040_シゴキ
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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040_シゴキ
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自分の屋敷の玄関ドアを開けたら、アンネリーセが飛びついてきた。柔らかいアンネリーセの体を受け止めて、OPPAIを触る。これはわざとではない。たまたまそこに手があり、OPPAIがあっただけだ。
「ご主人様……」
その後ろではロザリナと全使用人が待っていた。
夜遅くなったのに、帰りを待っていてくれたんだ。
「アンネリーセ、それに皆。ただいま」
全員の「おかえりなさい」の大合唱。この言葉がこんなに気持ちいいものだとは思わなかった。
「俺は大丈夫だ。ちゃんとここに帰ってきた」
そう言って使用人たちに寝るように促す。
「モンダルク。夜遅いところすまないが、少し話がある。リビングで待っていてくれ」
「承知しました」
俺から離れようとしないアンネリーセを見る。
「今日は遅いからアンネリーセも寝なさい」
「ご主人様と一緒がいいです」
「……分かった。リビングに行くから離れてくれるか」
「このままではいけませんか?」
うっ。そんな可愛い上目遣いされたら、断れないじゃないか。
「分かったよ」
まるで子供みたいだ。
「ロザリナは先に休みな」
「私もご主人様と一緒に居たいなのです」
ご主人様の言うことを聞こうとしない。俺の奴隷たちは困ったものだ。
2人を連れてリビングに入ると、モンダルクはハーブティーを淹れてくれた。
カフェインなしのハーブティーで緊張で凝り固まった体を柔らかく解す。
「美味いよ、モンダルク」
「ありがとう存じます」
モンダルクに座るように促し、俺は名誉男爵になったと語った。
「それはおめでとうございます」
めでたいのかな? 一般的にはめでたいんだろうな? 俺、一般じゃないのか?
「ご主人様。おめでとうございます!」
「おめでとうなのです。ご主人様」
アンネリーセとロザリナも喜んでくれているが、地雷のような気がするんだよな……。
公爵にいいように顎で使われる未来が見えるのは、俺だけだろうかな?
「今年中に騎士1人と兵士5人を雇わないといけないらしい。俺はこの土地に来てまだ日が浅い。そういった人材に心当たりもなければ、どういう人物がいいのかも分からない。モンダルクに心当たりはないか?」
「わたくしもこちらに来て日が経っておりませんが、騎士に1人だけ心当たりがございます」
「本当か。その人はどういった人なんだ?」
身を乗り出してその人物のことを聞くと、モンダルクはゴホンッと1回咳払いをする。それで俺も座り直し、ハーブティーを口に含んだ。
「わたくしと同じ国の出身で元々騎士をしていた者です。わけあってわたくし同様このケルニッフィに流れてきております」
元騎士なら、騎士の教育とか受けているだろう。人物さえ良ければ、雇いたい。
「人柄は?」
「真面目な人物です。真面目すぎて融通が利かないところがありますが、人間としては信用できる者です」
真面目は嫌いではない。だけど、何事も程度がある。度を越した真面目は害悪になる。
「その人物に会いたい。手配できるかな」
「承知いたしました。連絡いたします」
その人物で決まってくれればいいな。探索者の多くは他の公爵を始めとした貴族たちが唾をつけてるようだし、切羽詰まったらザイゲンに頼めばいいだろう。
「あと、貴族のことがまったく分からないんだ。この資料を読めと言われたけど、この中に書いてあることが全てではない。俺はそう思う。モンダルクが分かる範囲でいいから、貴族のことを教えてほしい」
「わたくしがどれほどのお力になれるか分かりませんが、全力でお手伝いさせていただきます」
「そうか。助かるよ」
今日は遅いから細かい話は明日城から帰ってきてからということになった。
さて、風呂に入って休むか。
アンネリーセが離れない。さすがにロザリナは風呂についてこなかったけど、アンネリーセは風呂にもついてきた。もちろん一緒に入ったよ。2人で体を洗いあいっこする。洗う目的でアンネリーセの体をくまなく触りまくる。
MIN値を一番高いエンチャンターに変えておいて良かった。俺の理性はMINに支えられていると感じたよ。
風呂場の外でロザリナは待っていた。一緒に入ればいいとは思わないが、寒いから部屋で待てばよかったのに。
寝る時は左にアンネリーセ、右にロザリナ。もっともこれはいつものこと。だけど今日は2人とも俺の腕にしがみつくように寝ている。
俺がバルカンに連れていかれたのが、とても怖く不安だったようだ。悪いことをしてしまった。
「俺はどこにも行かないよ」
「はい」
「はいなのです」
2人を腕枕して、髪を撫でる。
この2人を捨ててどこにも行かない。仮に逃げることになっても、2人は必ず連れていくから安心してくれ。
「ぐあ……」
地面に膝をつき、荒い息の俺。
こんなことになったのも、バルカンのせいだ。
「立て。立って剣を振れ」
なぜか俺は剣を振らされている。有無も言わさずというのは、このことだろう。
あれは紋章官と紋章を決めた直後だった、物凄い形相のバルカンが帰ろうとした俺の肩を掴んだんだ。
ドナドナされた俺は、いきなり剣を持たされバルカンに打ち込めと言われた。
あれからかれこれ3時間……。
「み、水を……」
「訓練中に水など飲まぬ」
お前は昭和のスポコンか!
