052_王女エルメルダの憂鬱
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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052_王女エルメルダの憂鬱
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勇者たちを労うパーティーを開きましたが、戦闘系ジョブを持つ方々の表情は二極化しています。
シンジ・アカバは剣士1人と2人だけのパーティーを組んでいますが、その剣士は目の周りや頬が窪み、病人のような顔をしています。シンジ・アカバが無茶なことを言って剣士を困らせているのでしょう。
剣士をそろそろ救済しなければいけませんね。それによってシンジ・アカバは孤立してしまうでしょうが、それは彼自身の招いたことです。受け入れてもらうしかないでしょう。
嵐の勇者ハヤテ・ウチダは5人パーティー、黄金の勇者サダオ・ツチイは7人パーティーですからシンジ・アカバのパーティーよりは安定しているようですが、それでもパーティーメンバーからギスギスした雰囲気が感じられます。
これら問題がある勇者のパーティーと違い、青海の勇者イツキ・ミズサワのパーティーは順調にダンジョン探索が進んでいます。
14人のパーティーで、荷物の運搬も話し合いで決めているようです。おそらく先の3勇者のパーティーの状況を見て、反面教師にしているのでしょう。
問題の3勇者パーティーには、期待が持てません。騎士団長や魔法師団長も色々手を尽くしているのですが、彼らは我が強くわたくしたちの言葉に耳を傾けてくださらないのです。
探索の成果でも差が出ていて、シンジ・アカバのパーティーは2階層、ハヤテ・ウチダとサダオ・ツチイのパーティーは3階層、イツキ・ミズサワのパーティーは4階層を探索しています。しかもイツキ・ミズサワのパーティーは次で4階層のボスに挑戦すると聞いています。
問題の3勇者パーティーはダンジョン探索を始めて2カ月程になりますが、イツキ・ミズサワのパーティーはまだ1カ月です。訓練をしっかり積んで、準備をした人とそうじゃない人の差がありありと出ています。
「シンジ・アカバのパーティーメンバーの剣士が心配です。しばらく休養させるように取り計らってください」
「承知しました」
騎士団長にそう指示してわたくしはパーティー会場を出ます。問題児たちのおかげで、苦情が色々来ていて対処しなければいけません。困ったものです。
ある日のこと、廊下を歩いているとシンジ・アカバがわたくしを呼び止めました。
呼び止めるのは構わないのですが、わたくしを呼び捨てにするのは止めていただきたい。これでもわたくし、王女ですから。
「なんでしょうか、シンジ・アカバ殿」
「タケヒコの野郎を休養だとか言って、オッサンが連れていったんだ? 俺はこれからダンジョンに行くんだ、タケヒコを返せよ」
シンジ・アカバがこのことで文句を言ってくるのは分かってました。
「彼には休養が必要だと判断しました。ダンジョン探索はしばらくお休みください」
「休養っていつまでだよ?」
「それは状況を見て判断します。当面は安静が必要です」
「っざけんなよっ。そんなんじゃ、ダンジョンに入れねぇじゃねぇか」
シンジ・アカバは床に唾をはき、大声で怒鳴り散らしました。これまでこうやって自分の思い通りにしてきたのでしょうが、国を動かすわたくしに恫喝は効果ありませんよ。そういったことは、いくらでも経験していますから。
「おい、代わりを用意しろよ」
「シンジ・アカバ殿とパーティーを組みたいと言う者はおりません。ご自分の行動の結果です。少しは改めてはどうかしら」
「俺が何をしようが、俺の勝手だ」
「タケヒコ・オオバ殿を巻き込むのはお止めなさい。また、シンジ・アカバ殿への苦情が多く来ています。今のまま言動を改めることをしなければ、いずれ牢の中で暮らすことになりますよ」
「けっ、説教なら他でやれ」
シンジ・アカバはわたくしに背中を向けて、肩を怒らせて歩いていきました。彼は言動を改めそうにありません。困ったものです。
「エルメルダ様。ガルドランド公爵閣下より火急の報告が届きましてございます」
わたくしが執務室に入ると、文官が封書を差し出してきました。
ガルドランド公爵家は王家に連なる名家。その力は王家にも匹敵するほどです。勇者召喚を行うのを反対されていましたので、今の勇者の噂を聞きつけて何か言ってきたのでしょうか。
憂鬱な気持ちで封書を開け、手紙を読みます。
「っ!?」
わたくしは思わず目を見開き、奥歯を噛んでしまいました。
「直ちに騎士団長と魔法師団長、各大臣を招集してください」
「は、はいっ」
手紙には悪魔が現れ、撃退したが行方は不明とありました。悪魔は聖属性を持ったものしか倒せません。それこそ勇者や聖騎士などの聖属性を持つジョブでないと倒せないのです。
父が病に倒れている時に……弟はまだ10歳。責任を負わすには過酷。ここはわたくしが踏ん張らないといけません。
騎士団長、魔法師団長、そして各大臣が集まり、ケルニッフィに悪魔が現れたことを話しました。
「悪魔を倒せていないにしても、撃退できたのはさすがガルドランド公爵家ですな。おそらくバルカン殿が撃退したのでしょう」
騎士団長が腕を組んでそう言いました。
「バルカン殿ではありません。最近ガルドランド公爵が名誉男爵に取り立てた方が悪魔を撃退されたそうです」
公爵からの手紙を騎士団長に渡します。
「まさかバルカン殿以外に悪魔を撃退できる者が居るとは……」
騎士団長が噛みしめるように呟きます。
王家に仕える者の中に、悪魔を退けることができる強者が何名居ることでしょう。騎士団長と魔法師団長はバルカン殿と同等の強さを持っていますが、あとはこの2人には劣る者が数名でしょうか。総勢で10人といったところですね。
本当でしたら勇者たちの名を挙げるのですが、彼らはまだレベルが低い。それに期待できるのはイツキ・ミズサワ殿とそのパーティーの数名のみ。
今は成長に期待するしかない状況です。見守りましょう。
手紙は騎士団長から魔法師団長、そして各大臣へと回ります。
「公爵家から各貴族へ警戒を促しておりますが、王家としても積極的に警戒を促すべきでしょう」
「魔法師団長の仰る通りです。これは王家が主導する案件にございます」
大臣たちが手分けして各貴族家に、悪魔が現れたと警戒を促すことになりました。
「その名誉男爵について、もう少し情報を集めましょう」
「いっそのこと、王都に呼んではいかがでしょうか?」
「名誉男爵を王都に呼べば、公爵殿が不機嫌になりましょう」
「そこは褒美を与えるとでも言えば、断ることはしないでしょう」
そうですね。その名誉男爵を王都に呼び、褒美を与えましょう。
「褒美は何が良いでしょうか?」
「爵位では公爵が良い顔をしないでしょうから、金銭か魔剣のようなものでは如何でしょうか」
「魔剣を与えましょう。宝物庫にいくつかあったでしょう」
「悪魔を退治したならともかく、撃退ですから宝剣を与える必要はございません。町で売っているもので、良いものを見繕って与えればよろしいでしょう」
「分かりました。それについては財務大臣に任せます」
「承知しました」
あとはそのフットシックル名誉男爵なる人物の情報を集めるよう指示し、会議は終了です。
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