071_言葉が通じないのですが……
大晦日です。今年最後の日です。
本年中は大変お世話になりました。
さて、これで今年も最後の更新です。
楽しんでください。
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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071_言葉が通じないのですが……
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授与式はつつがなく終わる……ことなく、まさかここまでバカだとは思っていなかった。
「その魔剣を俺に寄こせ」
俺たちに魔剣などが授与された直後の赤葉の発言だ。
この場面でそれを言うかと、さすがに赤葉の神経を疑った。絶対脳みそ腐ってるだろ。
静まり返る謁見の間。
この空気をどうするんだよ。俺は知らないぞ。
「アカバ殿。何をバカなことを言っているのですか」
「こんな弱そうな奴より勇者の俺のほうが、魔剣を上手く扱うってもんじゃないのかよ。エルメルダ」
呼び捨て? そういう仲なの? いや違うな。王女のあの目は汚物を見るような目だ。そうなると赤葉が勝手に王女を呼び捨てにしているってこと? ……どこまでもバカだな。
「これは褒美です。アカバ殿も褒美をもらえるようなことをしたら、王家が所蔵している魔剣を下賜しましょう」
「弱っちぃ武器でモンスターなんか倒せないだろ。最初から魔剣を寄こせってんだ」
弱い武器で戦いたくないというのは同意するが、だからと言って俺がもらった魔剣を赤葉に譲渡する必要性を感じないし、あり得ない。
そもそもスキル・聖剣召喚を持っている勇者が、何を言っているんだ。俺は勇者だということを隠しているが、お前たちは公になっているんだからバンバン使えばいいんだ。時間制限あってもボス戦などに使える強力なスキルで武器だぞ、聖剣は。それに魔法も使えるだろ、勇者なんだから。
「弱いのは貴方ですよ、アカバ殿」
「なっ!? てめぇ」
よく言った王女様! そういう正直な人、嫌いじゃないよ。
「フットシックル男爵。それは貴方のものです。アカバ殿の言葉は無視して構いません」
はっきりと言うね。赤葉が睨んでいるけど、王女はどこ吹く風だ。完全に無視(笑)
「おい、お前!」
え、俺?
「その魔剣をかけて俺と勝負しろ!」
「………」
開いた口が塞がらないというのは、このことだ。
まさかこんな絡みがあるとはさすがに思っていなかった。
「アカバ殿。バカなことは言わないように」
「魔剣ってのは、俺のような勇者に相応しいだろ」
「アカバ殿!」
「ちょっと待て、赤葉。お前だけずるいだろ。俺だって勇者だ。その権利は俺にもある」
「内田、てめぇ」
いやどんな権利だよ!?
俺は心の底からツッコみを入れてしまった。
「だったら俺も権利を主張するぜ」
内田だけじゃなく土井まで名乗りを上げた。いずれも俺に暴力を振るっていたクズたちだ。
しかしなんで俺がもらった魔剣を、お前たちがもらう話にすり替わっているんだ。俺の頭がおかしいのか? そんなわけない。俺はおかしくない。おかしいのはこいつらだ。
「「「さっさと寄こせよ」」」
バカにつける薬はないというが、本当だと思う。
王女が頭を抱えているんだけど、これどうするんだよ?
内田と土井は赤葉の腰巾着だったのに、ずいぶんと強気だな。異世界だから赤葉の父親の影響力がなくなったからか? それで赤葉グループから独立して調子に乗っているのか? どいつもこいつもクズ過ぎるだろ。
「「「おい、お前。早く俺に魔剣を寄こせ」」」
「無理」
なんで恵んでやらなければいけないんだよ。
「「「だったら勝負だ!」」」
「面倒」
と返事してみたが、こいつらを公然とぶっ飛ばせるのか……。いいかも。
こいつらに復讐する気はなかったけど、ここまで言われたら痛い目を見させてやってもいいだろう。
それに転生勇者Lv25で発現したスキル・手加減があれば、こいつらを殺すことなく好きなだけぶっ飛ばせる。殴って殴って殴っても殺さない。いいかもしれない。
「「「逃げるのか!?」」」
すっげーやる気になってきたぞ、こいつらに地獄を見せてやろうじゃないか。
殺さずこれまでの恨みを晴らせるんだから、この決闘を受けてもいい。心は殺すかもだけど。
ん、ちょっと待てよ。俺はなんでここまで殺さないことに拘っているんだ?
たしかに召喚当初は殺したくなかった。俺は殺されてないから、殺すほどではないと思ったのかもしれない。だけどこの世界に来て、俺は盗賊を何人も殺しているじゃないか。
この世界に染まりつつあるということか……。環境は人を変える。あり得る話だ。この世界は死が身近にある。日本のように甘い考えは通じない。奪い奪われ、殺し殺されが当たり前にある世界なんだ。
「おい、早く魔剣を寄こせよ!」
考え込んでいると、赤葉が叫んで思考の海から俺を引き上げた。堪え性のない奴だ。
「その勝負を受けて、俺になんのメリットがあるの?」
一応、嫌だな~っという体をアピール。
「「「俺たちの魔剣だ!」」」
えぇぇ……言葉が通じないんですけど。
「殿下。彼らの対応は、私とフットシックル男爵に一任していただいてよろしいですか?」
どうするつもりだ、公爵は?
「と言いますと?」
「このような暴挙を許しては、王国の恥になります。あの者たちには、そのことを分からせてやりたいと思っております」
許さないというのには同意だけど、何をどうするんだろうか?
