057_謀反
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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057_謀反
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爆発音と共に足の裏に震動を感じた。何か良くないことが起こったようだ。
爆発音と共にバルカン一家が公爵を取り囲んで守る姿勢を取った。さすがと言うべき動きだ。でもフットシックル名誉男爵家御一行様もさるものだ。すぐに俺のそばに飛んできて周囲を警戒している。他の貴族の騎士や兵士は呆然と立ちすくんでいるというのに、素晴らしい動きだよ。
ザイゲンに避難しないのかと聞いたら、こういう時は状況が分かるまで動かないらしい。そこに兵士が駆け込んで来る。
「申し上げます。城内に魔法生物が現れましてございます」
「魔法生物だと? ……何者かが魔法生物を城内で放ったわけだな」
公爵は厳しい顔をして、唸った。
魔法生物というのは、ダンジョン内だとモンスターと言われる生き物のこと。ダンジョン内でモンスターを倒すとアイテムを残して消滅するが、魔法生物は死体が残る。もちろんアイテムはドロップしない。その代わり、死体を解体して皮や肉、骨、牙などを有効利用できる。
さらに兵士が駆け込んでくる。
「申し上げます。ベニュー男爵、謀反にございます」
「ベニューか……恩を仇で返しおって」
公爵は吐き捨てるように言う。
「ベニュー男爵ってどんな人ですか?」
ザイゲンに聞いてみる。
「シャルディナ盗賊団と通じていた家だ。当主以下数名を処刑したが、親戚から新当主を立て子爵から男爵に爵位を下げて家を存続させてやったのだが、それが仇になったようだ。あの時温情をかけずに全ての者を族滅していればこのようなことにはならなかっただろう。痛恨の極みだ」
何それ、逆切れで謀反したの? 処刑されず男爵の地位は残してもらったのに、感謝するべきところを恨んじゃったわけ? バカじゃないの。
ザイゲンの苦虫を嚙み潰したような顔を見ると、本当に後悔しているようだ。
こんなことがあると、今後同じようなことがあったら罪もない人が一族や親族だから族滅されちゃうじゃん。ベニューって奴は最悪だな。
しかし当主と一部の人だけ処刑して族滅しなかったなんて、公爵も優しいところがあるんだな。結構非情な人かと思っていた。公爵を見る目が変わるよ。
「申し上げます。モンスターはガーゴイルです。ガーゴイルが数十体です。味方に大きな被害が出ています」
ガーゴイルは空を飛べるから城壁を飛び越えてきたのか。
「ガーゴイルであれば、一般兵では太刀打ちできぬ。バルカン、行ってくれるか」
「承知」
公爵の命令でバルカンがガーゴイルを撃退に向かおうとする。何か引っかかる。なんだ……?
「お待ちください」
「なんだ、フットシックル名誉男爵」
無意識に口が動いていた。自分自身が気味悪い。
「ガーゴイルは私たちが対処しましょう。バルカン様は公爵様のそばから離れないほうがいいと思います」
なんでこんなこと言っちゃったんだろうか? 俺の脳は何を考えているんだ?
「私もフットシックル名誉男爵に任せるのがよいと愚考いたします」
ザイゲンが俺に任せろと後押しする。
「……分かった。ガーゴイル退治はフットシックル名誉男爵に任せる。ロークは補佐をせよ」
「はっ」
ロークが敬礼し、俺の横に。
「ローク隊長。武器を貸してもらえますか」
「承知しました。こちらへ」
近くに居た騎士と兵士から、剣と槍を手に入れる。公爵家の騎士だけあって、良い剣を使っている。ガンダルバンだけは盾も借りたが、傷1つない綺麗なその盾がどうなるか……公爵に弁償してもらってくれ。
魔法使い系のジョブは少なく、戦力になるからアンネリーセとソリディアの杖は確保できなかった。杖がなくても魔法や呪術は使えるが、あったほうが威力が上がったりするので残念だ。
「行くぞ」
俺たちはモンスターが暴れる場所へ駆けた。今の俺のメインジョブは剣豪、サブジョブは暗殺者になっている。
見えてきた。ガーゴイルだ。レベルは20、こっちは22、あいつは25だ。ダンジョンよりレベルが高いだと?
