073_再会
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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073_再会
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叙勲が終わり赤葉たちの相手も終わったから帰ろうと、廊下を歩いていたら呼び止められた。見覚えのある顔だ。
「何か?」
「少しだけ話をさせてもらえないかな」
元クラスメイトの男子生徒だ。メガネをかけて細身だが、背は高い。マッチ棒のような彼は、インテリと言うよりはオタクの臭いがしそうな風貌だ。
「城を辞そうとしていたところなので、ここで済ませてもらえるかな」
「僕はそれでもいいけど、藤井君は困るんじゃない?」
「………」
こいつ、俺の正体を知っているのか? どうしてバレた? 俺のどこに隙があった?
できるだけ黙っていたから、バレないはずだ。こんな容姿の俺を、藤井だと誰が思うのか? しかも、彼は言い切った……。
「別に敵対する気はないんだ。話を聞いてほしいだけなんだ」
「……いいだろう」
先程の控室に戻る。
「皆は部屋の外で誰も入れないように見張っていてくれ」
「ご主人様……」
「アンネリーセ。俺はトーイだ」
不安そうな表情のアンネリーセの頬に手をそえる。
「大丈夫だよ」
「はい」
部屋の中に入ってソファーに座る。
「で、話というのは?」
「僕をこの城から連れ出してほしいんだ」
「はぁ?」
こいつは何を言っているんだ? そういうのは可愛い女の子が言うセリフだろ。って、ちゃうわ。なんで俺がこいつを連れ出さなければいけないのか。そもそも外出の自由がないのか?
「この城の人はいい人が多いんだ。でもさ、外出の時は護衛がついてウザイんだよね。それに藤井君も知っての通りクラスメイトたちはクズばかりだからさ。僕はせっかくの異世界を堪能したいんだよ。だから城住まいは不本意だし、外出時にいちいち護衛がつくのもね。藤井君だったら分かるよね?」
城の人たちはいい人たちばかりなんだな。そのことに少し驚きを覚えるよ。厭味な貴族とかいると思った。
って、連れ出すのは外出じゃなくて家出かよ。
「最初に言っておくが、俺は藤井ではない」
「あー、そうか。トーイ=フットシックル男爵という設定だったね」
設定とか言うなし。
「でもねトーイって藤井ってことでしょ。それにフットシックルも足と鎌だから、藤原鎌足、もしくは中臣鎌足を連想させるよね。しかもこの世界では誰も使ってない藤を紋章にするとか、間違いなく日本人だよね。それも藤原鎌足の系譜だというのが分かる。藤井ってさ、藤原氏の傍系だよね。だから藤が家紋だったんじゃないかな。藤原氏の傍系が地方で姓を変えるのはよくあるもんね。そして僕を含めて35人いるはずのクラスメイトが、34人しかいない。居ない1人は藤井君。ここまで材料が揃ったら、トーイ君イコール藤井君なのが分かっちゃうよね」
よく喋る奴だ。しかも完全に俺のことを藤井だと思っているようだ。正解だけど、このままYesと言うのは負けた気がする。
「何も藤井君に食べさせてとは言わないよ。僕を庇護下に置いてくれさえすれば、いいんだ。僕も働くからね。これでもアイテム生産師だから、武器や防具だけじゃなく、便利なアイテムを作ることができるよ。僕をそばに置いておくと便利だよ」
次から次へとよく喋るな。鬱憤が溜まっているのか?
アイテム生産師なのは詳細鑑定で見たから分かっていたが、さてどうする。嘘を言っているようにも思えない。敵意は感じないし、悪意もなさそうだ。どういう選択が正解だ?