「分かりました。今回のことはさすがに看過できません。これまでは召喚した負い目もありましたから勇者たちを自由にさせておきましたが、今回はもう看過できません。ガルドランド公爵とフットシックル男爵に対応を一任します」
負い目があったことに、驚きだよ。召喚が拉致だって分かっているんだな、王女は。
まああの召喚は断ることができるはずだから、拉致にはならないんだけどな。
召喚される時に神様(仮)は言わなかったが、断れば召喚されなかったと俺は思っている。神様(仮)としてはこっちの世界に送りたいから、あえてそういうことを示唆しなかったんだと思う。聞いたわけではないけど、確信めいたものがあるんだよな。
その証拠ではないが、こいつらと一緒に召喚されるのを拒否した俺は、別の場所に転生という形で送られた。俺が特殊だったのではなく、いくつかの選択肢があったんだと考えるほうが妥当なんだと思っている。
俺もそうだがクラスメイトたちは、神様(仮)と会って平静ではいられなかっただろう。冷静に考えられないように、神様(仮)がしていたんだと思う。
だから俺は一緒に召喚されることを断って転生になったが、行きたくないと言えばそれで元の世界に戻されたはずだ。
「それで、どうされるのですか?」
「簡単なことです。フットシックル男爵には、あの3名と決闘をしてもらいます。彼らの誰かが勝てば魔剣サルマンを与え、負ければ魔剣サルマンの価値に応じた金額を支払ってもらいます」
公爵がニヤリと口角を上げた。あれは悪だくみしてる顔だと思う。王女はちょっと引いてるように見える。他の貴族たちもだ。
あいつらが俺に勝てないにしても、そこまで引くのはなぜだ? ……ああ、そうか。あいつらを任意奴隷にするんだな。
魔剣サルマンを詳細鑑定で見たら、国宝として大事に保管されていたものだというのが分かった。その価値は2億5000万グリル。国宝だけあってかなりの金額だ。
ジョブ・勇者を持っている人が真面目に働けばすぐに稼げる金額だけど、あいつらではな……。
任意奴隷は借金を返さないと、一生奴隷のまま。借金を返すまで主の言うことを聞かなければいけない。任意奴隷には権利があるけど、なんでも拒否していたら最後はその権利を取り上げられて鉱山や戦場に送られて使い潰される。公爵はそれを狙っているんだろう。
「他にあの魔剣が欲しい者はいるかな? ……いないようだな。では、その3人がフットシックル男爵と決闘をするということでよいかな」
「「「いいぜ」」」
「そなたら3人が負けた時は、魔剣の価値に見合った金額を支払うことになることに同意するかね? ちなみに魔剣サルマンの価値は―――」
「「「いいから早くしろよ」」」
こいつらバカだ……。なんでここまでバカなんだ? こっちの世界に権力者の父親はいないんだぞ? 摂政をしている王女や公爵を敵にしてまともに生きていけると思っているのか? それを跳ねのけられる武力があるなら別だけど、今のお前たちではなぁ。
俺を含めて魔法契約書にサインして決闘することになった。
この3人を殺しても罪に問われないが、殺さないようにというものだ。俺もそこまでするつもりはない。むしろこの魔剣の価値分の借金を背負って苦しんでくれたほうが溜飲が下がるというものだ。
「さっさと勝負するぞ!」
「俺がこいつをぶっ飛ばす!」
「魔剣は俺のものだ!」
3人はくじ引きで俺と戦う順番を決めた。最初は土井、2番目が内田、最後が赤葉だ。
決闘だけど殺さないようにと、訓練用の刃を潰した剣が使われることになった。もちろん俺は両手剣だ。
土井は元柔道部で100キロ級の選手だったはずだ。まともに練習にも出なかったから成績は大したことはなかったと記憶している。坊主だった髪は伸びたが、これがまた似合っていない。
「へへへ。魔剣は俺がもらうぜ」
武器は剣だが、俺が隠れられそうなくらい大きな巨剣だ。てか、それ刃を潰してないだろ。
「ツチイ殿。その剣は刃を潰してないから使用できない」
審判をするのは王国騎士団の団長らしい。名前はバルバドス。バルカンのようにゴツイ容姿ではなくイケメンでスマートだが、この団長からもバルカン同様あなどれない気配を感じる。
詳細鑑定で見てみたら剣王Lv43だった。剣豪やソードマスターと同じように剣士の上位ジョブだ。しかしバルカンよりもレベルが上とか、さすがは王国騎士団長だ。
「俺が使える剣がないんだから、しょうがないだろ」
あれだけの巨剣だから、練習用のものがないのだろう。
「それでは殺し合いになる。他にも大きな剣はあるのだから換えてくるように」
「他のは手に馴染まないんだよ」
「それはフットシックル男爵も同じこと。それが嫌なら棄権とみなすぞ」
「ちっ」
土井は舌打ちし、唾を吐いて剣を換えに向かった。態度が悪すぎる。バルバドスはよく我慢しているな。つい以前のように口を出しそうになったぞ。我慢した俺も成長しているということだな。
訓練用の一番大きな剣を持ってきた土井は、ブンブン振り回して調子を確かめる。乾いた土が舞い上がるくらいには鋭い振りだ。名づけるとしたら、無駄に大きな団扇かな。
「それでは魔剣サルマンをかけた決闘を執り行う。相手を殺すことは禁止だが、事故で殺してしまった場合は罪に問われない。勝負の判定は相手が倒れて10秒起き上がってこないか、降参するかだ。倒れている相手への攻撃は反則とみなす。それ以外はなんでもありだ。以上だが、質問はあるか?」
「ねぇーから、早く始めようぜ」
「問題ありません」
バルバドスが頷き、右手を上げる。
ご愛読ありがとうございます。
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