続17話 開園です。<四領会議>
「医者?」
その日の夕食後。寛いでいる侯爵夫妻の部屋にお邪魔し、医者を紹介してもらえないかの相談をした。
現在うちには治癒術を使えるのが私だけ。薬草班は症状に対しての薬の調合はお手の物だけれど、手術は出来ない。
私がいない時の為に医者が欲しい。
手術道具なんかは自作ができるだろうけど、技術は教わらなければいけない。私が習ってもいいけど、あと二、三人はやっぱり必要だ。
王都からスカウトするか考えたが、彼らの望む給金を約束出来るかは怪しい。というか金額によってはぶっ飛ばしてしまう恐れがある。交渉次第だろうけど、そんな問題を起こすなら時間が掛かっても教わった方が良いかもしれないとなった。
一応自薦で四名。
男子はヨール、ザイン。共に22才。狩猟班に所属してるけど計算も強いのでよく買い出し班に混ざってる。もちろん一座でも剣舞を担当。
女子はミズリ、リズ。こちらは共に21才。侍女として働いていながら一座でも歌っている。とにかくこの二人は咄嗟の行動が早い。そして解体も平気で眺め、時には解体に参加する強者女子だ。
ちなみに皆独身。
リズさんなんかは王都で恋人を探す!なんて不純極まりない動機だけども、彼女の人生なのでまあ良しとする。
「四人が一緒ならいいのですけど、一人ずつになってもいいです。どなたかご紹介をいただけませんか?」
この国では医者になるにはまず弟子入りしなければならない。一年雑用で二年目から助手になり、三年で執刀を始める。更に一~二年かけて独立する。
らしい。
医大に行くより独立が早いな・・・なのに王都に集中するのはやっぱり物資が足りないからか・・・
「うちの掛かり付け医なら、いけるか?」
「ならば私も一人、心当たりがありますよ。問い合わせてみましょう」
侯爵夫妻が快く受けてくれた。
ありがとうございます!
修行先、二ヵ所ゲットできますように!
***
ホテルの正面に作ったステージでのオープニングセレモニー。
王都までの街道沿いの領地からほとんど出席してもらえた。
街道が新しくなって加減が掴めず、昨日の内に着いてしまった方々にはホテルに泊まってもらった。
すでに来ていた侯爵夫妻にびっくりしつつも、そこそこ寛いでもらえたよう。
うちの料理は朝から美味しいでしょう? ふふん。
ホテルは別棟を追加。
本館は五階建て、約十五畳の二部屋リビング・トイレ洗面所風呂付きが十二室。
一号館は五階建て、約十畳一部屋リビングが二十四室、トイレと洗面所は各階に五人ずつ使えるように設置。一階には、本館と二号館にお泊まりの人も使える男女別大風呂。
まあ、一般人ファミリー向けを想定。
二号館はカプセルホテルの様な感じの一人用専用。だけど、避難路の確保のため廊下は広めにとっている。縦二畳分の細長いへやが百六十室。部屋数が多いので二号館は二階建てに。トイレと洗面所は各階五人ずつ使えるものを二ヵ所に設置。
エレベーターは二十人載りで、本館と一号館だけ。避難路の確保に外階段を建物ごと二ヵ所ずつ取り付けた。特に本館は一階に調理場があるので何度か避難訓練をしてみた。
二号館も、中階段二ヵ所、外階段三ヶ所の設置。まあ、二階から飛び降りても捻挫くらいかと思うけど、子供がいた場合は無理だろう。親一人子一人なら横になれる部屋だからね。子供一人の場合は応相談。それがどんな状況かは謎だけど。
食事所は基本本館五階。
足りない時は外で屋台を出すことに。串焼き、ホットドッグ、ごった煮スープがメインメニュー。おにぎりも出したいところだけど、米はそこまで蓄えてないのでカット。
屋外用の折り畳み机と椅子も製作。
とりあえず、思い付く限りの物を用意してみた。
侯爵の挨拶も含め、五分で終了したセレモニーに呆気にとられた皆さんを遊具へ誘導。だってほとんどの人は道路整備の時に顔を合わせているし、昨日の内にも挨拶出来た。
遊んだ感想を早く聞きたい。
まだどの遊具も動かしてないので最初はうちの子たちが見本となり、その様子を見てもらう。
子供たちは慣れているからとても楽しそうに乗る。
で、初お客の番。
ぎゃああああああああっ!!