「ただの男爵の俺に、あんたを保護することなんてできないぞ」
「それじゃあ、僕を居候させてくれないかな。それだけでいいよ。男爵だから屋敷に住んでいるんでしょ? 1部屋くらい空いているんじゃない? それに僕をこのままこの城に置いておくと、ついぽろっと喋っちゃうかもだよ」
こいつが俺を藤井とする根拠を喋られると、面倒なことになりかねない。
公爵は俺が反発しないように、あまり干渉してこない。しかし悪魔討伐で名を売ってしまったから、王女がその言葉を信じて手を出してくるかもしれないからな。俺は今の生活が気に入っている。それを台無しにされるのは困る。
日本にいた頃の彼は、俺のことに不干渉だった。元々ほとんど話したこともなければ、俺が他のクラスメイトに無視されていても関係なく必要なら喋った。その程度の関係だ。
俺に危害を加えていた奴らに助けてほしいと言われても今なら断るけど、友達未満知り合い程度のこいつに悪感情はないから頼まれるとそこまで嫌だとは思わない。
こいつはある意味有能だから、連れていくのは構わない。連れていって俺の欲しいアイテムを作らせよう。せっかく連れていくんだから馬車馬のように働いてもらう。それくらいのリターンを要求しても悪くないだろ。
その程度の関係なのだから。
「魔法契約書で契約してもらうぞ」
「いいよ。藤井君じゃなかったトーイ君のことは喋らない。そう契約するよ」
「すぐには無理だから、公爵に話を通す。しばらく待ってくれ」
「うん。少しくらいなら待ってるから。あ、そうだ。どうせ僕の名前なんか憶えてないんでしょ? 僕は藤原大和。ヤマトって呼んでね。嫡流じゃないけど、藤原氏の子孫だよ。同じだね、トーイ君」
藤井家は藤原氏の傍流の傍流だ。元を辿れば同じ血が流れていると思うが、かなり遠い親戚だな。それこそ他人と思っていた人のほうが近い親戚かもしれない。
お互いに利用し合うことに合意し、握手を交わしたところで外が騒がしくなった。どうしたのかと思っていたら、ノック音がしたから入室を許可した。
「ご面会を求める方がお越しです」
アンネリーセの言葉に首を傾げる。この城に知り合いはいない。もちろんトーイとしてだ。
ヤマトを見るが、首を振る。
「分かった。お通ししろ」
「僕は失礼するね」
ヤマトが立ち上がると同時に、客が入ってきた。
「あら……」
ヤマトが呟いた。
現れたのはヤマトと同じクラスメイト。よく知っている人だった。
―――厳島さやか。
学校で俺のことを唯一心配してくれた女生徒だ。
厳島さんは俺を庇う言動が多かった。酷いことを言う奴に抗議していた。その厳島さんが俺になんの用だ?
「え?」
厳島さんは部屋に入ってくるなり泣き出してしまった。
どういうことだ? なぜ泣く? 俺は何もしてないぞ?
ヤマトを見たが、ヤマトも狼狽えている。お互いに首を振って心当たりがないと意思表示。
泣き崩れてしまった厳島さんを、アンネリーセが肩を抱いて慰める。アンネリーセも戸惑っているのが分かるけど、俺に心当たりはない。
「と、とにかく座ってもらって」
アンネリーセに頼んで厳島さんをソファーに座わらせてもらう。
落ちつくまで待つしかない。
「ごめんなさい。私、嬉しくてつい……」
「嬉しいというのは?」
アンネリーセに頼んで、いてもらった。俺に女性の扱いは無理だ。
「私、藤井君が生きていてくれて、本当に嬉しかったの」
まただ……。なんで俺だとバレた?
ヤマトを見たら、首がちぎれそうなくらい振っている。俺と取引するんだから、わざわざ厳島さんに俺のことを洩らすとも思えない。
「フジイ君とはどういうことですか? 先ほどもそちらの方がトーイ様をフジイと呼ばれましたが?」
アンネリーセが真っすぐ俺を見てくる。これは隠すことはできないな。いつかは話そうと思っていたが、このタイミングになるとは思ってもいなかった。
その前に厳島さんだ。なんで俺のことが分かったのか? ヤマトのように名前や紋章からの連想か?
「立ち姿や歩き方ですぐに藤井君だって分かったわ。最初は容姿が違っていたからすごく不安だったけど、赤葉君たちを見る目を見て、確信したの」
俺って、そんなに特徴的な立ち姿や歩き方なのか? 背丈は縮んだし、体形も変わった。それなのに、見分けがついたということか……。
まあ赤葉たちを生ごみ以下のウ●コ以下だと思っているから、あいつらを見る目が特徴的なのは理解できるけど。
「本当に生きていて良かった。もう二度と会えないなんて思いたくなかったから……」
「心配かけたようだな。すまない」
「いいの。生きてさえいてくれたら」
友達にこう言ってもらえるのはとても嬉しい。彼女はいつも俺を気にかけてくれたから、唯一守ってあげたいと思う人だ。
「僕はトーイ君のところで生活するつもりだけど、厳島さんもトーイ君のところに行けばいいんじゃないかな。これからずっと一緒にいられるよ」
ヤマトめ、勝手なことを……。
「え……いいの?」
上目遣いで見られたら、嫌とは言えない。もちろん言うつもりはないけど。
「1人も2人も一緒だ。厳島さんがその気なら、構わないよ」
「うん。一緒に連れていってください」
問題は国だな。この2人を俺が引き取る理由をどうするか。ただ引き取りたいと言ったところで、一笑に付されるだけだ。
俺では国の勇者に対するスタンスがよく分からない。ダンジョンのモンスターを狩ってくれればいいんだったら、生産職の2人はそこまで重要ではない。だけど半強制的に拉致した以上は、戦闘系でも生産系でもしっかり面倒を見ようとしているようだ。
2人のことは公爵に相談するしかないか。俺ではどのようにすればいいか分からないが、公爵ならなんとかしてくれるだろ。首切りネスト事件を解決もしてあげたし、城での謀反と悪魔退治もしてあげたから少しくらい無理を言っても罰は当たらないだろう。
さて、アンネリーセにどうやって話そうか。こういう時は正直に言うのが吉だろうな。
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
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