続続1話 始まりです。<農地開拓>
次の日から農地の開拓を始めた。
とにかく食べ物の確保! 肉はどうにかなるから野菜よ野菜! かつて畑だった場所を片っ端から耕す。
ちゅどーーん!シュシュシュ!・・・バラバラバラ・・・ちゅどーーん!シュシュシュ!・・・バラバラバラ・・・
地表から三十センチ下、二十メートル四方を、土魔法で真上に吹っ飛ばし、跳ね上がった土と風魔法で刻んだ雑草を撹拌。出汁を取り尽くした骨を粉砕したもの、森から持ってきた落ち葉と土も混ぜて落とす。ついでに畝も作っておく。
魔法スゴイ!何でも出来るな!
少し離れた所で遠い目をしている、侍従長とお付きの二人と昨日のおじさん。
侍女達には領民のお世話を任せて、この四人には種蒔きをしてもらっている。どこまで畑にするか侍従長とおじさんに確認を取りながら魔法の練習を兼ねて地面を爆破、いやいや耕運機になってます。
「お嬢様~、種がもうなくなります~」
もう? 畑部分に食べられる雑草がなかったから予定した場所分は耕すよ。休んでて~。
全部終わらせ、種蒔き後の畑に水魔法で雨の様にサワサワとたっぷり水を撒いてから私も休憩にまざる。
「お嬢さんすげえな。魔法をこんな風に使うの初めて見たわ~」
「私も、つい一ヶ月前に使えるようになったばかりよ!「は?!」自分でやっててビックリしてる! ねぇ、成長促進の魔法ってないかしら? 八割の出来なら食料として十分に使えるわよね? 他の野菜も早く欲しいし、一掴み分の種はどれくらいの豆で交換してもらえるかしら?」
おじさん改めニックさんは初めての魔法にまだ呆然としている。
いやいや使い方おかしいでしょと言う護衛改めマークの突っ込みは無視。
確かに夢が崩れたわねという侍女改めルルーの呟きも無視。
「魔法に関する書物が先代様の書斎にありましたので確認してきましょう。お嬢様はしっかりお休み下さい」
言うが早いか侍従長改めクラウスは颯爽と屋敷に向かって行ってしまった。私の為に色々と調べてくれる。
ざっくりと聞き込みをしたところ、現在この領には私しか魔法の使い手がいない。薄い本で培った想像力を駆使してそれらしく使っているが、魔法って何となく原理とか理屈が理解出来れば応用が簡単な気がする。そしたらもっと効率よく出来るはず。夢が膨らむわ~!
ヘラヘラとしているとマークに抱え上げられ、そのまま抱っこされた。
「うわっ!」
恥ずかしい~! 一応5才だけど意識は23才なんだよ! 降ろして~!
「今日は午後から領地まわりでしょ。お嬢のおかげで畑が早く終わったからお昼まで寝ようぜ。クラウスさんがしっかり休めって言ってたしさ」
「だからって何で抱っこなのよ!」
「チビはこうした方が早く寝るから」
「は?!」と反論を始めるはずが急激な眠気に襲われ意識を手放す。恐るべし、抱っこと背中トントンの組み合わせ・・・あ~、うん、気持ちいいわー・・・ぐぅ。
屋敷に戻って大広間でお昼を食べている時にクラウスが成長促進魔法を見つけてきた! 主に花を咲かせるものらしい。やった~!と騒いでいると、その魔法を子どもの時に見たというおばさんがいた。
大道芸だったから、早く成長させたりものすごく大きくしてみたり、ポンと音がしたら空から花びらがたくさん降ってきたりしたと楽しそうに教えてくれた。
いいね!いつかそんなお祭りをしよう!
気がはやったけど午後は領地まわり、というか、家々の解体作業をする。いつまでも広間に雑魚寝でアレなのでベッドを作ろうと言ってみた。
木から木材を作ってみたくての発言だったのだけど、それだったらうちを解体してその木材を使ってくれとニックさんが言った。一人の家にはいたくない、お嬢さんの許す限り屋敷に置いてくれと。それを聞いていた他の人たちも自分もそうしたいと言う。
屋敷の金目の物はあらかた売ってしまって(モチロン両親の物も。ウフ)部屋もいくつか空いたし、合宿所みたいに男女で分けて大部屋使えばいいかな。
解体してもいい人は午前中に荷物を回収してもらう。午後から動ける男衆は解体とベッド制作。女衆にはこの間買った布で服を作ってもらう。とにかく着替えを作って欲しい。皆着た切りすずめだから洗濯も出来ない。いい加減臭い!肌も荒れちゃう!
午前は畑、午後は色々と製作、夜は進捗報告と改善提起。とにかく毎日大広間で皆で過ごした。
実験の結果、成長促進魔法は花を咲かせるまでで実をつけることはできなかった。花が咲いたものにそのまま魔力を注ぐと何故か枯れてしまう。本にも載ってない。悩んでいると一人のおじいさんが受粉は魔法ではできないのでは?と言った。
なるほど!『受粉』は『成長』ではないね!
