031_シャルディナ盗賊団壊滅作戦(一章・完)
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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031_シャルディナ盗賊団壊滅作戦(一章・完)
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ゴルテオさんが手配してくれた馬車で家に向かったが、想像以上にデカかった。家という規模ではない。本当に屋敷だ。
「これを5人で管理するのは無理だろ……」
10人くらい人が要ると思うくらい大きな屋敷だった。
「使用されるお部屋を優先的に管理いたします。料理はわたくしとメルリスがお作りします。ジュエルはお風呂と庭の管理をさせます。あとの2人には我らで手が届かないところを補ってもらうようにいたします」
「よく分からないから、5人でできることを無理せずにお願いするよ。手が足りなかったら言ってくれるかな。できる限りのことはするから」
「承知いたしました」
なんなら料理は任せてくれていいよ。得意だし。
ゴルテオさんのほうで屋敷の掃除は済ませてくれていた。家具も一通りは揃っている。以前の持ち主が残していったものらしい。
魔石はダンジョンで手に入れたものがあるから、それをモンダルクに渡しておく。当分の運営費も渡しておく。
「あと必要なものは何かな?」
「旦那様と奥様方の料理の好みをお聞かせください」
「「奥様!?」」
モンダルクがアンネリーセとロザリナを奥様と呼ぶから、2人が真っ赤になった。俺はそれでもいいけど、2人の意志は大事だと思うよ。
「俺は好き嫌いないよ」
「奥様方はいかがでしょうか?」
手をバタバタさせた2人が可愛い。2人も好き嫌いはなく、なんでも食べる。
「夕食の準備をいたします。少々お待ちください」
「食料なんてあるの?」
今来たばかりだよ?
「ある程度の食材は、ゴルテオ様がご用意してくださいました」
なんともゴルテオさんらしい心遣いだ。足を向けて寝られないな。
モンダルクと妻のメルリスが作った料理はとても美味しかった。一流の料理人にも引けはとらないと思う。
「俺は出かけてくるから、皆は寝ておいてくれていいからね」
特にアンネリーセとロザリナは起きて待ってなくていいからな。
自分の屋敷を出てシャルディナ盗賊団の屋敷に向かった。
途中、至る所で兵士を見た。いくつもの部隊に分かれて、各盗賊団のアジトを取り囲んでいるようだ。
そんな中を進んでいると、喧騒が聞こえてきた。それを合図に兵士たちが動き出した。一斉摘発が始まったようだ。
あの公爵、動きが速い。まさかその日のうちに踏み込むとは思ってもいなかった。
シャルディナ盗賊団の屋敷も多くの兵士が盗賊と戦っている。盗賊は弱いから数が同じなら兵士たちのほうが有利に戦える。
だけど盗賊も地の利を生かして戦っている。戦局は兵士たちが少し有利な感じで大きく上回っているわけではない。
そんな屋敷内に入り込んで奥へと向かう。
途中、兵士が危なそうな場面を何度か見たから、足を盗賊に引っかけておいた。この程度だと隠密が切れることはない。
盗賊も兵士も何が起きたのか分かっていなかったが、それを無視して奥へと進んだ。
シャルディナ婆さんは相変わらず厚化粧だ。兵士たちの急襲を受けて、その厚化粧にヒビが入りそうなくらい顔を歪めている。
パイプをぷかぷかと何度もふかし、貧乏ゆすりも激しい。
心配なんだろ? 盗賊なんかするから、怯えて暮らさなければいけないんだ。そろそろ観念して、大人しく捕まったらいい。そうすれば、いつ捕まるかと怯えて暮らさなくていいんだぞ。
もっともすぐに死が訪れるかもしれないけどね。
今日でシャルディナ盗賊団を壊滅させる。そのためなら、俺はなんでもするつもりだ。
盗賊でも死刑は滅多にないらしいけど、奴隷に落とされても鉱山のような過酷な場所でシャルディナのような老婆が生きていけるとは思えない。だから今のうちにこの世と別れを惜しんでおくといい。
「あいつらは何をしてるんだい、こんなところまで入り込まれて。なんのために飼ってやっているか、分かっているのかい!」
あいつらというのは、周囲に配置している盗賊たちのことだろう。その拠点も兵士が踏み込んでいるから、こっちに応援に来る余裕なんてないはずだ。
「全部のアジトに兵士の手が回っています」
「なんてザマだよ。これじゃあ、世の中のいい笑い者じゃないか」
盗賊なのに偉そうにしていることが笑い者だと思うよ。
そこに1人の盗賊が駆け込んできた。
「お頭!」
「うるさいね、なんだい」
「ば、バルカンだ。バルカンが出張ってきてます!」
「ちっ、面倒な……」
厚化粧にピキッとヒビが走った。
「お頭、いけませんぜ。あいつだけはヤバい」
「分かってるよ、そんなこと」
バルカンは盗賊にも恐れられているようだ。あの人、怖いもんなー。背筋が凍りつくっていうのは本当だよね。
「あいつが来たんじゃ、仕方ないね」
シャルディナが立ち上がる。パイプがカランッと甲高い音を立てて床に落ちる。
「ずらかるよっ!」
決断早っ。
「「「へい!」」」
このアジトを放棄して逃げるようだ。清々しいまでにあっさりしている。盗賊でもここまでのし上がるには、こういう判断力が要るんだろうな。その才能を他のことに使えば良かったのに。商人なんかしたら、ゴルテオさんも真っ青な豪商になっていたんじゃないか。
盗賊の1人が壁のランプに手をかけて引いた。持つんじゃなく、引いた。壁からランプが50センチくらい離れ、そこにロープが繋がっている。
壁がガガガッと開く。金がかかっていそうな仕掛けだ。その先はあの黒金貨が詰まった革袋が保管されている部屋だ。
シャルディナが肩を怒らせて中に入って行く。また厚化粧にヒビが……。ヒビがどんどん大きくなっていく。
隠し部屋に入ったシャルディナがキョロキョロする。どうした?
