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039_名誉男爵の薦め

 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

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 039_名誉男爵の薦め

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 目の前には気難しそうな眉間のシワと、鋭い視線を持つ公爵家家宰ザイゲン。

 その横には極悪非道な盗賊も裸足で逃げ出すであろう公爵家騎士団長バルカン。

 ザイゲンのほうは分かるけど、なんでバルカンも居るんだ?


「まず、名誉男爵というものを理解してもらう。名誉貴族は一代限りの貴族位だ。よってトーイ殿の子孫に引き継がれるものではない」

 俺自身も貴族位なんて要らないんですけど。


 くすんだ金髪に白髪が混じるザイゲンは、どさりと20センチくらいある紙の束をテーブルに置いた。

「これは持ち帰って全てに目を通してもらうが、重要なところだけはここで説明する」

 これを全部読めと!? 厚さが20センチもあるんだよ!? ゲームのペラペラな取説でさえ読まない俺なのに……。

 救いは紙が羊皮紙のような厚手の皮紙の束だということか。100枚はないと思いたい。


「爵位としては男爵と同じ権限と責任を持つ」

 権限と責任……。大げさな表現だけど、そう言うからには何か面倒なことが含まれているんですよね。


「公爵家の有事の際には、何をおいても駆けつけてもらう」

「有事というのは、どんなことでしょうか」

「戦争、大規模な盗賊討伐などだ。あとは大評議会が年に2回、定期的に行われるものだから予定は事前に決まっている」

 その大評議会の内容を聞きたいんだけど。


「年初に行われる大評議会は、公爵家における昨年の総括、そして新しい年の新方針を公爵閣下が発表される」

 何その難しそうな内容。そんなものに出席しても、俺には何もできませんけど。


「晩夏から初秋に行われる大評議会は、中間発表のようなものだ。これらは公爵家に仕える全貴族に出席が義務付けられている」

「私は公爵様の発表を聞くだけでしょうか?」

「次に行われる年初の大評議会では、新しい貴族として自己紹介をしてもらうことになる」

 うげ、マジか。自己紹介なんてできないぞ、俺。異世界から転生しましたトーイです! なんて言えるわけないじゃん!


「自己紹介後は、意見を求められない限り発言しなくてもいい」

 意見を求められたら喋れということですね! なんだか意見を求められそうな、嫌な予感。


「あとは不定期に発生することから、その時にこちらから連絡する」

「あの、探索者としての活動をしてもいいですか?」

 ダンジョンに入ってレベル上げできないなら、完全拒否するよ。

「今のところトーイ殿に役職はないから問題ない」


 拒否しても押しつける感じだったからもらったけど、公爵側は俺のことをよく調べているようだ。逃げても良かったが、これだけ調べられていると無理ではないにしても、厳しいものになるんだろうな。


 逃げたら、少なくともこの国では生きていけなくなる。他国に逃げても良いが、それは最後の手段だ。我慢できることはして、できなくなったら逃げるなり公爵を追い込むなりすればいい。それまでに公爵を追い込む力を蓄えよう。


 幸い、ダンジョンには入れるようだから、レベル上げできる。暗殺者のレベルを上げて公爵はもちろんのこと、バルカンに気づかれないようになりたい。かなりレベルを上げないといけないけど、今のところ実害はなさそうだから問題ない。


「名誉男爵には年間1200万グリルの俸給が与えられる。役目に就いた場合は、その役職手当もつく」

 1200万グリルって1億2000万円かよ。そんな大金を大評議会に2回出席するだけでもらえるのか。貴族ってパネェな。


「通常、屋敷はこちらで手配するが、今トーイ殿が住んでいる屋敷を買い上げて与えるように手配する。それでいいか?」

「屋敷まで……いいのですか?」

 あの口ぶりから色々調べていると思っていたけど、屋敷の場所くらい把握しているよね。借家ってことも。

 はてさて、どこまで俺のことを調べているのか?


「他の貴族家にも同じことをしているから問題ない。それにトーイ殿が住む屋敷の規模は、男爵として相応のものだ。ただし他の屋敷を買う場合は、自分で購入してもらう。公爵家が与えるのは、あくまでも1軒だけだ」

 別荘買いたいから金出してなんて、普通は言わないよね。


「俸給は毎年年初に一括で支払われる。男爵は年間1200万グリルを与えるが、今年はあと2カ月を残すのみのだから月割りの200万グリルと、支度金100万グリルを渡しておく」

 この世界でも1年は12カ月で、月当たりの俸給は100万グリルになる。残り2カ月だから200万グリル。そして支度金の100万グリルを合わせた300万グリルが入った革袋がテーブルの上に置かれた。


 もらったら最後、もう逃げられない。公爵が無茶ぶりしなければ逃げるつもりはないけど、紐付きになった気分だ。公爵としては、紐付きにするのが目的なんだと思うけど。


「トーイ殿が雇う使用人と騎士、兵士について、その俸給で賄ってもらう。男爵は最低1人の騎士と5人の兵士を雇う義務が発生する」

 使用人はともかく、騎士と兵士を雇うなんて初めて聞いたんですけど!?