受粉を手作業でするか、風魔法でどうにかできないか、虫を使うか、とにかく何が有効かを確かめようとまとまった。早く作物を実らせなければと焦る私に、さっきのおじいさんが笑った。
「お嬢様のおかげで半年かかる作業が一週間で済んだ。半年腹を空かせるのは辛いが、一週間なら何てことはないよ」
ああ。
おじいさんに抱きつく。
「死ぬまでこき使うから、毎日お腹いっぱい食べさせてあげるわ!」
それは楽しみだと皆が笑った。
結局、受粉は蜂を使うことにした。手作業では進まず、風魔法でも吹っ飛ばし過ぎてダメ。森から見つけてきた蜂を畑一つ空間ごと区切って半日放ったのが一番よかった。その間に別の作業ができる。そして蜂蜜も出来そう!養蜂できる人がいて良かった!
受粉がすめば成長促進魔法を使う。まあまあの出来だと思ったので試しに夕飯に皆で食べた。感想は『普通』。普通だ!豆だ!と、やっぱり笑いながら食べた。
豆を収穫出来るまでにベッドが人数分出来たし、服も全員一着配られた。屋敷にあったシーツはとっくにオムツと産着になっている。
大広間での夕食後の定例会議。
別室に子供達が移動するのを待ってから会議を始める。議論が白熱した時に、ケンカはやめてって泣かれた事があってからは別室に隔離。大人の話なんてつまらないしね~。
と言ったら大人達に半目で見られた。見た目5才児ですが何か。
「よし。いくつか目処が立ったのでこれからの収支は二重帳簿をつけようと思う。王都の両親には領地の回復を知られたくない。あの人たちにはずっと貧乏領地と思わせておきたいわ。こちらに帰って来ることもないだろうからこの間に稼ぐわよ!」
豆は八割収穫、二割は種にしてまた蒔くことに。枝なんかはそのまま土に巻き込み肥料代わりに。食用の野草も植えて増やす。薬草もいくつか見つけたのも畑で育てる。ベッド制作で出た廃材は薪に、その灰は畑に。棄てるものは極力少なく。
畑作業を作物ごとに分担したのを皮切りに、狩猟班、薬草加工班、服飾班ができ、私はそれをチェックしつつ、マークにルルー、クラウス、ニックさんにまで抱っこで昼寝をさせられながらフル稼働で過ごした。
そして半年経っての年越し。
こちらの世界も四季があり、一年の終わりと始まりは冬。日保ちのする根菜をガンガン作って土地を酷使した自覚はあるので、冬越え用の野菜を魔法を使わず普通に植えた。土地を休ませるのもいいが、食べきれないのは肥料にするから、無駄ではないとのこと。
今年は小麦を作れたのは良かった。主食がないとつらい。贅沢を言えば米が食べたい。余裕ができたら作ってみよう。塩と砂糖も作れればいいんだけどな~。あとお酒かな~。あ、米っていったら味噌と醤油もだ。今更ながら、野菜の種類とか昆虫や動物も前世と大きく変わらなくて助かったわ~。
つらつらと呟いていたら「お嬢様の欲は際限無しですか」とルルーに突っ込まれた。まぁその欲のおかげで蜂蜜クレープが出来ただろう、感謝するがいい!
クレープにハチミツをかけただけだけど。
初めて食べた時の子供たちの顔が忘れられない。もっと色々なお菓子を食べさせてあげるからね! 年越しのお祝いにとまた作ったけど、毎日食べられるように頑張るよ!
畑作業が少ない内に水路と道路と貯水池の整備をした。どこぞの領地の水路工事に出稼ぎに行ったという人達がいて良かった~。下水も作業経験が有るとのことで、あーだこーだと設計図をあげ、ついでに屋敷に大風呂を作った。森を削ってしまったけど、間伐を兼ねたから生態系は崩れてないはず!
作業用の農具や工具も一新。といっても、かき集めた農具などの鉄部分を魔法を使って溶かして、鍛冶職人に打ち直してもらったのだ。数は少なくなってしまったがなかなかの物になったとか。マークの剣まで溶かしたから泣かれたけど。余裕ができたら剣の一本や二本買ってあげるわよ!それまで棍棒で我慢して!
・・・しかし、こんなに職人が残っててくれて良かったわ~。お祖父様にはカリスマがあったのね~。お父さまは何を受け継いだのかしら?
さて、これからのことだけど。
今夜も大広間での定例会議。
「うちって基本、自給自足で賄ってきたみたいだから他所に売り出す物が思い当たらないのよね。なんかある?他所にない、うちだけの珍しいもの」
「お嬢じゃね?」
おいコラ、マーク。あれ?何で皆頷いてるの?
「でも、お嬢様を売ってしまったら経営が立ちいかなくなるわ。もっと余裕ができてからでないと」
ルルーさん?私を売るのは有りなの?
「いっそその魔力を使って世界征服したらいいんじゃないか?」
ちょっとニックさん?私に何をさせたいの!?
「お嬢様ありきで考えるならば大道芸もよろしいかと・・・」
「ついには芸人?!クラウスまで! 皆私をどう思ってんの!!」
「「「「「「 貧乏領地の変人令嬢 」」」」」」
・・・・・・・・領民の声ってこんなに揃うもの? 仲が良いわねアンタ達・・・・・
・・・まあ、笑ってるからいいか。