「きゅ、休憩を……」
「休憩などしたら強くなれん」
レベル上げれば強くなれるだろ!
こいつ、完全に昭和スポコン野郎だ。いや、戦前の軍隊だ。
やっぱり俺はこいつに殺されるのか……。
いつの間にか気を失っていたようだ。
「っ!?」
起き上がると、体中が痛い。筋肉痛なんて何年ぶりだ?
腕プルプル、足ガクガク、ちょっと体を動かそうとしたら激痛が走る。
「起きたか。あの程度で倒れるとは情けない」
お前のような化け物とは違うんだよっ。
「それでは戦場で死んでしまうぞ」
戦場なんて出たくないよ。
「鍛えろ。さすれば、戦場でも生き残れる」
まさかとは思うが、俺のことを心配してるのか?
「さあ、続きをするぞ」
げっ!?
屋敷に帰った頃には夜になっていた。体中が痛くて、帰ってくるのにすごく時間がかかったよ。
バルカンの野郎め、いつか勝ってやる。絶対勝つ。そしてバルカンをぶっ飛ばす!
悔しいが、これは俺にない剣の腕を磨くのに丁度いい。レベル頼みではいつか頭打ちになりかねない。思わぬところで剣の訓練ができたと前向きに考えよう。
バルカンのような奴は、レベル以上の力を持っていそうだからレベルに依存しない地力をつけてやる。そしてあの化け物に勝って地面を舐めさせてやる。
「ご主人様。お帰りなさいませ」
「お帰りなのです」
「ただいま」
倒れそうになった俺を2人が支えてくれた。
「どうしたのですか?」
「大丈夫なのですか?」
「バルカンの野郎にしごかれただけだ。筋肉痛が酷いだけだよ」
モンダルクが音もなく近づいてきて一礼する。
「お風呂の支度が整っております。お入りください」
「助かるよ」
できる執事は分かっているね。風呂に入って筋肉疲労を少しでも癒したかったところだ。
2人に支えられて風呂場へ。服を脱ぐのを2人に手伝ってもらう。当然のように服を脱ぐアンネリーセと、外に出ていくロザリナ。
手を伸ばせばアンネリーセのきめ細やかな肌に触れられる。悪魔(右手)と天使(左手)が鬩ぎあう。
「どうしたのですか、ご主人様?」
右手を止める左手を見て、アンネリーセが不思議そうにしている。
「な、なんでもない。体中が痛いだけだ」
「そうですか。では、お支えしますね」
ボインッ。ムニュッ。
OPPAIが当たってます! 2つの大きなOPPAIが俺を支える。柔らかな肌の感触が、OPPAIの感触が、俺の脳内を侵食していく。
体を洗ってもらうのだが、アンネリーセはいつも以上に積極的だ。いかん、いかんぞ。息子が元気過ぎて、爆発しそうだ。
「ご主人様……前を洗います」
「お、おぅ……」
石鹸がないからお湯をかけて丁寧に洗ってくれるんだが、息子を丁寧にされると本当に困る。この暴発しそうなエネルギーをどうすればいいのだろうか!?
そうだ! 他のことを考えよう!
今日決めてきた紋章のことを考えよう。
公爵家の紋章は2体のドラゴンが向かい合って竜玉を掴んでいるものだった。公爵麾下の貴族で侯爵や伯爵はドラゴンが1体で、何かアクセントをつけている。子爵と男爵はオオカミやトラを使うデザインが多い。準貴族の騎士は剣、槍、盾が多かった。
俺は植物の藤を使った。日本で俺の家の家紋は藤が使われていた。あの勇者たちが俺の家の家紋を知るわけないだろうから、まったく一緒ではないけど藤が左右に垂れているものにした。
藤を紋章に使っている貴族は居ない。紋章官は藤のことさえ知らなかったし、植物を紋章に使う貴族は少ないからかなり珍しいと言われた。
風呂から上がって、紋章のデザインをモンダルクに渡した。屋敷の門のところにこの紋章を掲げるらしい。他にも騎士や兵士の鎧などにも紋章を入れたりするらしい。色々なところで紋章が使われるんだとか。
あと、石鹸作ろう。理科の授業で作ったことあるから、材料は覚えている。できるはずだ。
やっぱり風呂には石鹸が要る。清潔な生活をするのに、石鹸は必要なものだ。
転生18日目の昼は散々な日だったが、最後は良い日だったよ……。
ご愛読ありがとうございます。
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