続続14話 白虎です。<抱っこ>
和やかに会話をしていると屋敷に着いた。
なかなか付き合いのいい魔物だなぁ。
ちょっと待ってもらって屋敷へ確認に向かう。玄関を開けると、乳母車の中で小さくなって震えているサリオンが見えた。
「どうしたの!?」
びっくりさせないように声を抑えてサリオンに近づき、ナタリーさんに尋ねる。私の声に顔を上げたサリオンは、その勢いのまま乳母車から飛び出して抱きついて来た。
ぐほっ!? ええっ!?何~!??
「わかりません。お嬢様の声が聞こえたと思ったら目を覚ましたのですが、それから震えてます。何もわからず申し訳ありません」
ナタリーさんもオロオロしている。
狼さんには魔力を抑えてもらってるのにな。何だろ?
「サリオン?どうしたの? 白虎にお客さんなんだけど、会って欲しいんだ」
頭をグリグリグリグリと横に振る。じ、地味に痛いんですけど・・・こんなに元気いっぱいで嬉しいんだけど、本当にどうしたんだろう?
あ。
「・・・もしかして、あなた、白虎?」
背中をポンポンとしながら聞くとコクンとした。
「あなたに会いたいって、真っ白の狼さんがそこまで来てるよ」
またグリグリとやられる。イデデ。・・・何だろ? 会いたくないのかな。
「会いたくないの?」
バッとサリオンが顔をあげると、目がうるうるとして口が真一文字になっている。
・・・今までが無表情だっただけにものすごく可愛く見える・・・
いやいや、姉バカしてる場合じゃない。せっかく連れて来たけど、またにしてもらおうかな。あ~あ、ごめん狼さん。
「ねぇ、抱っこしたままでいいからちょっとだけ会わせて? 今日は帰ってもらって、あなたが落ち着いたら会いに行くって言うから。お願い」
しぶしぶと頷いてくれたので、サッと玄関のドアを開ける。
「ごめーん! 何だか機嫌が悪いみたいで、機嫌が直ったら騎馬の民の国に・・・」
狼からふわっとした光が伸びてサリオンを包んだ。
途端、サリオンから力が抜ける。光はまたサリオンから離れて私たちと狼の中間に止まった。光の玉と狼は細い光で繋がっている。
そして、光の玉は小虎の姿になった。
えええっ!? 前より大きくなってる! そして狼を威嚇してる! 何で!?
《やめろっ!》
小虎が喋った!!
《われはまだここにいたいのだっ! ちからをそそぐなっ!》
ブツッという音がしそうな勢いで光が途切れた。
《さりおん! さりおんはぶじかっ!?》
小虎がこちらに駆けてくる。しがみつかないサリオンはさすがに重たいので、座りこんでいたのを小虎が覗きこむ。スヤスヤと寝てるようだし、顔色も悪くない。
小虎がヘナヘナと伏せる。
《ハ~、よかった・・・むりやりはがされたから、びっくりした・・・》
《白虎よ、何故力の譲渡を拒むのだ。この力は貴方のものだ》
狼が唸るように言った。
《いまはいらん。われは、さりおんがひとりでたてるまで、ともにいるのだ》
《何故!?》
《だっこがきもちいいからだ!》
・・・・・・はあ?
《あのあたたかくふわふわとしたのは、きもちいいのだ。おまえたちとはまたちがうのだ。さりおんについていれば、みんながだっこしてくれるのだ》
脱力・・・
何だか狼もそんな気がする・・・
《おおきくなったら、だっこしてもらえなくなる。だから、まだいらないのだ》
・・・・・・明らかに狼が困ってる。
と同時に、一つの疑問が浮かんだ。
「ねぇ、白虎がサリオンを小さいままにしてるの?」
《ちがう。さりおんのこころがちいさいのだ。おまえたちがそばにいるから、いまはおおきくなろうとしている。われのまりょくは、そのてつだいをしてるのだ。さりおんがうまれてから、ずっといっしょだからな!》
得意気に鼻をふんと鳴らし、ちょこんとお座りをしたが、すぐにしゅんとする。
《でも、われがおおきくなってしまえば、うまくわたせぬ。こまかいことは、へただからな。だが、げんぶにまかせるのも、くやしいのだ》
マークが玄関先で座りっぱなしの私からサリオンを抱き上げ、乳母車に寝かせた。小虎はそれを覗きたいらしいが、前足を掛けるので精一杯の様。見かねたマークが小虎を抱っこする。嫌がるそぶりどころかぴったりとくっつく。本当に抱っこがお気に入りなんだな~。
《白虎よ、確かにサリオンはまだ微弱だが、今は生きる意志があるのだろう? 今のお前の大きさでも大丈夫ではないか?》
《げんぶよ、われはこまかいことは、へただ。さりおんを、こわしたくない》
《ならば、お主が慣れるまで我が手伝おう。均等になったら、また一緒になれる》
小虎がぴょっと首を伸ばす。
《ならばたのむ!》
それから、小虎がふわりとサリオンを踏まないように乳母車に乗り、キーホルダー亀様も枕元に置く。
小虎がキラキラと光りだすと、糸の様な細い光が小虎からサリオンへと繋がれた。サリオンもほわりと光りだす。
《・・・何故、人間に肩入れするのだ・・・我らは百年、白虎の復活を待ち続けたというのに・・・》
グルルと後ろから聞こえた。狼の鼻に皺が寄っている。
まあ、怒りが湧くのも何となくはわかる。だけど、こっちだってサリオンを諦める訳にはいかないし、あれだけ懐いている白虎を無理矢理渡す気もない。
狼の前に立つ。クラウスとマークが私の両脇に立つ。
狼の周りの空気がざわめく。
私も魔力を練る。
「百年も待たせて悪いのだけど、もう少しだけ待ってもらえないかしら? 私も弟が可愛いのよ」
せっかく両脇を固めてもらったけど、魔法対決のようだから私だけ一歩前に出る。
《力は・・・持つべき者が持たぬと、狂うのだ》
え。
《我は、白虎の白虎たる力を預かっているだけだ。暴走を抑える為、なるべく眠って過ごした。だが、我も自由に駆けたい! 白虎はもらう!》
狼に虎の模様が浮いたと思ったら、息も出来ない程の風圧がかかる。屋敷の窓がガタガタ鳴る。地面の砂が巻き上げられる。それらが天まで届く。
竜巻。
その強風の向こうで、狼の目が紅く光る。
ワオオオーーーーーンン!!!
