聖女の新しい魔法は密室結界
『こうしてゆっくりと話すのは久方ぶりであるな』
『ああ、そうなるな』
部屋の中心にあるベッドに二人。腰を掛けて座り、昔話に花を咲かせるのは、この世界の勇者と魔王だ。
『しかし、良い感じの棒を見つけては振り回して怒られてた村一番の悪童が勇者とはな』
『うるせー。お前は本ばかり読んで、村の奴にヒョロヒョロのスケルトンとか弄られてたじゃねえか』
『ハハハ、そういう時もあったな』
『しかし、今、俺らぁ勇者と魔王だ』
『互いを守る為に、その選択をしたとは驚きであったがな』
それは神のいたずらであった。双方に天啓を与え、断れば友の命を絶つ。抗い様の無い運命に、二人は翻弄され、それでも必死に友を想い、かばい合ってきた。
しかし、悲運の勇者と魔王は対峙する事になってしまう。覚悟を決め決戦の舞台に立った時、突如密室の様な結界に閉じ込められてしまったのだった。
『魔王、いやライ。俺は、お前の事が好きだ。頭いい所も、仲間想いの所もな。だからこの運命、受け入れてもいいと思ってる』
『エド。お前は勇者になっても真っすぐなお前のままだったな。そういう所、私も好ましく思っているぞ。お前の想い、私も付き合おうじゃないか』
二人の心と身体の近づきと共に、部屋の明かりが徐々に暗くなっていく……
◇
「聖女様、こ、これは一体」
「ん? 結界魔法だよ? まあ密室みたいなもんだね」
侍女の私は今、困惑しております。
勇者様と魔王様の決戦と聞くや、飛び出していった聖女様。追いついてみれば、まさにお二方を結界に閉じ込めている状態。
「ところで、聖女様のお声だけ聞こえますが、一体どちらに」
「ここだよ、ここ。小窓から見えるでしょ」
「……か、壁と一体化されているのですか?!」
「ちょっと待って、今良い感じになる!」
結界の小窓から漏れていた明かりが徐々に暗くなってきました……
◇
「いやー、良い物を見せてもらった」
「い、一体どういう事なんです?」
無事?結界から出れたお二方は、恋人繋ぎで戻られていきました。
「私、作り出しちゃったんだよね、新しい結界魔法。名付けて『BLしないと出れない密室結界』」
「え、えええ!?」
あんまりです。聖女様とはいえ、こ、こんな横暴が許されるのでしょうか。侍女の私が知らない所でこんな事を進めていたなんて!
震える体を抑え、乾く喉を奮い立たたせ、侍女という立場を越えて、私はハッキリと聖女様に言わねばならない。
「こ、今度は私も壁にしてくださいッ!」