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秀吉の遺言  作者: 鳥越 暁
徳川家の衰退
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政宗、義宣の解放

 「これは政宗殿、義宣殿。こたびは徳川にお味方しているというのにとんだ災難でござったな。お体の方は大丈夫でござろうか? 」


 江戸城のある一室で上杉景勝ら豊臣方武将の前に、伊達政宗と佐竹義宣が引きだされていた。敵味方の将達である。ましてや景勝にとって両者は上杉領に侵攻している目前の敵でもある。


 「景勝殿、助け出していただき忝い。」


 政宗が以外にも素直に頭を下げた。政宗は『奥州の暴れん坊』などと言われているが、武将の矜持を持ち合わせていてのべつ幕なしに粗野な行動をとる訳ではない。


 「政宗殿同様、某も感謝いたしまする。」


 義宣も政宗同様に頭を下げた。その上で現在の状況の説明を求めた。


 「景勝殿。いまいち状況が分からぬ。申し訳なき事なれど、どうなっているのか教えて下されぬか。何が何だか儂らにはさっぱりなのじゃ。」


 その言葉を受け、景勝は両者が監禁されてからの事、家康の葬儀での事から順を追って説明した。両者は秀忠が秀頼の籠る八王子・龍光寺に向けて兵を出した事を知った時は一瞬驚いた顔をしたが何も言わなかった。景勝も私見を入れずに知りえる事実だけを淡々と述べたのだ。


 景勝の説明が終わると、政宗、義宣両者はしばらく黙って何やら思考しているようだった。景勝は両者が状況を理解するのを待った。


 「景勝殿。それで我らをどうなさる? 再び捕えて秀頼殿に引き渡すか? 」


 政宗は自分達の立場を理解し、率直に尋ねた。


 「いいえ。ここにおる諸将とも談合した結果、政宗殿、義宣殿、御両者はどこぞへと行かれるがよろしかろう。決して追わぬ事を約しましょう。それから直に御両家の者が来ます。」


 景勝は笑顔で両者に告げたのである。


 政宗、義宣は困惑していた。上杉景勝の米沢領へ侵攻し、家康の葬儀の直前まで刃を交えてきたのだ。義宣に至っては、いまだに米沢領内に兵を置いている。解き放ったところで豊臣方武将達の利が見えないのである。豊臣方に誘うでもなく、捕えておくでもなく、ただ解き放つという事に違和感を覚えた。


【何か策があるのか。何を企んでおるやら、分からぬわい。】

 そう思う政宗は思い切って聞いた。


 「景勝殿のお話しはよう分かり申した。しかし、何故でござろう。我らを解き放って何の利があるので? ここから出た我らがすぐに兵を纏め、米沢を攻めるかもしれないのですぞ。景勝殿はこの江戸城を動けますまい。我らにとっては米沢を狙う絶好の好機。…… それを何故? 」


 すると景勝はにやりと笑うと、こう答えた。


 「ご理解されないかもしれませぬな。しかし、例え米沢が攻められる事になったとて御両者を恨んだりはいたさぬ。この乱れた世ではいたしかたのない事。御両者には分からぬでしょうが、我らは秀頼様に忠誠を誓っており申す。上辺だけではなく、この世を纏めるにふさわしいお方と思っております。徳川と戦をしておるのですから、調略の手を伸ばす事はありまするが、騙したり弱みに付け込んだりはしたくないのでござる。あくまで正道を行き、豊臣の世を作るのですよ、我らの手で。」


 景勝の返答に両者は何も言わずにいた。何も言えなかったと言えるかもしれない。


 そうこうするうちに伊達家、佐竹家の者達が政宗、義宣を迎えに来た。政宗、義宣は丁寧に礼を述べて去っていった。



 「本当に良かったので? 」


 明石全登が二人の坐していた辺りを眺めて言った。


 「あれでいいのでござるよ。確かにこちらに引き込む手もござったが、特に義宣殿にはご入道殿が出向き話は分かっておられるはず。そのご入道殿は義宣殿の配下の者の手によりこの世を去り申した。何があったかは分かりませぬが、ご入道殿は義宣殿の心にきっと種を植えておるに違いないと儂は思っております。政宗殿は野心家ですからどうなるか分かりませぬが、いずれにせよ我らが一つ貸しを作ったということです。」


 景勝は笑っていた。


◆       ◆       ◆       ◆


 ちょうどその頃、龍光寺を囲む秀忠達の元に江戸城が攻められ陥落した知らせが届いた。秀忠に従っていた諸将達は驚きを隠しきれなかった。


 「上様、いかがされるので? すぐに引き返し江戸城を取り戻すべきでは? 」


 蒲生秀行が秀忠に問うた。

 しかし、秀忠は少しも慌てる素振りを見せることなく、落ち着いていた。


 「無駄じゃ。あの城の固さは儂が一番分かっておる。中に籠りしは上杉景勝、里見義康、真田の隠居爺らと聞く。ならば我らが向かったとて無駄じゃ。奴らを相手にするには十万の兵で当たらねばならぬだろうて。それに今引き返せば背後を秀頼殿に突かれるわ。」


 「ならば、どうなさるので? 」


 「分からぬ。分からぬからそなたも知恵を出せ。儂も考える。それまではここを動かずにいる。他の者にもそう伝えよ。」


【江戸城が落ちたということは、留守をしておった正信は死んだということか。あの者は口煩かったが、誠の忠臣だったの。】

 秀忠は本多正信の事を思い、江戸城の方へ体を向け手を合わせていた。





      この後、秀忠はある決意をすることになる……。

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