「ダンジョンのモンスターよりも強そうだ。気をつけろ」
ロークが居るから明確にレベルの話はしないが、高いことを告げると皆が頷いた。分かってくれたようだ。
酷い状況だ。倒れて動かない騎士や兵士が20人くらい。怪我を負って仲間の手で後方へ下げられる者はもっと多い。
「ローク隊長。騎士たちを下げてもらえますか。それと今からソリディアが死霊を召喚します。それは味方なので攻撃しないように徹底してください」
「し、死霊ですか」
「詳しい話は後です。皆に徹底してください」
「承知しました」
ロークが大声を張り上げて、騎士たちを後方に下げる。あの巨躯から発せられる大声は、耳によく響く。
騎士たちが下がっていく。
「ガンダルバン、行くぞ」
「はっ!」
俺、ガンダルバン、ジョジョク、リン、ロザリナが突出する。
「サモン、ハイゴースト」
ソリディアは霊体族召喚でハイゴーストを3体召喚。
「眷属合成!」
ネクロマンサーLv20で覚えたスキル・眷属合成は、複数の眷属を合成することでより強力な眷属にすることができる。
現在の眷属合成(低)では3体の合成ができるが、強さは3倍にならないところが残念だ。
黒く透けた1メートル程の球体に短い手足があったハイゴーストが合成され、2メートル程になる。短い手足はそのままあるが、さらに目と口がついた姿になった。
まるで「ケタケタ」と笑っているような目と口だが、声は聞こえない。
3体のハイゴーストを合成した眷属は、ハイゴースト・オーバーという種族名になっている。レベルは35だ。合成したことでレベルも高くなっている。
「ハイゴースト・オーバー。凍てつく冷気!」
「………」
短い両手を上下に振ると、突風が吹きガーゴイルを凍りつかせていく。飛んでいたガーゴイルは凍りつき地面に墜落。
「ファイアストーム」
アンネリーセの魔法が発動。烈火が数体のガーゴイルを巻き込む。ガーゴイルが落ちて地面に激突。
落ちてきたガーゴイルを俺たちがボコって倒す。
これの繰り返しでガーゴイル30体を倒した。
「あああ……私のガーゴイルたちが。なんなんだお前たちは!?」
こいつがベニュー男爵か。神経質そうな細面の顔をしている30代の男だ。こんな奴が公爵に謀反? とてもそんな決断力があるようには思えないんだけど?
「この私がこんなところで。ああ、女神様。私をお守りください」
女神? 何を言っているんだ、こいつ。
「女神様、女神様、女神様、女神様、女神様、ああ、女神ーっ」
完全にぶっ飛んでるよ。頭が。
詳細鑑定で見てみると、ここにも居ましたよ……悪魔憑き。
衣服をぶち破るように筋肉が盛り上がって、大きくなっていく。
「こいつ、悪魔憑きか!?」
ロークが驚愕する。そんなに怒鳴らなくても分かっているよ。
「ガンダルバン。下級悪魔ジャミルLv35だ」
ロークたちには聞こえないように、ガンダルバンと肩を並べ囁く。
「承知」
前回戦った下級悪魔パティスよりもレベルは高いが、こいつも下級悪魔だ。
てかさ、下級悪魔憑きなのに、女神様ってなんだよ? 悪魔が女神を騙っていたわけか? 悪魔も布教活動が大変なんだな。
「ローク隊長。全員を避難させてください。守りながらは戦えませんから」
「は、はい。分かりました」
これでよし。嘘も方便。そしてリンに目で合図する。彼女なら悪魔に対して有効な聖属性の攻撃ができる。なんと言ってもリンは槍聖だからな。
下級悪魔ジャミルは下級悪魔パティスと同じような羊頭にゴリラの体、尻尾がありコウモリの翼を持っている。代わり映えしないことにがっかりだよ。
「オソレ オノノケ ワガ マエニ ヒザマヅケ」
「バカ言うな」
恐れおののいていたら、戦えないじゃないか。
剣で足を斬りつける。あまり切れ味のよい剣ではない。ミスリルの両手剣と比べたらダメだが、どうしても比べてしまう。
だが問題ない。前回の下級悪魔パティス並みにデカくレベルも高いが、俺たちもレベルが上がっているんだ。決して倒せない悪魔じゃない。
「ワイショウナ ニンゲンノ クセニ」
「お前はデカいだけの木偶の坊だろ」
口で応戦、剣で足を切る。
「アンガーロックッ」
ガンダルバンが敵対心を固定すると、すぐにアンネリーセの魔法が発動し炎に包まれる。
「アガガガッ オノレー キサマタチニ テンバツヲ アタエル!」
悪魔のくせに天罰とか頭大丈夫か?
下級悪魔ジャミルの周囲に魔法陣が浮かび上がる。そこから魔法生物が生み出される。ガーゴイルのような体だけど、ガーゴイルじゃない。人型のロボットチックな姿をした下級悪魔ジャミルと同じくらいの大きさの岩のゴーレムだ。レベルは25から30。それが10体生み出され、俺たちに襲いかかってくる。
「しゃらくせーっ」
ゴーレムのパンチを躱して、その腕を駆け上る。
ジャンプして剣をゴーレムの頭に振り下ろす。剣豪Lv20で覚えたパッシブスキルの兜割の効果でATK値2倍の効果が発動。ゴーレムの頭部を粉砕した。
剣で切ったのに、粉砕とか(笑)
ゴーレムのDEF値は高いが、剣豪のATK値はもっと高い。それが兜割の効果でATK値2倍だ。
「三連突きっ」
頭の再生を行うゴーレムに、リンのスキル・三連突きが放たれる。
その攻撃でゴーレムは再生が追いつかずHPがゼロになって、その場に崩れるように伏した。
ガーゴイルもそうだが、地上で現れる魔法生物は死体を残す。石のガーゴイルと岩のゴーレムが残っても邪魔なだけな気がするのは、俺だけだろうか?
俺たちは次々にゴーレムを倒していったが、その間に下級悪魔ジャミルは城の奥へと飛んでいってしまった。
「ガンダルバン。リンは連れていく。後は任せた」
「お任せください!」
ガンダルバンたちにゴーレムを任せて、俺はリンを連れて下級悪魔ジャミルを追った。
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