「ないっ。名簿がない!」
ああ、名簿を探していたのか。俺が回収して今は公爵が持っているあれだ。
「バカなっ。どうやって名簿を」
シャルディナが酷く焦っている。厚化粧のヒビが大きくなって、ポロポロとカスが落ちている。
「お頭、早く逃げましょう」
「くそっ! 裏切り者は絶対に許さないよ!」
先程と同じようなランプを、盗賊が引っ張る。
今度は床が開いていき、階段が現れた。こんなギミックがあったとは……。ここはお宝を貯めておく場所だけじゃなく、逃げるための場所なのか。金かけてるな……。そんなことに金をかけなくても、盗みを止めればいいのに……。
盗賊たちは黒金貨が詰まった革袋を重そうに肩に担いで、階段を下りて行く。マジックアイテムも持てるだけ持って行く。必死だな。
シャルディナは持たないのか。年よりがあんな重いものを持ったら、ぎっくり腰になってしまいそうだからかな。
さすがに名簿にはこんな通路のことは書いてなかったから、このままではシャルディナが逃げてしまう。
しょうがない。俺がなんとかするか。
階段はかなり長く、おそらく地下へと下りていると思う。通路は真っ暗で一番前の盗賊だけランプを持っている。シャルディナはその後ろを偉そうに歩いていく。
一番後ろの盗賊の喉を、短剣でかき切る。急所突きと隠密の組み合わせにより確実にクリティカルが発生して、短剣でも一気にHPがゼロになる。
隠密が切れるが、すぐに発動し直す。真っ暗だし気づかれてないだろう。
気づかれないまま2人、3人と盗賊を殺していく。
まったくなんで俺が暗殺者のようなことをしなければいけないのか。あ、今は暗殺者だった。
相手が盗賊でも人殺しはしたくないが、今はそうも言ってられない。シャルディナたちを逃がすと、もっと多くの人が泣くことになる。それなら俺がこいつらを殺そう。
通路に死体が増え、俺は徐々にシャルディナに近づいていく。地下通路を200メートルくらい歩いたか、上り階段が出てきた。
「裏切り者を必ず始末してやるからね」
そう言いながら振り向いたシャルディナの目が見開かれる。
「誰も居ないじゃないか!?」
通路は真っ暗だから盗賊の死体は見えない。ただし、シャルディナは間違っている。シャルディナには見えないが、間違いなく俺が居るからだ。
「お、お頭……あいつらは……?」
「あたしが知るわけないだろ! それよりも早く上りな!」
「へ、へい!」
階段を上り切った先は、ちょっとした民家のようだ。
そこで最後の盗賊の喉を切り裂き、ドサッと倒れる。その音を聞いて振り返ったシャルディナが歯を噛む。
「どこのどいつだい!?」
俺はすでに隠密を発動させていて、シャルディナの目には映っていない。
「このあたしをシャルディナと知ってのことだろうね!?」
知っているに決まっている。俺の安寧を邪魔する大元なんだから。
「あたしにこんなことしてただで済むと思っているのかい!?」
ギャーギャー喚いてうるさい。これ、聞かなきゃダメ?
後方に回り込んでクビに手刀を入れる。
「うっ……」
どさりと倒れたシャルディナの厚化粧がバリンッと割れた。シワが目立つ肌が露出する。これがシャルディナ本来の肌か。見たくもなかった。
しかし人生初のクビトンだが、成功した。やってみるものだな。
殺しはしない。気絶させるだけにとどめる。こいつは公爵に引き渡す。罪を償ってもらう。滅多に死刑はないらしいが、こいつは死刑かもしれない。どの道、犯罪奴隷になっても長くないだろう。
あっけない幕切れだった。もう少し手古摺ると思っていただけに、拍子抜けだ。これも公爵が俺の思惑以上の動きをしてくれたおかげだな。
こうやってシャルディナ盗賊団を壊滅させる手助けをしたんだから、感謝はしても恩は感じない。Win-Winの関係だね。
さて、ロープでぐるぐる巻きにして、「シャルディナです」と張り紙をしておく。ついでに虐殺者のウパスたち5人の死体もここに置いていこう。アイテムボックスを5枠も使うから邪魔なんだよ、あいつらの死体。
「これでよし」
あとはバルカンに発見してもらうだけなんだけど……お、俺が動く必要はなかったな。
階段を上がってくる足音が聞こえる。それが盗賊なら倒すが、多分兵士だろう。
俺は家のドアを開けて外から様子を窺った。
「これはっ!?」
階段から上がってきたのは、やはり兵士だった。
「団長! バルカン団長!」
兵士がバルカンを呼び、その顔が階段から現れる。相変わらず、刺すような気配を纏っている化け物だ。
「これはお前が?」
「いえ、私がここに来た時にはもう」
「……そうか」
バルカンが視線を彷徨わせる。俺を捜しているようだが、あんな化け物に近づくわけない。
それに俺の目的は果たされた。
速やかに離脱し、バルカンから離れる。
ここまでお読みくださりありがとうございました。
本話で一章完結です。二章も読んでくださいね。
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閑話、キャラ、設定を挟んで二章開始します。