遠吠えとともに竜巻が動き出す。
と同時に、サリオンを狙ったのか狼も飛び出してきた。
速い!
黒い影が目の前に迫る。
でも。
バコオオォォンン!!!
私の愛刀ハリセンに叩きのめされ、地べたに四肢を投げ出しピクピクとする狼。
竜巻も消え、平和な空間に戻った。
「私の躾は厳しいわよ」
「・・・そういうことじゃねぇよ・・・」
え? 動物の躾は最初の一発が勝負だってじいちゃんが言ってたんだけど、違うの!? 動物を飼った経験が無いんだけど、え!? 違うの!?
マークが脱力してる。クラウスも残念そうな顔で私を見てる。
「だいたい、狼の言い分は間違ってないと思うんスけど?」
「そうですね。元々は白虎の力と言っていましたし、過分な力は人も魔物も辛いのですね」
「まあ、坊っちゃんを無理に拐うなら阻止しますけど」
「その通りです。ですが・・・」
二人が痛ましそうに狼を見る。・・・うぅ。
「どうにかしてやって下さいよ、お嬢」
決定!? えぇ~っ!? どうにかってどうよ!?
「亀様の様に力を容れられる依代が出来ればいいですね」
「あ、なるほど。でも、亀様は力を制限してくれてますけど白虎のあの様子じゃあ、小分けにって無理っぽくないですか?」
う~ん。と二人で唸る。確かに依代ったって亀様だからこそできてる感じもあるよね~。
あ。
「何か、思い付きましたか?」
「力をそのまま具現化すれば良いんじゃない?」
二人が不思議そうにしてるのを置いて狼に近寄る。
そのまま触れる。 ふあぁ!もふもふっ!!
ごほん。
ええ~と。想像想像・・・・・・よし。
回復の様にまずは私の魔力を狼に注ぐ。少しずつ注ぎながら狼の魔力を探る。
あー、白虎の力って、まんま「白虎の力」なんだ~。これを百年抱えてたのか。そりゃあこんな強大なモノ暴走もするわ。
《何をしている》
あ、お邪魔してます。貴方に負担にならない程度に白虎の力を取りだそうと思って、どんなもんか探ってたとこ。
《我から出れば、白虎に流れるだけだ》
うんだから、貴方と私の魔力も混ぜれば何とかなるかと思うのよ。
《そんな事が出来るのか?》
私、想像だけで色々やってきたから。じゃあ、ちょっとやらせてね。
そうしてしばらく。そっと目を開けた私の前に、真っ白い狼と真っ黒い狼がお座りしていた。おお、白黒に別れるとは。でも概ね予定通り。お互いに見合ってるのが面白いな~。
「じゃあ、貴方がシロウで、貴方がクロウね!」
仮名を付けたもの勝ちとふざけて言ったら、私と二頭がふわりと光った。
え?
《・・・主従契約が結ばれたぞ》
真っ白シロウが呆然と呟いた。
何で!? 真名じゃないのに!
《新しい個体と認識されたのだろう》
真っ黒クロウが言う。
・・・それはもう、誠心誠意、二頭に土下座しました。
適当な名前でご免なさい!!
バァン!という音に振り向くと、
《いまのはなんだっ!?》
と、虎耳と尻尾を生やしたサリオンが立っていた。
細い手足に、ふわもこケモミミ&シッポ。
可愛いっ!! 何あれ!? うちの子可愛いぃっ!!
そこで私の意識は途切れた。
・・・鼻血、出てませんように・・・?
お疲れさまでした。
いかがでしたでしょうか?
もふもふ……難しいですね、甘くみてました…(((((T.T;)
予定していたエピソードが二つしか出来ず、残りは持ち越しです。
もう一話、9才続きます。
またお会いできますように。