「トーイ殿は探索者であり、他の土地から流れてきたようだから、既知の者が少ないだろう。必要であれば騎士と兵士はこちらで紹介しよう。今すぐ決めろとは言わぬ。今年中に雇うようにしてくれ」

 2カ月で騎士と兵士を雇えと言うのか。紹介してもらおうかな……。いや、まずは帰ってモンダルクに相談してみよう。モンダルクは貴族に仕えていたと言っていたから、そういうことに詳しいはずだ。


「細かいことは資料をしっかり読んで頭に入れてもらうが、まずは家名を10日以内に決めてくれ」

「家名……ですか」

「貴族には家名が必要だ。そして紋章だな。紋章は他で使われていないものをデザインしてもらう。明日の朝、またここに来てくれ。紋章官に引き合わせよう」


 オリンピックの銀メダルのような、シルバーのメダルがテーブルの上に置かれた。

「ガルドランド公爵家の臣下の身分を証明するメダルだ。どこへ行ってもそれを出せば、ガルドランド公爵麾下の名誉男爵だと証明できる。それを失くした場合、爵位の没収だけでなく厳しい処分が言い渡される。肌身離さず所持するように」

 失くしたら爵位の没収と聞いて心躍ったが、プラスアルファの処分があるのかよ。ちっ。


「さて、最後に……貴族は特権を与えられているが、それは罪を犯してもいいということではない。逆に厳しく処罰されることになる。特権を持つがゆえに、平民に範を垂れるのだ。それを決して忘れぬように」

 犯罪者になる気はない。この世界はレコードカードで簡単に犯罪歴が確認できる。犯罪者は一生犯罪者として生きていかないといけないのだ。


 特権の話が出たから、あのことを確認するか。

 貴族の特権で支配奴隷を解放できないかと思ったんだ。刑期を決めているのは貴族のはず。だったら刑期を軽減できるんじゃないかと。


「質問はあるかね?」

「支配奴隷の解放はできますか?」

 その質問に、ザイゲンの眉間のシワが深くなる。そんなに嫌な目をしないでよ、クズは解放しないから。


「重犯罪者でなければ、トーイ殿がその後の行動を保証するということで解放は可能だ」

「重犯罪者……」

「等級で言うと、1級と2級犯罪者だ。つまり3級以下の犯罪者は解放可能である」

 たしかアンネリーセは2級犯罪者だったはず。事故だったけど、被害が大きかったのが痛い。それくらいしか使い道のない特権なのに、この特権で解放できないのはとても残念だ。

 アンネリーセを解放することで割り切ろうと思ったけど、無駄なものをもらってしまった……。


「トーイ殿の魔法使いの奴隷は支配奴隷だったな」

「はい。彼女はダンジョンで呪いを受けて、その呪いを解く研究をしていて事故を起こしました。情状酌量の余地はあると思ったのです」

「ほう、呪いを……それはどんな呪いなのだ?」

「年齢に300歳加算される呪いです。彼女はハーフエルフだから生きていましたが、ヒューマンなら呪いにかかった瞬間に死んでいたでしょう」

「なるほど……300歳か……」

 ザイゲンはブツブツ言って考えに耽った。


 どうでもいいが、バルカンは喋らないのか? 何もせずにそこに居るだけなの?

 バルカンはただジッと俺の顔を見つめている。俺、そっちの気はないからね。


「ふむ。その件は公爵閣下に伝えておこう」

「え!?」

「呪いが原因なら情状酌量も考えられる。もっとも被害者にとっては納得できるものではないため、公爵閣下がどのような判断を下すかは私にも分からぬ」

 それでも奴隷から解放される可能性があるのでしょう。それだけでも希望があるってことですよね!


「ああ、奴隷で思い出したが、シャルディナのことだ」

 シャルディナって、あの婆さんか。婆さんがどうしたの?


「シャルディナは1級の支配奴隷として鉱山に送られることになった」

 シャルディナの犯罪歴の記載は犯罪のオンパレードだった。殺人や詐欺、強盗、放火、なんでもござれだ。しかも女なのに、強姦まであった。

 そんなシャルディナだけど、死刑じゃないんだね。


「鉱山に送られたほうが、長く苦しみを与えられるという判断だ」

 過酷な労働環境で使い潰すわけか。自業自得、因果応報といったところだな。


「それをなぜ私に?」

 言っておくけど、俺はとぼけるからね。


「ふっ。特に他意はない」

 それでザイゲンの話は終わった。

 さて、バルカンはなんのためにここにいる?


「バルカン殿から何かあるかね?」

「明日紋章を決めた後、訓練場に」

「公爵様にも言いましたが、私は戦えませんので」

「戯言はいい。必ず来い」

 ガバッと立ち上がって部屋を出ていく巨躯。俺は呆然だよ。明日死んじゃうのかな?


「まったくバルカン殿にも困ったものだ……」

「行かなきゃダメでしょうか?」

 ザイゲンが目頭を押さえてから、俺を見る。もったいぶるなよ、心配で心臓麻痺起こしそうだよ。


「行かねば、屋敷まで押しかけると思うぞ」

「……それは勘弁してほしいですね」

 今夜の内に夜逃げしようかな。


 

ご愛読ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >数百数千の部下の全てを管理できる政治家ばかりなら秘書がやりましたという逃げ口上はなくなるでしょう。 >きっかけがあって摘発する。それが普通じゃないでしょうか。 >完璧な統治なんてでき…
[一言] なぜ公爵に貴族の任命権が... この世界の貴族は一体誰に仕えているのだ...
[良い点] バルカンすこ(*´ω`*)
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