絶叫が響き渡った。
合掌。
「こんなに面白いとは思わなかった!」
バンクス子爵の息子さん、ブライアンさん(推定40才)が息を弾ませて私の方へ来た。おお、笑ってる。
「こんな事なら妻と子供たちも連れて来るんだった。失敗した」
「楽しんでもらえたなら嬉しいです。お暇ができましたら皆さんでいらして下さい」
今日、バンクス領からの出席は子爵とブライアンさんだけ。
どこの領地も少数で来ている。領地を空にはできないもんね。
王都に近い領地からは、お抱えの商人と来ていたりもする。
大きい商店なら単独で来ていたり。
バンクス領、そのお隣のカーディフ領、ダルトリー領とはこの後、遊園地その他の値段についての打ち合わせをすることになっている。
あんまり安いとうちが立ち行かなくなるし、逆に高いと一般農民が遊びにくい。
近所にある遊園地で遊べないなんて、そんな悲しい事は嫌だわ。
これから先、食料や宿の提携を頼むことになるので、それを見越しての値段に設定したい。
まあ、とにかくまずは遊んで楽しんで下さいと送り出し、ブライアンさんが一番に終わったようだ。子爵はまだ遊んでるのか・・・元気な人だな。
「じぇっとこーすたーか?凄いなあれは! 高いのと速いのと恐ろしくてつい叫んでしまった。あっという間に終わるのだが、不思議とまた乗りたくなる」
一通り乗った物の感想をくれる。真面目!真面目だよこの人! 見た目ガッチリなのにインテリだ。
「は~、やれやれだ。サレスティア嬢はとんでもない物を作ったな~」
カーディフ男爵領当主、セドリックさん(推定30才、チャラ男)もやって来た。ここは前当主一家が奴隷売買に関わっていたので、外縁のセドリックさんが継承。うん、ちょっとやり辛い。
今日はマークとルルーが私に付いている。ルルーに皆の分の飲み物を頼む。
「どれもこれも面白いですね! 一日遊んでいられます!」
ダルトリー男爵領次期当主、ドナルドさん(推定25才、ほんわりインテリ)も来た。
私たちは今、ステージの観客席にいる。
救護所でも良かった気もするけど、騒がしい所よりはいいかなとのことでこちらに集合。ここなら何となく全体が見えるしね。
ちなみに皆既婚である。でも奥さんを連れて来たのはドナルドさんだけ。奥さんは一座のケモ耳の子供たちがお気に入りで、ドナルドさんを引きずって来た。見た目に反したパワフル奥さん。素敵。
まず私の希望する金額を提示する。と、すぐに安過ぎる!と言われた。
え、そう?
「サレスティア嬢、この施設を農民たちを基準に考えるのは勿体無い」
「俺もそれは同意見だよ。持ってる奴から落としてもらった方が採算が取れる」
「そうですね。遊具もそうですが宿も素晴らしいし食事もとても美味しかったです。こう言ってはなんですが、たくさんのお客を迎えようとするならば、礼儀あるお客ばかりではないという事も経営に盛り込まなければいけません。迷惑料も含めましょう」
なるほど。
「今日こうして経験して思ったが、これではバンクス領に足を止める人はいなくなるだろう」
「それは我がカーディフ領も同じだ。参ったね~」
「ダルトリー領は一泊を考える距離になるか素通りするか、悩ましい所ですね」
え~と。
「道路整備、早まったのでしょうか・・・?」
ブライアンさんが苦笑した。
「我々というかバンクス領ではそう思うが、王命だから仕方がない。現在目立つ不安要素がそれであって、これからどうなるかはわからない」
「まあ正直に言えば、カーディフ領では現在、道路整備の為の予算が取れないからね。ドロードラング領だけで受けてくれたのは助かったよ」
「ダルトリー領でも去年の不作がまだ響いてまして、道路整備は感謝してます。しかしあんな風に魔法を使うとは本当に驚きました。あ!すみません!値段設定でしたね!」
魔法の事になると大人の男でもキラキラし出すんだよな~。
夢はあるよね~。
「とりあえず、わかりやすい格差として宿を三つに分けました。全ての建物をご覧になりましたか?」
「見ました! どの建物も素晴らしいですが、二号館の造りは感動しました! あの宿はうちでも真似したいです!」
あ、設計図見ます?
「確かに二号館のような造りであれば、食事は外に出ることになるからな、既存の食堂を使える」
「俺はあの大風呂が良かった! 欲しいわ~。維持がとんでもない事になるから造らんけど」
「何が問題になるかと言うなら、貴族の態度だな」
「そうだな~。サレスティア嬢が想定しているより横柄だぞ?」
「え、そうなんですか?」
「そうですね。こう言ってはなんですが、我々は田舎者ですから農民との距離が近いことは苦になりません。ですが、王都に近いとどうしてもそういう人は多くなります」
「代々高位の方々とかな。そういう意味ではラトルジン侯爵は異常だ」
ブライアンさんがしみじみと言う。
「あ、やっぱり! 侯爵優しいんですよね。私みたいな小娘でもきちんと話を聞いてくださるんです。侯爵夫人もそうなんです。貴重な方々なんですね」
全員しみじみと頷く。
「俺も侯爵の様に在りたいとは思うが、田舎ではそうそう必要も無い。ちょっと横柄な態度をとれば赤ん坊の頃の話まで持ち出されるからな。領民には敵わん」
「はっはっは!いいね!バンクス領! 俺なんか突然の襲爵だったからな。今、礼儀を勉強中だよ~」
「私も勉強中です。特に妻が厳しくて」
へぇ意外。ドナルドさんの奥さんて朗らかな感じなのに。
「ドナルド君とこも? うちも奥さんが礼儀には特に厳しくてさ~。わかってはいるんだけど、今回は息抜きだよ」
「まあ、突然なら難しいこともあるだろう」
「あ~、ブライアンさん優しい~! 俺、ブライアンさんを目指そうかな~」
「ぶふっ! 頑張って下さい・・・」
「ちょっと、嬢。・・・ふっ!自分でも笑うわ~」
四人で笑った。