人……」
ご主人様じゃなくて、トーイね。衝撃的な話だからいいけどさ。
「ご当主様の異常さは理解しておりましたが、まさか異世界の勇者であったか……」
「勇者じゃないからな」
ジョブ・転生勇者を持っているけど、絶対に勇者じゃない。そもそも俺は勇者になることを断ったんだ。それなのにジョブがあるなんて地雷以外のなにものでもない。こっそり育てはするけど、絶対に公衆の前では出さない。
「言うまでもないが、俺が転生者だというのは口外しないように。内緒だ」
皆が頷き、ガンダルバンが「そんなこと言えませんよ……」と首を振った。
なんだかガンダルバンが老けたように見えるのは、気のせいだろう。うん、気のせいだ。
皆が退室してアンネリーセと2人だけになる。
「黙っていてごめんな」
「とても言えるようなことではないのです。当然のことだと思いますので、謝らないでください」
アンネリーセの肩を抱き寄せる。彼女は俺の肩に頭を預けた。
受け入れてくれてありがとう。
公爵から連絡がくるまで時間があるようなので、ダンジョンに入ることにした。
王都のダンジョンももう何度目か。
「キサマ!?」
いつかのアンネリーセにフラれた奴だ。
「これはグリッグリさんでしたか」
「グリッソムだ!」
知ってるよ、わざとだから。
グリッソムは5人のパーティーメンバーとダンジョンから出てきたところらしい。かなり臭い。
「ふん。雑魚が何人集まっても雑魚でしかないのだ。せいぜい死なないように気をつけることだな!」
アンネリーセにフラれたグリッソムは、かなりムカつく奴だ。元々良い印象はないが、最悪だな。
さて、今日はしっかりとグリッソムを詳細鑑定しておこう。
「………」
こいつ、ぶっ殺す!
「っ!? ひぃぃぃっ」
「ご、ご当主様!?」
ガシッと両脇から腕を回され掴まれた。羽交い締めだ。
「落ちついてください。ご当主様」
「ガンダルバン……こいつだけは」
「あの者の言葉遣いは男爵たるご当主様に対して失礼極まりないものではありますが、この者を斬り捨ててはご当主様の名に傷がつきます」
そうじゃないんだ、そうじゃ……。こいつはアンネリーセを……。
「お前もご当主様を怒らせるな。死にたくはないであろう。さっさと立ち去れ!」
「ひっ、ひぃぃぃ」
俺の殺気を受けて腰を抜かしていたグリッソムが、床を這いずって離れていく。
「放せ、ガンダルバン」
「いけません」
「「「「ご当主様、落ちついてください!」」」」
皆が俺を囲み、止める。
「トーイ様。落ちついてください」
「俺は……落ちついているよ、アンネリーセ」
そう、俺は落ちついている。その上で、あいつを殺すと決意した。
「いったいどうしたのですか?」
「あいつは……いや、なんでもない」
ここで話すことではないと判断した。
「ガンダルバン。俺は落ちついている。放してくれ」
「本当に大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だ」
ガンダルバンが腕の力を抜き、放した。
周囲の探索者の目があるから、場所を移すことにした。
「あの程度のことで、いったいどうしたのですか? いつものご当主様であれば、飄々と躱されるものを……」
近くのレストランの個室を借りて、ハーブティーを飲んで心を平静に保とうとする俺にガンダルバンがため息交じりに問いただしてくる。
あのグリッソムはアンネリーセにフラれたというのは、前述通りだ。それは間違いない。だが、その後にあいつはやってはいけないことをした。
アンネリーセが自分のものにならないと判断したあいつは、どさくさに紛れてアンネリーセを呪ったのだ。
アンネリーセが老婆の姿になった呪いはダンジョンの罠ではなく、グリッソムの呪いだったんだ。
それだけじゃない。呪いを受けたアンネリーセはなんとか解呪しようと研究していたが、その工房をあいつが爆破したのだ。それによってアンネリーセは事故を起こしたとして奴隷に落とされた。
あいつは決して許さない。絶対に地獄に落とす。
アンネリーセを詳細鑑定して見た時、「ダンジョン内で呪いにかかった」と「工房が爆発した」ということしか分からなかった。
おそらくだがアンネリーセが認識してないことは、詳細鑑定に現れないのだろう。だからダンジョン内で呪われたということと、工房が爆発したことしか書いてなかったのだ。
「あのグリッソムは伯爵家の者だったな?」
「はい。エルバシル伯爵家の四男だと聞いています」
「そのエルバシル伯爵の屋敷に住んでいるのか?」
「別宅を与えられて、そこで暮らしているはずです」
アンネリーセにグリッソムのことを聞き、今日の探索は中止すると皆に伝えた。
「中止は構いませんが……あのグリッソムという男を殺しに行くのだけは止めてください」
「大丈夫だ、ガンダルバン。あいつは地獄に落とすが、俺が殺すことはしない」
「……そこまで怒る理由を教えていただいてもよろしいですか?」
「いずれ話す。今は聞かないでくれ」
ハーブティーを飲み干して、皆には屋敷に戻ってもらった。
俺は1人でグリッソムが住むという屋敷に向かった。王都の貴族街から少し離れた場所にあるが、かなり大きな屋敷だ。ケルニッフィの俺の屋敷より大きいと思われる。
グリッソムのジョブは弱体呪術士。レベルは32。かなり高い。パーティーメンバーもレベル30くらいだったから、6階層なら安定して狩れるだろう。7階層では苦戦するかもしれないが、少し背伸びすれば届くところだ。
つまりかなり儲けているだろうから、これだけの屋敷を維持できる財力があるのだろう。
屋敷の周囲をぐるりと回って立地を確認。周囲にも屋敷が建っているが、その中でも一番大きい。あいつにはもったいない屋敷だ。
物陰に入ってメインジョブを暗殺者に変更し、スキル隠密を発動させる。
スキル・壁抜けで塀をすり抜け、庭へ入る。手入れがあまり行き届いていない庭で、草が生え放題になっている。モンダルクが見たら発狂するんじゃないか。
母屋の壁もすり抜けて中に入る。これだけ大きな屋敷なのに、あまり人の気配はない。とはいえ、まったくないわけではない。
部屋を1つ1つ確認しながら進み、リビングらしきところにグリッソムが宴会をしていた。グリッソム以外にはパーティーメンバーの5人と、奴隷が6人居た。
胸糞が悪くなる光景だ。
グリッソムは男3人、女3人の6人パーティーだが、それぞれに性奴隷がついている。奴隷たちの姿は酷いもので、男女問わず素っ裸。性的行為を強制しているように見受けられる。
6人の奴隷は皆任意奴隷。性行為は了承してないが、屋敷に閉じ込められて無理やり相手をさせられている。
グリッソムだけでなく、他のパーティーメンバーもクズ揃いだ。怒りがこみ上げて来る。
こいつらには地獄を見てもらう。そのためのネタを探すために屋敷内を捜索する。
あんな光景を見たから気分が悪い。最悪だ。
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
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