19ー『うまいルルンデ』
遅めのお昼だったから、店も混んでなくて良かった。
『うまいルルンデ』の広いテーブル一杯に、色んな料理が並んだのだ。
「沢山食べて下さいな」
美味しそうな、メロンソーダ色した髪の奥さんが両手いっぱいに料理を持ってきてくれた。
片方で編んでいる髪に、エプロンと同じ色のバンダナの様な布を三角巾代わりに巻いている。
そこから出ている少しカールした後れ毛と、茶色の瞳の直ぐ下にある小さなホクロが、ちょっぴり色っぺー奥さんだ。
「おばあちゃん、美味しいわよ」
「あらあら、こんなに沢山。頂きましょう」
お野菜沢山のクリームスープにこんがり焼いた肉、キノコが入ったホワイトソースとトロけるチーズのグラタン、シャキシャキのサラダに焼きたてのパン。
どれも、美味しそうなのだ。
俺はやっぱり、最初に肉を一口大に切って食べる。お肉が柔らかい。このソースは美味しいな。甘くなるまで炒めた玉ねぎがたっぷり入っている。赤ワインを使っているのかな?
「うまうま」
「美味しいですね」
「ロロ、グラタンも美味いぞ」
「うん、にこにい」
俺の両側はいつもの様に、ニコ兄とレオ兄だ。レオ兄が、俺が食べやすいように切ってくれる。
「れおにい、ありがと」
「いいよ。沢山お食べ」
「うん」
ピカも大きなお皿にお肉を入れてもらって、わふわふと食べている。
嫌な事があったから……美味しい食事で忘れよう。
「ねえ、レオ。明日早速ピカを登録しない?」
「そうだね。でも、ピカはロロが飼い主だし」
「ロロも一緒に行ったら駄目なの?」
「だってロロはまだギルドカードを持っていないからなぁ」
「カードがないと登録できないのかしら?」
「ん〜……僕がギルドマスターに相談している事もあるんだ。だから、取り敢えず明日はギルドマスターに聞いてみるよ」
「そう?」
「だからロロ、ピカ。明日はあまり外に出ないようにね」
「うん」
「わふ」
なんだか物騒なのだ。今迄1年間、何も無かったのに。それに無理矢理連れて行こうとしても、ピカは強いから無理なのだ。
ピカの話をしながら食事をしていると、俺が肩から斜めに掛けていたポシェットの中から小さな声がした。
「キュル……」
「あ! ロロ、忘れてた」
「ほんとら。ちろ、ごめん」
「ああ、ロロ。出したら駄目だよ。僕がこっそりあげるから」
「れおにい、しょう?」
「チロは蛇だからね。気をつけないと」
レオ兄が俺のポシェットに入っているチロに、薄く切った肉を食べさせてくれたのだ。
ずっと忘れていた。ごめんなさいなのだ。
「でもチロはおとなしいな」
「うん。まら赤ちゃんらって」
「ロロ、そうなのかい?」
「うん。ピカが言ってた」
本当は泣き虫女神が言っていたんだけど。
「そう。もしかしてチロも普通の蛇さんじゃないのかもね?」
「しょう?」
「そんな気がするよ」
その通りだよ、レオ兄。ピカもチロも、泣き虫女神の神使なのだ。これって、ギルドマスターとかにバレちゃうか?
それをあの女神に、聞いておけば良かったのだ。
「ねえ、おばあちゃん。前に教えてもらったハンバーグあったじゃない? とっても好評なのよ」
「あらあら、あれはロロ坊ちゃまが食べたいと言って作ったのよ」
「うまうま」
俺は一生懸命食べるよ。食べるのにも体力が必要なのだ。よぉく噛んでモグモグと食べる。
「ロロ、美味いな」
「うん。うまうまなのら」
マリーの手料理も美味いけど、ここのも良いな。偶に外で食べるのも良いのだ。
「ロロ坊ちゃま」
「ん? まりーなぁに?」
「ハンバーグですよ。評判が良いんですって」
「おぉー」
マリーの作ったハンバーグは美味いのだ。中にトロけるチーズが入っていて、トマト風味のデミグラスソースが掛けてある。
パン粉を混ぜる前に、たっぷりのミルクに浸しておくのがポイントだ。
俺の大好物なのだ。
「あらあら? ロロ坊ちゃま覚えてませんか?」
「なぁに?」
「ハンバーグはロロ坊ちゃまに教えてもらったのですよ」
「しょうらっけ?」
全然覚えてないぞ。でも、美味いからなんでもいいのだ。
「うまうま」
「はい、美味しいですね」
「わふ」
「ピカもうまうま?」
「わふん」
うん、平和でいいのだ。
「アハハハ、ロロは呑気だね」
「レオ、ロロは可愛いのよ」
会話になっていないぞ。
「どうだ? 美味いか?」
『うまいルルンデ』のご主人が厨房から出てきた。デザートのプリンを持ってきてくれたのだ。
「とっても美味しいわ」
「そうだろ、そうだろ!」
「ぷりんら!」
「おう、ちびっ子。食べな、美味いぞ」
「ありがと」
「ロロ、美味そうだな」
「うん、にこにい」
「私にもちょうだい」
「姉上、ちゃんと人数分あるから」
「それにしても、デカイ犬だなぁ」
ご主人がしゃがんでピカを見る。
「わふ」
「お、挨拶してくれてんのか? 沢山食べたか?」
「わふわふ」
「おぉー、ちゃんと返事してくれてるぞ」
「ぴか」
「ん? なんだちびっ子」
「なまえ、ぴから」
「デカイのに可愛らしい名前だな! アハハハ」
ご主人がピカの頭をガシガシと撫でる。料理人なのに、筋肉がハンパない。
二の腕なんて、今の俺の腰位あるんじゃないか? て位にガッシリとしているのだ。
あれか? 料理も体力勝負なのか?
ブラウンヘアーを超短髪にしていて、白い布を鉢巻きのように巻いている。
マロン色の涼しげな瞳も、精悍さを引き立てている。どう見ても、体育会系だ。
奥様はちょっぴり色っぺーのに、ご主人はガチムチなのだ。
あの腕にぶら下がれるだろうか? きっと、俺みたいなちびっ子なら楽勝なのだろう。
「気をつけなよ。もう噂になってるからな」
そのご主人が、声を抑えて教えてくれたのだ。
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